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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:HAPPY TIME
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パーティーTIME

 誕生日。俺の家ではホールケーキを1つ用意して、幸菜と2人で一緒にローソクのはかない火を吹き消すのが恒例だった。2つも用意して、食べきれるほどの大食いは我が家にはいないから。

 祝福の言葉は、母さんと父さんだけだ。

 それでも俺と幸菜は「ありがとう」って言うと、母さんが涙を流す。

 それも恒例だ。

 双子で生まれ、妹の幸菜は未熟児で、今でも生死の境を彷徨っている。それでも力強く生きていることに涙を流しているなんて、小さな頃の俺と幸菜にはわかるはずもない。

 そんな自分の家の誕生日を思い浮かべ、中村さんの車で雛の誕生日会場へと向かっている。

 俺は制服で助手席。後ろに楓お姉さまが居て、一番後ろになぎさと凛ちゃんが乗っている。

 楓お姉さまは大人らしく黒のドレスで、胸元は白い谷間がこれ見よがしにお目見えしている。

 なぎさは青色のドレスで、谷間を強調できない代わりに綺麗な脚線美が一際目立つ。

 凛ちゃんの黄色のドレス姿は子供っぽくて、とある層にはとても需要があるだろう。

 で、俺だ。さっきも紹介した通りに制服。

 ドレスを買うお金などないから。ではなく、まぁお金はないけど、中村さんが用意してくれたピンク色のドレスがあったのだが、自制心が勝って、拒否。

 ドレスを着た俺を想像したら吐き気がしたのは言うまでもない。


「パーティーに制服というのも違和感があるわね」


 提案したのは楓お姉さまですよ。それなのに違和感があるとか今更、言われてもどうにも出来ないんですけど。


「ですけど、此花は由緒正しき歴史ある学院ですので、特に問題はないかと思います」


 め、珍しく凛ちゃんから援護射撃が飛んできて、頭部スレスレを飛んで行く弾丸。危うくフレンドリーファイヤーされるところだったよ。


「だったら、私も制服で来るんだった」とずぼらさんのなぎさが言うと「あんたがドレス着ないからお姉さまがだらしないこと言うのよっ!」って、さっきと言ってること違うよね!

 飴と鞭なんて可愛らしいモノじゃない。SM嬢と鞭って、最強装備じゃないかぁあああああああ!

 ツンデレさんからSM嬢に転身かぁ。

 ……そうか! Sコースを選べばツンデレ少女を縛って、吊るして、鑑賞できるわけか!


「平民、学院に戻ったら覚えておきなさいよ」


 そろそろ読心術を封印して欲しい。

 心の中でくらいゆっくりと妄想に浸っていたいのに。渡る世間は鬼ばかりとは言うけど、俺の周りは神か天使か小悪魔かツンデレさん。


「もうすぐ着きますので、ご準備してください」


 中村さんが到着を教えてもらう頃には、ど田舎の森や林の風景ではなく、摩天楼が見えそうなほどの大都会の一角に、俺達は来ていた。

 超高級ホテルで知られている帝王ホテル。そこが誕生日会場となっている。

 もちろん。庶民の俺は宿泊をしたこともなければ、中に入ったことすらない。

 目の前にそびえ立つのはホテルだというのに、ホテルというオーラではなく、宮殿のようなオーラをしていた。というのも、タキシード姿のイケメンや、貴族のような服装をした渋めのおじ様が、リムジンから続々と降りてきている。


「あれって、ジャンキー・チューン?」


「そうよ。あっちはスペルバーグ。その隣はNBAのマイケルジョンソンね」


 凄すぎだろ。スポーツ界の神様から映画界の神様にエンドロールのNGシーンが本編のハリウッドスター。

 他にもスターと呼べる著名人がズラリと帝王ホテルの中へと入っていく。


「車はここまでしか行けそうにありませんので、ここから歩いて下さい。私は車で待っていますので、パーティーを楽しんで来て下さい」

 

 

 中村さんに楽しんで来い。とは言われたけど、パーティー会場の隅でぼっち。

 理由は簡単だ。楓お姉さまと凛ちゃんはイケメン紳士と渋めのおじ様方に挨拶をしてくると。なぎさは食料の調達と言い残し、どこかに消えていった。

 小さな紙袋を両手で持って、場違いな雰囲気を味わう。

 大きな笑い声が聞こえたら、別のところでは談笑しながら、なにやら話し込んでいる貴婦人達の姿。

 それを見て、溜息を1つ。


「このような場は慣れませんか?」


 オレンジ色の液体が入っているグラスのお尻を拭いてから、丁寧に両手で差し出してくれる。


「ありがとうございます。まぁ……このようなパーティーは初めてで、どうも……」


 右手でグラスをもらい、そのままチビっとだけ口に含み喉を潤す。

 果汁100%しかオレンジジュースと言ってはいけないと聞いたことがある。だから、○ンジュースはオレンジジュース名乗ってはいけないのだと。

 どうでもいいよ。


「雛子お嬢様から聞き入っておりますので、お声を掛けさせて頂きました」


 笑顔がとても似合う女性だが、メイドさんにしては少し年齢が上がるように思う。しかし、服装は他のメイドさん達と同じモノを着用しているので、メイドさんには間違いない……はず。


「遅くなりました白鳥しらとりと申します」


「こちらこそ、立花幸菜です」


 メイド服のスカートを摘み、優雅に一礼してくれる。


「お嬢様がお世話になっているそうで」


「いえいえ、私の方がお世話になっているので」


 ジュースを零さないように、グラスを持ち直して一礼。

 なんだか、雛のお母さんとお話しているように思えて仕方ないんだけど。


「HEY」


 無精髭が特徴のおじ様が白鳥さんを呼ぶように、片手を上げてこちらを見てくる。それに対して小さく顔の横で手を振って、返事を返す。


「すみません。もう少しお話をしていたかったのですけれど」


「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので」


 すみません。っと、一礼して、呼ばれたおじ様の下へとお酒やジュースが乗せられているトレーを押して、向かっていく。

 こうしてまたぼっち。

 スマホは電源を切っているし、このような場ではスマホや携帯は誰も持ちだして触っている人はおらず、楽しそうに談笑している。

 それを出来ないから困っているんだけどなぁ。

 楓お姉さまから借りている女性モノの腕時計で時間を確認した途端、会場がいきなり真っ暗になった。

 ざわざわ。

 英語やフランスなど各国の言語が飛び交い、会場はざわめく。


「皆様、今日はわたくしの誕生をお祝いに来てくださってありがとうございます」


 日本語の次に英語で同じ挨拶を言葉にする。

 今回のパーティーのメインである雛の声が聞こえると、会場はさらに盛り上がりを増し、大きな拍手音、拍手の代わりに口笛を鳴らす者もいる。

 真っ暗な会場に一筋の光が浮かび上がる。その先に白のドレスを着た、いつも明るくてパピヨンのように小さな体をした可愛い笑顔を振りまく私の義妹いもうと

 ウエディングドレスではないかと思えるほど、ゴージャスなドレスを着ていて、口紅やアイシャドーなどでお化粧しているから普段とは違い格段に大人っぽくなっていた。


「私も15歳となり、学院のほうではお姉さまにお仕えさせて頂いております。日々、自分自身が心身共に成長できるよう、皆様に笑われないよう、努力して行きます。遥々遠くからお越し頂いてありがとうございます。これをもちましてご挨拶とさせていただきます」


 どこか、入学式の新入生代表の挨拶のような真面目な挨拶だったけど、これはこれで会場にいるゲストの方々には好評だったようで、雛の登場のときよりも拍手の音が2割増しで大きくて、会場の床が震えるほどの歓声が上がった。

 スポットライトが消え、再度、会場は暗闇へと変化する。

 そして、今度は雛がいた場所と別のほうへスポットライトが当たると、男性用の着物を着た白髪交じりの古風なおじ様が登場。

 今度は誰も拍手をしたりせず、おじ様が一礼するとゲストの貴族や貴婦人も一礼した。


「我が娘。雛子の生誕15周年のパーティーによくぞ参られた。心よりお詫び申し上げる」


 おじ様が一礼。会場のゲストも一礼。

 どこかの宗教団体を連想してしまった。


「まだまだ未熟な故、なにか不届きを犯したときは、お叱りのほどよろしくお願いする所存」


 言葉のチョイスが渋い。

 それにしても、雛とあまりに似ていない。

 どちらかと言えば、さっきの白鳥さんのほうが顔付きやとある部分の凹凸は似ているように思う。


「妻が見当たらぬので、挨拶はわたくし、朱雀すざくがさせてもらうことになった。だが、長すぎる挨拶は飽きてしまうと、先ほど娘にお叱りを受けたばかりだ。皆に聞いて欲しい娘の自慢話は富士の山を覆い尽くすほどあるのだが、割愛させていただく。では心より楽しんで頂けるよう、おもてなしをしております故、ごゆっくりご歓談を」


 雛の父、朱雀さんが一礼するとゲストも一礼する。

 シャンデリアに電気が流れ、会場が明るさを取り戻したら、会場のゲストの方々は雛と朱雀さんの2つのグループを形成するように集まっていく。

 で、出遅れた俺。

 パーティーの流れを知らないから仕方ないけれど、黙って隅っこで突っ立っているのは、雛に失礼だし、雛のお父さんに「娘さんをもらっていきます」と、挨拶ぐらいはしておかないとね。

 そんな度胸もないのは、知っての通りなので、アメリカンジョークとでも思ってくれて結構。

 さて、俺も雛のところに行って「おめでとう」って言いに行こう。喧嘩しちゃってる状況だけど、優しく声をかけたら雛だってわかってくれる。雛は優しい子だしね。

 さて、近くのテーブルに移動してグラスを置いてから行くか。

 会場のゲストさん達がそうしているし。

 と、1歩目を踏み出したときだった。

 ドンっと横から衝撃があって、グラスに入っていたオレンジジュースが誰かの上着に掛かってしまった……。

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