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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:恋の形
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友達の作り方

 寝坊をしたわけではない。

 朝の7時に目覚ましが鳴り響いて起きたら、雛子ちゃんが居なかった。綺麗に畳まれたパジャマが置かれていて、ここに遺書でもあれば……不謹慎なことを考えるのはやめるとします。

 パジャマ姿のまま下に降りる。

 家ではほとんど付けないBHKのニュース番組の音が聞こえてくる。あの独特なテンポから繰り出されるニュースの数々が、うちの家には合わないようだ。

 ニュースといえば、お悔やみ申し上げるのはいいんですけど、あの後に「さぁ、見てください! この可愛いワンちゃん達」など、いきなりハイテンションになると気持ちがまったくこもっていないのでは? と、勘ぐってしまう。

 リビングのドアを開けて、唖然としてしまった。

 雛子ちゃんの隣には、黒と白、それにロングスカートが標準装備されているメイドがいた。あの中村と名乗った花園楓専属のメイドが。


「お邪魔しております」


 綺麗に腰を折り、優雅に一礼してくるあたり、世界に名の知れた家柄なのだと実感させられる。


「許可は刹那様から頂いております」


 私の心を見透かしたように言ってくるあたり、喧嘩を売っているようにしか思えない。

 朝から高血圧で倒れてしまいそう。

 ふらふらとした足取りで椅子に座ると、待ってました。と言わんばかりに、紅茶がテーブルに置かれる。


「雛子ちゃん。ありがとう」


 可愛らしく笑ってくれてから、作業の続きに戻る。

 1口啜ると口当たりが良く、ほのかに甘い、それでいて紅茶特有の苦味が後からやってくる。すみません。あまり紅茶を飲まないので、おいしいモノなのかどうかはわかりません。


「雛さん。寝ている方々を起こしてもらっていいですか?」


 ビシッと敬礼して、リズミカルな足音で上の階へと向かっていった。エプロン姿のままだったのは受けを狙ってのことなのか、それが普通なのか。

 2人っきりという過酷な現状にどう立ち向かうべきなのかを自問自答。結果、黙っているのがいいと判断。

 無慈悲な……が好きな某国と同じ対応をすればいい。

 テーブルに朝ごはんが並べられていく。

 私はただ紅茶を飲み、その作業をただ見続ける。

 上からドンっと大きな音がしたけど「いつものことですので」と、まったく気にせずテキパキと手を動かす。

 お味噌汁にシャケの塩焼きにお漬物。それが今日の朝ごはんのようだ。


「うぎゃぁあああああああああああ」


 と、刹那の叫び声が家の中を駆け巡る。


「これもいつものことですので」


 立ち上がろうとした私を静止するように言ってくる。


「学院ではこれが日常なので、慣れて下さいね」


 お嬢様が集う学院と聞いていたけど、なにか勘違いをしていたのかもしれない。

 メイドが慣れろと言ってから数分は待ってみたけど、逆に音沙汰が無いのが怖く、やっぱり見に行くことにした。

 客間の前に雛子ちゃんが立ち尽くし、ただ呆然と観察というか考察しているというか……。

 私も隣に行って唖然とした。

 刹那がチョークスリーパーと4の字固めを決められた状態で、もがき苦しんでいたから。


「これも日常なの?」


「に、日常と言いますか。楓お姉さまだけなのは日常なのですが、なぎさ様も加わるのは初めてなのです」


 完全に目が閉じている花園楓がチョークスリーパーを決め、なぎささんが綺麗な脚線美を魅せつけるかのような4の字固めを決めている。


「だ、じゅ、けで~~~~」


 刹那は苦痛に満ちた声を上げるけど、寝ぼけている2人は聞く耳持たず。

 手を差し伸べようとすると雛子ちゃんが私の手を掴み


「お姉さま、雛は大事な人を失いたくないのです」


 と、瞳に涙を溜め、上目遣いで懇願してくる。

 あぁ、可愛い。

 すべてを投げ打ってでも、この子を守ってあげたいという衝動が、女の私にも沸き上がってきてしまう。


「2人でぇえええええええええ……いい雰囲気ぃいいいいいいいい……になどぇるがぁああああああ」


 でも、このまま放っておいたら変死体が1つ出来上がりそうなので、2人を起こすことにしましょうか。


「ダメなのです! 2人に近づくと幸菜様まで捕えられてしまうのです」


「大丈夫よ。人を起こすのは得意なの」


 こう寝ぐせの悪い人は、肩を揺すったりすると刹那みたいになってしまう。だから、肉体に触らずに起こせばいいだけの話。

 閉じている瞼に生えている毛。そう、まつ毛を触ってあげればいい。

 1度では起きなくても数回やってあげると、ほとんどの人は目を覚ます。

 この2人も例外ではないらしく、すぐに目を覚ました。


「そんなに私と寝たかったのね」


 花園楓……そこで泡吹いて寝てる男を見て、そう思えるあなたがとても幸せに見えるのはなぜだろう。


「会長、違うよ。私の美脚に酔いしれてるだけだよ」


 確かに綺麗な4の字固めでした。ジャイ○ント馬場さんのアポーよりも見応えたっぷりでした。

 酔いしれる。よりも、痺れて動けないっていうほうが正解かもしれません。


「朝ごはんですので、下に降りてきてください」


 起きた2人と、違う意味で寝ている刹那に向けて言い、雛子ちゃんと一緒に下へと降りた。




 朝食を済ませ、出かける準備をする。

 観光名所を巡るのもいいと思ったけど、至極普通の買い物。なんていうのもいいかと思い、みんなでデパートに行くことにした。

 顔を洗って、髪を梳いて、お気に入りのコロンを首元、胸元に噴射。そして手首に2度ほど噴射して、左右の手首を擦り合わせる。少し甘めの匂いがして、心を落ち着かせてくれる。


「名前で呼んであげたら」


 公園で言われた言葉が脳裏をよぎる。


「せ、つな……」


 洗面台の鏡に向かって予行練習。なんて、なにをやっているんだろう。頬を赤く染めている自分自身を見てしまい、私は小学生にでも遡ったかのよう。

 さっき顔を洗ったけど、気持ちを落ち着かせようともう1度、バシャバシャ水を叩きつける私。

 前髪にまでかかるほどの勢いだったから雫が落ちるのが見える。

 1つ、2つ……。落ち着け。落ち着け。なにを焦っているのか。

 私は血の繋がった家族であって……。

 これ以上は考えるのはやめた。

 血の繋がりはどうにもできない。

 親は子を選べても、子は親を選べないように、生まれてくる環境も選べない。

 今の現状でどうにかするしかないんだから。


 

 夏休みということで人が多い。

 駅前までメイドのワゴン車で行き、100円という謳い文句な癖に、1日、1800円と言っておきながら、3400円とかの料金を叩き出す詐欺紛いなパーキングに止めて、ここからは歩いていくことになった。

 白をメインに首元や肩の部分に黒のフリルが付いているタンクトップに黒の少し丈の短いスカートをチョイス。アクセサリーとして、カチューシャをしてきたけど、なんだか似合ってないような気がして落ち着かない。

 それになぜか私ばかりが注目されてしまっている。

 後ろにメイド服の人もいるっていうのに。


「みんな幸菜に注目だね~」


「茶化さないで下さい」


 と言っても「前の白い服の子可愛いよな」「肌白くていいなぁ」なんて、女性からも言われてしまうから意識をしないようにするのが難しい。

 なぎささんだってノースリーブにGパン。この服装は背が高くて、スタイルの良い人しか着こなせない。

 私からすればなぎささんのほうが魅力的なのに。

 雛子ちゃんもドレスのようにフリルの多いワンピース。

 花園楓はといえば、白の柄物のTシャツに、Gパンとなぎささんと似てるけど、アクセサリーが凄い。

 腰にはチェーン。大人っぽいサングラス。高級バッグと、今では注目されていないが、とある歌姫を彷彿とさせるファッション。

 ど派手さで負け、スタイルで負け、可愛さで負ける私がどうしてこうも注目されなくちゃいけないのか不思議。

 刹那は嬉しそうに笑っているから……まぁいいか。

 好きな人が笑ってくれている。それだけで嬉しい気持ちになるんだから、恋とは恐ろしいモノだとつくづく思う。

 男にお金を貢ぐのもわからなくはないけど、それは自分に魅力がないから。とも違うかな。私も自分自身に魅力を感じないけど、好きな人の好みに合わせようと色々と模索はしている。その時間をお金で買えるとは思えないだけ。

 お金で続く恋はお金が切れれば終わる恋。

 金の切れ目が縁の切れ目。

 そういうことだと思う。

 そっと最後尾にいる刹那の横に移動する。

 今日は控えめにコロンを付けたから、隣に居ても大丈夫。のはずだったんだけど


「コロンの香りがしないね」


 と言ってくる。女学院に通うとこうも耐性がつくのか、抗体が出来るのかは不明だけど、前まではコロンやポプリの香りが苦手で、私の部屋に近づこうともしなかったのに。



 デパートに着いてからは女の子がメインに動きまわる。

 特になぎささんがあっちにこっちにと、腕を掴んで連れまわしてくるんだけど。嫌ではないし、1人で服を選ぶよりもアドバイスをくれるので楽しかったりする。

 入院、退院しても友達関係を上手く築くこともできなかった。

 それが嘘のように構築できている。

 ただ、刹那が仲良くして欲しい。と、お願いしたからだろうと勘ぐってしまう自分もいる。

 あの時だって、刹那に近づこうとしただけで……


「私ね、人に媚を売るの苦手なんだよ」


 服を選びながら、これなんかどうかな! って、私にあてがい、これも違うなぁ。と服を戻す作業をする。


「本当は媚びたほうがなにかと得なんだろうけどさ、そんな窮屈な生き方は大っ嫌い。好きなら好き。嫌いなら嫌い。好きな人は奪ってなんぼ!」


 クスクスと笑い出す。


「そっちのほうが楽でしょ。友達もそう。私が嫌いなら近づかない。刹那くんにお願いされたってそうする。だから幸菜も嫌いなら無理しなくていいよ。無視してくれたほうがこっちも楽だから」


 そう言い終えた時だった。


「幸菜お姉さま。あちらに浴衣コーナーがあるのです! ご一緒にどうですか?」


 小さな手が差し出される。

 その手を握ればいいだけなのに、躊躇いが出てしまった。


「幸菜行っくよー」


 雛子ちゃんの手を掴み、そして私の手を掴む。

 その意味、それは


「私は幸菜好きっ! だから、嫌いだろうとなんだろうとかまっちゃうから!?」


 チーターのようなスピードで走るなぎささん。

 もしかしたら私は、こうやって引っ張って行ってくれる人がいいのかもしれない。私自身、あれこれと考える性分しょうぶんだから、正反対で役割分担もできるし。

 S極とN極が引き寄せ合うように、私となぎささんも引き寄せ合うのかも。

 というか。私、病人なんだけど……それに雛子ちゃん……引き摺られているんだけど。なんて聞こえないか。

 


 

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