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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
短編:お姉さまの恥じらい
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些細な願い事

「あなたって馬鹿よね」


 夕食を食べ終えて部屋に戻ると、楓お姉さまの採点が開始された。最初に俺の採点をしたらしく、馬鹿判定をされてしまったのだ。自覚していることを言われるのは、とても肝にダメージが来るものである。

 答えの書いているノートに、赤のボールペンで○や×を記入していく。

 問題を丸暗記しているのか、とてつもなく速い。

 5分ほどで採点を終わらせてしまった楓先生は、盛大なため息を吐き出して、ノートを返却してくれた。


「第3言語を除けば、まぁまぁな点数だったけれど、特待生の座を死守できると思ったらお門違いね」


 そう。妹の代わりで此花このはな女学院に来ている以上は、特待生でい続けなくてはいけない。

 期末テストの順位で決められてしまう。上位5人に入っていないと特待生でいられなくなり、妹は路頭に迷うことに……。

 路頭に迷って、赤ずきんを装備して「マッチいかがですか?」って言っている姿を妄想して、これはこれでいいかもしれないと思えてしまった。そんな兄を許してくれますか?


「誰が許すのよ」


「それはさすがにヒドイのですよ」


 でも、赤ずきんチャチャは変身して、すらっと伸びた脚をこれでもかと魅せつけてくるんだよ?

 当時、子供だった俺でも、あの脚には感服かんぷくしたもんだ。


「また古いネタを使って、読者を混乱させるのは、やめにしたらどうかしら」


 な、な、な、なにを言い出しますか!?

 読者なんて存在していない。いや、存在しているんだけど……。

 なんだろう。この複雑な心境!


「そんなことはどうでもいいんですよ! 雛はどうなのですか!?」


 HPが1にまで落ちたら、今度はMPを1にしようとする。そして、最後は武器を外し素手で止めを刺してくるから質が悪い。

 そんな状況から脱しようと話題を変えたんだけど、採点の終えた雛のノートを、申し訳なさそうにこっちに広げて見せてくる。

 ○で彩られていた。


「言っておくけど、去年の学年末テストでトップ10に入っていたのよ」


 それって今流行のチートってやつじゃないかっ!

 異世界行って、チートして、ハーレムを作ったら、人気が出ると思ったら大間違いだぞ!! って、どこぞの誰かが、某ネット放送でボヤいていた。


「幸菜、あなたの平均点は53点ぐらいよ。雛は91点はあるのではないかしら」


 残酷な現状を目の辺りにして、俺の部屋にいる3人は笑うことすらしないし、ジョークを言うこともしない。

 笑い話にもジョークにも出来ないから。

 情けないけれど、今のレベルを知ることが出来たのは収穫だ。

 「己の下手さを知りて一歩前進」っと、某先生も言っていたしね。


「短い間だったけど、世話になったわ」


「見捨てないでくださいよっ!」


「じゃあ、どうすればいいのよ」


「ほら、1週間ですべての教科を満点、取れるようにできる薬とかあるでしょう」


 花園グループの全勢力を総動員すれば、明後日には出来ていても不思議ではない。いや、投薬実験も必要だと思うから3日待ちます。


「選択肢に『努力する』は、毛頭ないのね」


「1週間で、どうこうできる問題じゃないでしょう」


「わかっているなら、その前にどうにかしておきなさいよ……」


 ごもっともな意見を頂戴ちょうだいしたけど、過去に戻れる装置が机の引き出しに存在していない。

 つまり、1週間でどうにかして上位ランカーになるしかないのだ。


「雛は応援するのです」


 胸の前で拳を握る義妹いもうと

 あぁ、可愛すぎて赤点でいい気がしてきた。


「実の妹さんに恨まれてもいいのなら放っておくけど」


「雛もおねにいさまが居なくなるのは嫌なのです」


 飴と鞭、SとM、正と負。

 どっちがヒロインで悪役か、なんて説明する必要もないわけで。

 ただ、共通している点を言えば、心配してくれている。と、いうことだ。

 馬鹿だアホだと言うけれど、心配だから言ってくるのである。

 関わりたくない人間には、無視を決め込むのが花園楓という人間だ。


「そうだよね。よし、それじゃあどうすればいいでしょう」


 2人の思いに応えたい。


「やる気になったのは良いことね」


 それじゃあ。と、さっき間違えた問題から、じっくりと楓お姉さまの解説付きで解いていくことなった。

 



 翌日

 授業が終わり、今日も3人で試験勉強が始まった。


「昨日やってもらった過去問の出来からして、第3言語を除けば、平均で70点ぐらいはあるわ。だけど、それではダメなのはわかるわね?」


 学年でベスト5に入るのが条件なだけあって、平均して90点以上を叩き出さないといけない。

 今日、クラスメイトに話を聞いたら、去年の学年末テストで1番の子は、平均で95点を叩きだしていたそうだ。

「そこで、4日間で第3言語以外を先に潰してしまいましょう。そうすれば、苦手な分野に時間を割けるわ」

 と、自信満々に言われても……だ。

 1週間というのは、7日間で構成されている。そんなことは説明する必要はないだろう。

 そして、今日は2日目である。

 残り2日で、国語が2つに数学も2つ。英語、生物、物理、科学、現代社会に地理を撃破しなければ、俺に未来はない。

 ……無理だよ。


「無理ではないわ」


 俺の気持ちとは裏腹に、楓お姉さまには勝機があるようだ。


「雛。数学はなに?」


 突如、振られた話に戸惑っていたけど、少し考えた後


「数を……解いていく……なのです」


「正解」


 ノートに楓お姉さまが考えた問題を、癖のない綺麗な字でスラスラっと書き上げていく。

 ノートにはAとBの問題が2つ用意される。

 そして、公式も2つ。


「数学というのは、数を学ぶと書いて数学と読むの」


 そんなのは中学生でもわかるわね。と、付け加え


「雛が言ったのは、できる人間の答え。出来ない人間はこう言うの『数字の羅列』と」


 数学の苦手な子は、よく言っていた。

『数字ばっかで意味わかんねぇよ』って。

 数字だけではなく、XやYとかもあるのにね。ついでにπも。


「数学だけではないけれど、出来ない人間はこう思うと楽なのよ。ただのパズルと」


「パズルって……意味がわからないんですけど」


 小さな溜息を吐き出したのち


「この問題で行くとAの問題とBの問題では使う公式が違うのはわかるわね」


 雛と俺はうんうんと頷く。


「問題は1つでも公式はいくらでもあるのよ。どの公式を使えば、この問題は解けるのか。パズルでしょ? 問題と公式はピース。もし正解だったら綺麗にお互いがはまり合うの」


 どこかの大学教授のような説明に、俺と雛は「おぉ」と素直に納得させられてしまった。

 さすがは、天下無敵の楓お姉さま! 


「説明はこの辺りにしておいて、時間もないことだしやっていくわよ」


 楓先生が始まりの合図として手を軽く叩く。

 案外、楓お姉さまは先生が似合っているのかもしれないな。

 


 勉強を開始して、この位置関係に異議を申し立てしたくなってきた。

 3人、横並びになって勉強するのは構わない。だけど、なんで俺が真ん中に座っているんだ。

 普通は楓お姉さまが座るポジションじゃないだろうか。

 おかげで、雛が楓お姉さまに質問をすると、俺の前でやりとりすることになる。

 察しの良い人はわかると思うが、平均を超えたバストの持ち主である2人が、身を乗り出して話をしているのだ。

 視界に豊満なバストが入り込み、勉強に集中していたのが、2人を盗み見ることに集中が切り替える。

 熱い視線はバレてしまう。かと言って、チラ見も女性は過剰に反応してしまうと、どこかの雑誌に書いてあった。

 ダメだ。ダメだ。ダメだ!

 楓お姉さまは窮地に立たされた俺のためにコスプレまでして教えてくれているのだ。

 雛は可愛い癒やしをもたらしてくれる唯一無二の義妹。

 そんな厭らしい感情で2人を見るな!

 顔を左右に振り、邪念を払いのける。


「どうしたのよ。わからない問題でもあるのかしら」


 俺の小さな行動が、隣にいるサキュバスを呼び覚ましてしまった。

 肩が触れ合うほど体を寄せてくる。それに伴って、自然と顔も近づいてきて、振り向けば潤んだ唇が接触してしまうのではないかと思う。


「順調に進んでいるみたいね」


 と、言いながら髪をかきあげる。

 いつも一緒にいるのに、このような場面になると女の子は無意識に匂いを変化させ、男を誘惑してくる。

 ドクンっ!

 心臓の動きが活性化する。

 綺麗な指先がノートに捲っていく仕草がもどかしい。

 夏服に変わって、肩の部分に小さなワッペンが縫い付けられたカッターシャツに、下着が目立たないよう肌着を着こむだけだから露出する部分が多くなった。

 に、二の腕って、柔らかそうだよなぁ。

 普段、気にしないことが気になってしまって、もう勉強などと言ってられないほど、集中を切らしてしまっている。


「す、す、少し早いですけど、夕食にしましょう」


 キョドりながら声を発したために、最初の1言がなかなか出てこなかったが、2人はあまり気にした様子はない。


「そうしましょう。雛のほうも区切りが良さそうだものね」


「わかりましたなのです」


 先に2人が立ち上がって、伸びをする。

 無意識にそんなことをするのは、俺を信用してくれている証拠なのだろうけど、それはそれで目のやり場に困る。

 さっきから厭らしい感情が渦巻いている。右を見ても楓お姉さまが居て、左を見れば雛がいる。どこに向ければいいのか迷って、時計を見やると時刻は18時を少し回ったばかりだった。




 夕食後、2人はすぐにお風呂に向かった。

 その間に俺もシャワーを浴びて、2人が帰ってくる前に、着替えを終えている必要がある。

 ここに来て、もうすぐ3ヶ月ぐらい。ずっとお風呂には入れず、シャワーだけで乗り切ってきたけど、ここ最近は「温泉に入りたいなぁ」って、思っている。

 学院生だけが使うことができる、伝統のある屋上の温泉。

 この寮を建設するときに、地盤検査で発見された非火山系温泉で、学院長が生徒の健康を考えて、屋上に作ったと言われている。

 たまにはゆっくりと湯船に浸かりたい。

 俺が男じゃなかったら。と、何度思ったことか。

 温泉はタオルの持ち込みが禁止されているようで、持ち込めるのはシャンプーにボディスポンジ程度らしい。


「そんなところに男の俺が行けないよな」


 ザァーっとお湯が床を叩く音が響くシャワールーム。

 花園グループが開発したウィッグを付けているお陰で、引っ張ってもズレることはない。肉体的なカモフラージュはパッドを入れて、ブラを付けているだけだ。それでも彼女達、此花のお嬢様をあざむけるのは、一種の才能なのかもしれないな。

 って、なに馬鹿なことを考えているんだろう。

 ボタンを押すだけで瞬時にお湯を吐き出す仕組みになっている。お湯を止めるのもボタンを押すだけ。

 こんな最先端なシャワールームが各部屋に備え付けられているんだから、未来にでも迷いこんでしまったかのようだ。

 家のシャワーは暖かくなるまで時間はかかるし、調整に失敗すると、いきなり水に変わっていったりするオンボロだった。

 髪や体の水気を拭って、幸菜が使っていたパンツを履く。最初は抵抗があったのに、今ではなんの躊躇いもないなんて。

 ピンク色のパジャマを履き、上着は羽織るようにして、シャワールームの扉を開け放つ。

 そして、メイドさんとばっちり目が合った。

 ボタンを止めていないお陰で、しっかりと観音開き状態で上半身を露出している。

 かち合っていた視線は、たしなめるように上から下へ向かって、帰って来た。

 ニコっと、柔らかな笑みを浮かべて


「そのような趣味をお持ちだったとは……」


 悲鳴を上げたかった。

 キャーとかワァーとか叫びたくなる。

 女の子ってこんな気持ちだったのか。って、なに冷静に分析してるんだよ!


「違います! 中村さんがいるとは思ってもみなかったからで、普段はしっかりとボタンを止めてますよ!!」


 必死の弁解を講じる女装男子の図は、さぞかし面白いように映っているに違いない。


「少しだけ、触らせて頂いてもよろしいですか?」


 微笑んだまま、そのような言葉を言われるとなぜかエロい。特にメイドの格好で言われたせいもあり、エロさが増量。


「少しだけなら……」


 場の雰囲気が拒否を許さなかった。

 否定しても、特に問題はなかったと思うが、好奇心に満ちた瞳で見つめられては、拒否出来なかった。


「それでは失礼致します」


 つややかな指先が、俺の胸板を軽く触れてきて「やはり男性ですねぇ……」って、独り言のように呟く。

 胸板から腹筋に移動してきて、割れている部分をなぞり始める。

 くすぐったいけど我慢、が・ま・ん。

 腹筋に満足をしたら、背中に回りこんでパジャマの中に手を入れ、細くて小さな手を広げてペタペタ触り「ん~」と、耳元で囁いてくる。

 耳の裏に息を当てないでっ!

 そうでなくても、ムラムラしてくる状況なのに。


「ありがとうございました」


 手を抜き取り、ご丁寧にパジャマのボタンを止めてくれた。


「やはりダメですね」


「なにがですか?」


 背中を押されて、化粧机の前に移動する。

 座れと肩を押されるので指示に従い、備え付けの椅子に腰を下ろした。

 化粧机に置かれているドライヤーを掴むと、手慣れた手つきでブローしていく中村さん。


「もうすぐ、プールの授業が御座いますので、水着を改良すればどうにかなるかと思ったのです」


 うまくブラシを駆使しながらブローされるのは気持ちがいい。


「でも、幸菜はプール入れませんよ。ちゃんと診断書ももらっていますし」


「見ているだけはつまらないのではないですか? なにせ、男の子なのですから、たまには思う存分、体を動かしたくもなりましょう」


 確かに、ストレッチが終われば、先生の助手をするかグラウンドを歩くぐらいだ。体を動かすのは好きだから、バレーボールなどの球技は特に衝動を駆り立てられる。


「でも、ここまで筋肉質ですと、男性とわかってしまいます。この学院は競泳水着なので、露出も多いですし」


 後ろ髪が終わったようで、今度は俺の前に移動して前髪をブローしていく。

 気にして見たことはなかったけど、メイド服って胸元が強調される作りになっていた。

 露出はないが、膨らみはしっかりと確認できる。

 生唾を飲み込む。

 幸菜の病院に向かう時に着用していた若々しい服装のときにも思ったが、物凄くプロポーションがいい。しかし、清楚なメイド服のほうが中村さんは似合っている。

 否定しているように見えるけど、露出の多かった私服も似合ってはいた。

 話を戻そう。

 このまま胸元を視姦していたら、蓄積されたムラムラが爆発を起こしかねない。

 そこで俺は目を瞑ることにした。

 そして、早く終われと祈りを捧げる。


「はい。これで完成です」


 俺の前に存在していた気配もなくなり、目を開けて一息つく。

 いつもの手櫛ブローとは違って、サラサラした手触りがとても心地よい。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、目を細め一礼して、キッチンに移動していった。

 

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