表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
131/131

フィナーレ③

 大きな体育館は義妹いもうと達の頑張りによって、真っ赤な絨毯が敷き詰められ、綺麗なテーブルクロスの上にはパーティー用の料理が彩りとなり、漫画などで見たことのある光景が目の前にある。

 みんな、この日を楽しみにテスト勉強に励み、勉強の合間を見つけては、お姉さま、義妹いもうとのプレゼントを用意する。

 気合の入り方が尋常ではない。

 大好きなお姉さまに近づくチャンスであり、この日は姉妹の契を結ぶ事の多い1日でもあるから。

 一番前にいた中等部の2年生の子が俺に向かって、手を振ってきたので、小さく振り返してあげた。


「にぃさん。ちょっとは緊張してください」


「仕方ないじゃない」


 振り返してあげないと寂しくなるじゃん。

 アイドルにサインを求めて、無視されたら誰だって凹むさ……。


「本当に鈍感なんですから」


 なぜか幸菜は呆れ果てた眼差しをこちらに向けてくる。

 俺……なにかおかしいなことでもしたかな?


「みなさん、驚きの顔が大多数ですけど、先に……生徒会選挙の結果を報告させてもらいます」


 楓が本題を切り出そうと、淡々とマイクに言葉を乗せていく。

 俺達は結果を知っていて、彼女達はまだ知らない。

 ドキドキのワクワクな展開なのだが、本物の幸菜がここにいて、偽物の俺がここにいて……。


「みんなこっち見てるよー」


 空気を読めないなぎさが呑気なことを言い出す。

 当たり前だよ。立花幸菜が2人も壇上の上にいるんだから。


「こほんっ」


 楓お姉さまの鋭い眼差しがこちらに突き刺さる。

 俺、関係ないんですけど。

 咳払いをして視線をパーティー会場に向け、選挙結果が書かれた用紙を……。


「楓お姉さま、発表の前に私からお話があります」


 幸菜が1歩前に進む。

 これは予定にないことだった。


「あなたはいつも私の逆をするのね。まぁいいわ。どうぞこちらにいらして」


 楓の指示に従い、幸菜が楓の隣に向かう。

 雛も寄り添うように付いていく。

 1度、俺の方を見てきたが、すぐに視線は幸菜に向けられた。

 雛の居たスペースに真那ちゃんがやってきて、俺の袖口をギュッと掴んでくる。憧れの雛の隣にいて緊張したのか、いきなり壇上にあげられて緊張したのか、はたまた両方かもしれない。


「お姉さま……」


「どうしたの?」


 震える手から伝わる


「緊張しすぎてお手洗いに……」


 手だけじゃなくて、体もモゾモゾと動かして我慢している。

 マジかよ……。

 眼の前では楓と幸菜がマイクを渡している最中で。

 そんなことしるか!

 真那ちゃんをお姫様抱っこして、バックヤードへと駆け出す。


「ちょっ! せつなくん」


「すぐ戻る!」


 大きな歓声は無視して、俺はとある場所へと駆けていく。

 もちろんお手洗いではなく、この階の上。

 ガチャン。

 大きな鉄の扉を開けて、外へと出ていく。

 雪のせいで白銀だった世界が純白の世界へと変貌を遂げていた。それはとても神秘的で、寮まで続く道の外灯の光が雪に反射して、いつも以上に明るく神々しく見えている。

 ただ、この景色を真那ちゃんと見に来たわけではない。


「ん~。寒いわね」


「は、はい……」


 真那ちゃんを下ろして、手すりの雪を払い落とす。

 彼女は俺の隣にはこない。


「お手洗いは大丈夫?」


 真那ちゃんからの返事帰ってくることはなかった。


「いつまで続ける気なのかなって」


 別に怒っているわけではない。

 誰しも嘘なんて1つや2つ。でも、真那ちゃんは数え切れないほどの嘘をついてきた。

 誰しもがわかるような嘘でさえも……。


「もう言い出すのが怖いのかしら?」


 ………………。

 無言は肯定を意味する。

 となると……。


「私と一緒だね」


 強張った表情だったのが、少しだけ頬を緩めてくれた。


「驚いたよね。私と同じ顔をした人がいて」


「は、はい。少し驚きました。でも、あれはコスプレ? のようなものかと」


 普通ならモノマネかコスプレになるよね。

 双子でしかも、俺のほうが男だなんて……。


「そう思うのが自然ね。でも、もう嘘は終わりにしないといけない。フィナーレ……ね」


「それはどういう」


「もうすぐわかるわ。そして、私はここを去る。その前にやり残したことをやってから去っていきたい。真那ちゃんにお友達ができるところを見てからね」


 真那ちゃんは学院を出ていくことはない。

 政治の道具に使われることもない。

 それはすべて嘘であって、真実はもっと簡単なことなのだ。


「お母さんが憎い?」


 そりゃあ憎いだろう。

 自分を捨ててどこかにいったのだから。


「自分の納得できるストーリーを作り出して、自分の脳にインプットさせて、嘘という囲いを作って防御する」


「違います!」


「違わないよ」


「お母さんはあいつに……」


「もう思い出さなくていいよ。辛い事なんて思い出さなくていいの」


 真那ちゃんをそっと抱きしめる。


「辛かったね……。寂しかったね……。もう大丈夫だから。ここにはあなたを見捨てる人はいない。強がる必要もないんだよ」


 より強く抱きしめる。

 だけど、小さな拒否があった。

 真那ちゃんが俺の胸を押し返してきたから。


「なにも知らないくせに……」


「わからないよ。なにも話してくれないんだ」


「何人にその言葉を言われたのですか。私はそんな言葉で」


 真那ちゃんの肩を掴み……。

 手を振り上げる。

 真那ちゃんは怖がる素振りも見せず、ただ……。


「平民。ほっておきなさいよ」


 黄色の髪、小さい身長、小さい胸。そして、態度だけは大きい東条凛ちゃんのご登場。


「あんたの手が汚れるだけよ」


「東条……お姉さま」


「あんたにお姉さま呼ばわりされる筋合いはないわ」


「ちょっと凛ちゃん」


 なぜか俺が仲裁に入ることになった。


「後輩だからと言って、ただこねていたら良いとは思わないで。それと雛子の義妹いもうとになりたいんですって? ふざけんじゃないわよ……」


 凛……ちゃん……?


「あんたみたいに嘘ばっかりで、それがバレたら逃げ回って、そうやって1人になったくせに、平民に寄り付いて人気者にでもなって、嘘を帳消しにしようとして」


 そこまで言うと、パーティのためにセットしたであろう髪の毛をクシャクシャにして、苛立ちを顕にした。

 ヒールだというのに、雪の上を歩いてこっちにやってくる。そして、真那ちゃんの前に行くと平手を頬に打ち込む。

 本気ではないだろうけど、乾いた音が耳に届いてくる。

 女の子としてはどうかと思うけど胸ぐらを掴み、どこかへと連れて行こうとする。

 真那ちゃんはされるがまま。

 凛ちゃんの勢いが凄すぎて、俺も止めないといけないのだがそれをさせてもらえない。

 なぎさの義妹にして、この義妹あり。

 そんな感じがするけど、なぎさの前では猫被るんだよなぁ。


「凛ちゃん、少し落ち着いて」


「無理」


 おぉ怖い。

 殺気どころの騒ぎではない。

 ハムスターぐらいなら瞬殺するだろう。

 と、思っていると体育館の前に到着。

 最後の理性だろう。扉をゆっくりと開けて……。


「ごめんなさい」


 胸ぐらを掴まれていた真那ちゃんを体育館に手荒く引っ張り込む。その後ろから俺も入る。

 気にする生徒は誰一人としていない。


「今、ここにいる立花幸菜は……今までの立花幸菜とは違います。本当にごめんなさい」


 俺の妹は大きく頭を下げ、隣にいる雛も一緒に頭を下げる。

 真那ちゃんは振り向いて、大きな瞳で俺を見てくる。

 それもそうだ。

 立花幸菜が2人存在していて、それを全校生徒の前で。それも推薦投票の結果を発表する前に。

 すぐに俺も壇上へと走る。

 なに妹だけに……幸菜だけに辛い思いさせてるんだ!

 いきなり走り出したので、他の生徒も俺の存在に気づいて、ざわついてします。

 壇上に登ってすぐ幸菜の隣に行き、マイクを奪い取った。


「えぇ……なんて言えばいいのかわからないですけど、さっきの言葉は本当です。ごめんなさい!」


 大きな沈黙が体育館を覆い尽くし困惑に包まれる中、

パーティは始まり、此花女学院にとって過去最大の暴露が露見した瞬間でもあった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ