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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:最後の夏休み
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宿題の代償

 夏休みも残り2日となり、赤点を4つも頂いたなぎさは、俺の部屋で一夜漬けを敢行かんこうしていた。

 此花女学院の宿題は赤点を取った分だけ頂ける仕様で、赤点のない俺、雛、楓お姉さま、は紅茶に口を付けながら観戦している。

 ただ、雛でさえわかる問題を間違えているのを見て、居た堪れない気持ちになったのは言うまでもない。もうあれだよ。凛ちゃんを呼んで面倒見てもらったほうが現実的に思えてくるレベル。


「ダァーーーーーー」


 某プロレスラーさんのモノマネをするなら、カウントが必要だよ。無断で某国に行って非難殺到から音沙汰ないけど。


「よく今まで放置出来たよね」


 中等部の雛がこうだったら、俺も教えながら面倒見るけどさ、高等部、それも妹を持つ人がこれでは姉としての面目は保てるのか心配になってくる。

 ショートパンツにノースリーブって、完全になぎさが寝間着としている服装。って、今日は泊まっていくのかな。そうなるとまた雛が「私も泊まるのですっ!」と言い出しかねない。嫌ってわけではないけど、さすがに床に寝るのは辛いです。


「まぁねっ!?」


 誰も褒めてないんですけどね。


「それにしても、これ。終わるのかしら」


 1つのプリントの束を持ち上げてペラペラ中を確認する楓お姉さま。やっぱ女王様の風格お有りです。

 1教科、約10枚ほどあるので、最低でも40枚の束があるわけ。それを一夜漬けで終わらそうなんて絶対に不可能。それに2日で40枚を片付けるのも俺には無理だ。


「ねぇ……幸菜?」


 ウル目、上目遣い、胸元に隙間を作ってお色気。そして謎の疑問形である。いや、謎だから疑問形なんだけど……俺の脳内CPUがオーバーヒート寸前。こんなことでダメなるCPUでごめんなさい。

 って、自虐ネタしてどうするんだろう。

 もうなにを言いたいかわかるから、ちょっとオトイレ。お花を摘みにいこうかと思うんだ。

 ウルウル。グッスン。捨て猫を見つけたら、放って置けない性分の俺には、今の状況はとてつもなく辛い。

 こうワシャワシャしてあげたくなるんだよね。

 そうしたら情が移ちゃって、家に連れて帰ったらお母さんに戻してこいと言われたときは涙が出た。

 だけど、翌朝になってお母さんが「これ、あげてきない」って、食パンを持たせてくれたのもいい思い出。

 1歩踏み出したら、ズボンを掴まれた。

 ウルウルウルウルウルウルウル……以下略。


「な、なにかな?」


 ウルウルウルウル。


「わかった! わかったからやめてっ!」


「やったね!! じゃあこれお願いね」


 って、半分以上も渡してこないでよ。

 優しい妹は紅茶の次はコーヒーを2つ用意してくれる。


「では、就寝時間ですので」


「私も部屋に戻るわ」


 2人が部屋に戻るので、なぎさも1度部屋に戻り、点呼を終えてから戻ってくることになった。

 雛と楓お姉さまを見送り、部屋の机に残されたプリントを見て、間違ってるけどやり直ししている時間がもったいないから言わないでいようっと。

 先に少しでも終わらせておいたほうがいいと思い、なぎさが来るまで数枚のプリントを終わらせておいた。

 なぎさが来て宿題を前にして一言。


「ホント、宿題なんて無ければいいのに」


 赤点なんて取らなかったらいいのに。

 それに付き合わされる俺の理不尽には、なにも触れないんだから自分勝手もいいところ。


「いいから手を動かそうよ」


「そうだけど……やる気しなくない?」


 赤点取ってる人間がいう言葉じゃないと思うのは、俺だけじゃないはず。

 なんか俺もやる気なくしてくる。

 そして1時間後には、俺となぎさの手は完全に止まっていた。

 雛が入れてくれたコーヒーも飲み干して、飲み物すらなく摘めるお菓子もない。そんな状況で友達の宿題をやるのは苦痛でしかなかった。


「ねぇ。どうやったらやる気でると思う?」


 なぎさはベッドにダイブしてるし、俺は床に大の字になっているので、どうすればやる気が出るか。を検証してみることに。まず候補になったのが物で釣るという、妖怪時計なのかウォッチングをかけたのかわからないけど、それが欲しい小学生のような気がしたので却下。

 じゃあ晩御飯を豪華に……いやいや、すでに豪華絢爛ごうかけんらんです。夕食にフランス料理などが登場してますし。


「わかった! それじゃあさ、朝までに終わればデート行こう!!」


 うん。そうしよう!? とこっちの意見は聞く気がないようで、だからといって、やる気になったなぎさを無碍むげに出来ないので、なにも言わずに黙っていることにした。

 さすがにお昼も寝ていないので、深夜2時にもなれば眠くなってくる。向かいでせっせか手を動かす赤点少女を見て、俺も頑張らないと。なんて思えてくる。俺の宿題じゃないんだけどさ。

 こうして、なぎさ。だけのやる気が向上して、朝を迎えた。

 現在の時刻は朝の5時。

 不眠不休とまでは言わないけど、徹夜明けのテンションはいつにもましてハイであることが多い。


「終わったぁあああああ! デートだぁああああ」


 そんなテンションはただ1人で、俺は瀕死の重傷を負ったカモシカさんのようにグッタリ。寝てないんだからそりゃそうなるだろうさ。1名を除いて。

 大事なので2回言っておく。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、なぎさはプリントをかき集め、グシャグシャになってもどこ吹く風。


「8時30分に駅に集合ね。後、男の刹那で待ってて」


 それじゃあ! と、可愛らしくウィンクをしながら敬礼して、ベランダへと消えていった。

 ホントにこっちのことはお構いなし。まぁ今から寝たら、明日の始業式に起きれないかもしれないからいいけどさ。




 駅のトイレで着替えて、あまり目立たないように券売機の隅で待機。現在の時刻は9時を回っているのに……。

 しかも、学院の警備の人に「カバン重たくないですか?」って、いきなり言われて中身が普通の物だったら驚くこともしなかったんだろうけど、男服だから背筋が伸びて固まっちゃったよ。

 動悸、息切れ、尿漏れまで起こしそうに。

 警備員さん。カバンより養命酒をお願いします。


「だ、だ、だ、大丈夫ですっ! それではごきげんよう」


 きちんと笑えていたかわからないけど、足早に警備員室を通り抜け、駅へと向かった。後、だから出来るだけ早く来て欲しい。

 学院御用達の街までのシャトルバスが通り抜けて行く際に、見慣れた顔が俺を見つけてなにやら話し込んでいる。

 そりゃぁねぇ。こんな辺鄙な田舎駅の前で、男の子が待ちぼうけていたら、噂になってもなんら不思議ではない。


「ごめーん。待った?」


「40分も待ったよ」


 バスが通りすぎてから10分後ぐらいにやってきた。

 少女漫画的な展開を期待したんだろうけど、俺には通用しない。というかさせない。


「ノリ悪くない?」


 ワザと遅れてきたセリフ。女の子ってさ、どうしてこうも架空のストーリーに憧れるのか。

 俺には理解できない領域。


「ノリはいいから、どこ行きたいの?」


 なぎさは考えることもせずに


「水族館行きたい!!」


 と、行き先は簡単に決まってしまい、電車で1時間かけて向かうことになった。

 女装して女学院に潜入していても中身は男の子。さすがに女の子にお金を払わせるのは……。昭和な考えなんだろうと思うけど、なぎさも何も言わないのでまぁいいか。

 閑古鳥が鳴いていても不思議はない車両に乗り込み、お母さんに抱かれて眠っている赤ちゃんを見て「可愛いね」と、言うとお母さんがニコっと微笑んでくれる。


「抱いてみます?」


 セミロングが特徴で、陽が髪の毛に当たれば染めているのがわかる髪色。白のワンピースが似合うお母さん。一目惚れしてしまってもおかしくない。てか、してるかもしれない。

 それほど美しく、整った顔立ちをしている。


「抱いてみるー」


 うん。気を使うとか遠慮するとか覚えて欲しいけど、無理なんだろうなぁ。だってもう抱っこしちゃってるし。

 ちょうど隣の席が空いているので、電車が発車する前に座らせ赤ちゃんの安全を少しでも確保しておく。

 お母さん(人妻)(若妻)から抱っこの仕方をレクチャーを受けているなぎさから、母性本能が湧き出ているのか、いつもよりも大人っぽい色気を感じる。

 服装は半袖のTシャツにダメージの付きのGパンなんだけどね。


「彼氏さんも抱いてみます?」


「え、いいん……」


 ん? 今なにか思いもよらない言葉を聞いたような。


「はい。刹那」


 なぎさから赤ちゃんを受け取るけど、どう抱けばいいのか。なぎさに見惚れてなにも聞いていなかった。


「右手はこうで……左手はこう……」


 いつも触っている手なのに、今はいつもと違って変に温かく感じる。ドクンっと跳ね上がる鼓動。


「お父さんみたいですよ」


 お母さん。お世辞でもそう言われると惚れてしまいます。どっちにも。

 そんな馬鹿なことは閑話休題して、赤ん坊というのは、簡単に潰れてしまいそうで抱っこしているだけなのに、変な部分にまで力を加えてしまう。

 2人の幸せが詰まっている愛の結晶を抱っこさせてもらっているんだから、力まないほうがおかしいのかも。

 俺にもなぎさにもこのような時期があったんだよなって思うと、感慨深いモノでなぎさの赤ちゃん時代を想像してみると、親御さんを困らせているところしか想像できない。

 とても元気で手足をバタつかせて「ここから出せぇ~」って泣き喚いている、そんな想像。

 だけどこの子は、なにか物足りないのか俺が抱っこしているとグズり始めてしまう。なぎさと同じようしているのに……。


「もう貸して」


 ソッと渡すと納得行くなにかを手に入れたのか、指を咥えてスヤスヤと愛くるしい寝息を届けてきた。

 いつかは俺にも子供が生まれてお父さんになるんだろう。けど、この様子じゃあ……。ちょっとショックだな。

 眠っている赤ちゃんに色々と話しかけては、クスクス笑う普段では見せない顔がすぐ側にある。


「いつもそうやってたら女の子らしいのに」


 と、胸の中で呟く。

 見た目は女の子だけど、仕草は男に近い。だから、出会った当初から親しみやすかったんだけど。


「どちらにデート行かれるんですか?」


 この人は俺達をカップルだと思っている節があるので、この辺で誤解を解いておいたほうがいい。俺の精神衛生上、『彼氏』と言われるのがむず痒い。


「俺達は」


「水族館! イルカのショー見に行くの」


 俺の言葉を遮ってなぎさが答える。

 お母さんも「シーワールドですね」と、向かっている方向から場所を特定したようで、旦那さんとのデートで1度行ったことがあると昔話を披露していく。

 なぎさの凄いと思う所だ。

 今、出会ったばかりだと言うのに仲良くなれる技能。いや、異能!

 ごめんなさい。

 かっこ良く言い過ぎました。

 色々と喋って、お母さん達が降りる駅に着いたので、赤ちゃんをお返しして、さよならっと手を振って降りていった。


「可愛いねぇ。もし結婚したら何人欲しい?」


「やっぱり男の子と女の子は欲しい」


 親子でキャッチボールとかおままごとに付き合ったりとか。憧れるよねぇ……。


「それわかる。1人は長距離で、1人は短距離だよね!」


 どっちゃでもいいよ。

 そんな、どうでもいい会話を続けて俺達はシーワールドへと進んでいくのであった。

 まぁ、隣の車両から見知った顔を3つ見つけてはいるんだけどね。

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