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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:HAPPY TIME
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ツンとデレの境界線

 バスに揺られて街にあるショッピングモールまでやってきた。

 1人で街まで来るのは雛が誘拐されたとき以来となる。まぁ走り抜けただけなので、来た。というのは些か間違いではある。


「立花様、それでは失礼致します」


 下級生の2人はペコリと頭を下げ、俺も「はい。気をつけてね」と、言葉をかけると頭を上げ、ショッピングモールに向かっていく。

 寮から街までは専用のシャトルバスを使うことになる。

 玄関にあるパソコンから時間と座席を決め、時間になったら寮の前にあるバス停に向かうだけだ。

 今日は結構な混み具合なのか、一番後ろの座席しか空いてなく、下級生の子達の隣になってしまった。先輩の隣と言うことで緊張していたようなので、こっちから話しかけてあげることに。

 話をしていてわかったのが、俺は楓お姉さまと同等なほど下級生からはアイドル的、存在にまで伸し上がっているらしい。

 俺をあの女王様と同じなんて……。

 さすがにマズイと感じたので、こうやって親睦を深めていたわけだ。

 少しは俺のイメージアップに繋がればいいけど。

 さぁ、ここからが本題なわけだけど。


「女の子ってどんなプレゼントがいいのやら」


 明後日の7月26日は雛の誕生日。

 おとといに雛からお誕生日会のお誘いをもらったので、プレゼントを買いに来たのだ。

 ショッピングモールに入って、商品を見ながら考えようと足を運んてみたが、そう簡単に決められない。

 まだ入ってすぐのエリア。化粧品コーナーを物色しているのだが、雛ってお化粧をしないんだよな。

 楓お姉さまもなぎさもそうだ。化粧水などは使うしリップも使うがファンデーションなどを基本使わない。

 眉毛などは整えているけど、雛はリップも化粧水も使っているところを今まで見たことがない。


「お客様、なにかお探しですか?」


 ちょっと長居し過ぎたようで、迷っている俺を見かねて声を掛けに来てくれた。


「いえ、大丈夫です」


 なにかあればお気軽にお申し付け下さいね。と、マニュアル通りの返答が帰ってくる。

 このままここに居ても、雛のプレゼントは見つからないだろう。

 逃げるように化粧品コーナーから早々と立ち去り、ショッピングモールの中を見て行く。

 服なんてどうだろう。

 女性服を中心に集めているエリアに到着。大人向けの服を売っているお店は除外して、若い子向けの服を売っているお店を重点的に見て回ることにした。

 服と言っても種類が多く、好みなどもあるから簡単には決められない。

 キャミソールは普段から着ていないし、Tシャツ……どんな柄が好きなのかな?

 あぁ……ドツボにはまった。

 服はダメだ。だったら貴金属はどうだろう。いや、姉妹のちぎりを交わしたときにネコの飾りがついたブレスレットをあげているし。

 だぁあああああああああ。

 声に出して叫べないから心で叫んでみた。


「平民、なにしてるのよ」


「ぎゃぁああああああああああ」


 今度はマジと書いて真剣に叫んだ。

 だって、いきなりツンデレさんがいるだもん。やっぱリアルでツンデレさんと絡むには、心の準備が必要不可欠。

 ちょっと可愛い女の子に「放課後、体育館裏へ来てほしいな」って呼ばれたからって浮かれ行ってみたら、ちょっと怖そうなヤンキーさんが居たぐらい心の準備が必要。


「へぇ。童○女○男は、私をそんなふうに見てるのね」


 ツインテールのチビっ子は、どんな教育を受けてきたのだろうか。

 俺が○貞○装○って、もしブイブイ女の子を泣かしているチャラい男だったら、君の言った言葉は侮辱でしかないんだぞ? 名誉毀損で賠償責任問題に発展するぞ。

 まぁ事実だからギャともフンとも言わせることができないけど。


「お客様、なにかお探しですか?」


 ここでも、店員さんがやってくる。

 マニュアルだから仕方ないんだろうけどさ、ゆっくり買い物ぐらいさせて欲しいものだ。


「大丈夫ですわ。もう買い物は済ませておりますの」


 右手には紙袋を持っていて、隙間から赤と白の服のようなモノが入っている。


「左様でございましたか、失礼致しました」


 ペコリと頭を下げて、別のお客さんへ声を掛けにいった。


「教育のなってない店員だわ」


 なぜか不機嫌な凛ちゃん。

 なにを怒っているんだ? 普通に丁寧な言葉を使って接客したに過ぎない。


「左様っていうのは『そうでしたか』って意味合いがあるの。だから、二重敬語に取られる可能性もあるのよ。覚えておきなさい」


 おぉ! なんか今、お嬢様っぽいことを教わった気がするのは気のせいではないはず。


「あんたは、私を誰だと思ってるのよ。まぁいいわ。ちょっとお茶に付き合って」


 世界有数の大企業。東条財閥の一人娘だって言うのは知ってるけど、言動がお嬢様っぽくないんだよな。特に俺に対しては。


「私で良ければいいよ。私もちょっと聞きたいことがあったし」


 だったら、さっさと移動しましょう。と、俺は凛ちゃんの横に並んで、一緒にフードコーナーにまで向かう。

 さすが女の子だ。フードコーナーまで5分もあれば着いてしまうのに、可愛い服。可愛い小物を見つけては、ふらふらと蝶が花の蜜に引き寄せられるように見て回っていく。よって40分もの時間がかかった。

 すべての女の子がそうではないんだろうけど、買うか買わないか。で、迷うならまだしも、買う気もないのに迷うのはやめて欲しいよ。おかげで3000円も出費するハメになったじゃないか。

 さっきまで不機嫌だったのが、今では上機嫌。

 女の子の機嫌は山の天気のように変わりやすいということを改めて知った。少し高い授業料。いや、これで訊きやすくなったじゃないか。

 俺はコーヒー。凛ちゃんは紅茶とシフォンケーキを頼んで、空いているテーブルへと着席。もちろん俺のおごりだったりする。ここ重要。


「それで、話ってなによ」


 お上品に紅茶を啜る仕草はお嬢様なのに、どうして俺に対する言葉遣いは暴力的なんだ。あ、そうか犬理論か。

 犬はランク制を採用しているらしく、自分より下と判断した場合は奴隷扱い。奴隷が指図すれば噛み付くのも当然か。


「えっとさ、雛の誕生日会。凛ちゃんも誘われているよね?」


「当たり前じゃない」


「それでさ、雛ってどんなモノが欲しい。とかわかるかなって」


「あんたバカァ?」


「だって、雛って自分からあれが欲しい。って、言ってくれないし」


「ホントにバカね」


 なんだろう。赤いプラグインスーツを来て、赤い髪を靡かせながら「これが私の機体よっ」と赤いロボットを自慢する少女が言うセリフを聞いたような。

 著作権、大丈夫かなぁ……。

 俺の心労を知らない凛ちゃんは、口から空気を震わせ言葉を作り出す。


「プレゼントなんて気持ちでするモノでしょ。特に雛子の場合はうん百万の壺をプレゼントされていたけど、今では花を入れる壺に変わっちゃってるし」


 それ笑うトコ?

 うん百万って、骨董品の中でも名の知れた人が作った名作と呼ばれる逸品だよな。それを花瓶にしてしまうとは。


「それに、今の1番のお気に入りはネコのブレスレット。あんなステンレス製の安物を、大事に身につけているんだもの」


 ちらっ。

 なぜかチラ見される。

 すぐに視線を紅茶に戻して一啜り。

 そして、先ほどプレゼントしてあげた、カラフルな魚が漂っているガラス細工の置物を覗きこむ。

 気に入ってくれているようでなにより。それも3000円だけどね。


「凛ちゃんはなにをプレゼントするの?」


 もしかしたら凛ちゃんとプレゼントが被ってしまう可能性を考慮して、今、聞き出して置いたほうがそれを除外して探せる。俺ってやっぱ天才なのかもしれない。


「私は財布よ」


 財布かぁ。

 誕生日のプレゼントにしては普通か。


「あの子、財布もそうで、ボロボロになっても使っているから、私からプレゼントしたら新しいモノを使うかなって……」


 頬を桃色に染めて恥じらうツンデレちゃん。

 それをガン見して記憶に焼き付ける。

 いいな。微笑ましく思え、良き友人を手に入れた雛が少し羨ましい。

 去年は未来ちゃんもお誘いされていたのだろうか。

 だったら、なにをプレゼントしたんだろう。今年はお誘いはないはずだ。あの子は誰にも次に住むことになった住所を教えていないから。

 最後の1口を啜り、カップをテーブルに置く。

 ちょっとしたサプライズを思いついたのだ。

 時間が掛かってしまうから、できるだけ早く行動に移さなくては。


「凛ちゃんありがとう。私はまだプレゼントが決まっていないから探してくるよ」


「はいはい。私は帰るからそれじゃぁ」


 席を立ち手を振ってからアンティークコーナーへと歩みを進める。


「平民」


 ふと、声を掛けられたので振り返る。


「ありがと……」


 そして、桃色だった頬を林檎色に染め感謝の気持ちを言ってくる。3000円でデレる凛ちゃんを見れたのは安い買い物だ。


「どういたしまして」


 デレたからと言って、いらぬ言葉は吐かない。これはツンデレちゃん限定で、これだけでデレが消費税分、増える。たぶん。憶測。

 さて、凛ちゃんに背中を向けて、我が妹へのサプライズプレゼントのために


「一肌脱ぎますか」

 

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