フィナーレ②
舞台の袖にある放送室。
俺はここで待機することにした。
今、副会長さんが生徒達の同様を沈静化させようと、マイクを使かって注意を促す。
本当に……。
心拍数が上がるのを抑えようと、あっちに行ったりこっちに行ったり、座ったり、立ったり。
綺麗に並んでいるマイクを眺めては、このマイクが楓お姉さまが使ったのかなぁ。
なんて思ってみたり。
ガチャ……って最後から音がする。
「なにをしているの……」
マイクに向かってニヤケ顔をしている俺。
それを見て冷静に質問をしてくる楓お姉さまと愉快な仲間たち。
「昨日、楓お姉さまが使ったマイクか! デヘヘ……ペロペロしちゃおうかな……グヘヘ……って、やろうとしてたんだよね?」
「しないよ!」
なぎさは俺を野獣か性犯罪者だとでも思っているらしく、俺と一緒の思考ということは、俺と同じ変態であるということか。
類は友を呼ぶ。
「呼ばれてないけど」
「呼んでいないわ」
「にいさんは馬鹿ですか? あ、すみません、馬と鹿に失礼ですね」
もうこの3人って仲良しだよね。
俺が中を取り繕う必要性はなさそう。
良いのか悪いのか。
「そんなに私のモノが欲しいのだったら……言えばなにか用意するわよ」
ヤメて……そんなに女の子らしい楓お姉さま……食べちゃいたいくらい好きだから。
「ノンケは再来週にでもお願いしますなのです! おふたりも今は、選挙のほうに意識を集中させてほしいのです」
1番のしっかり者、雛に叱られる上級生一同。
「あら?」
雛の後ろに隠れるようにしてこっちを覗き見ているのって……。
「幸菜お姉さま……」
「真那ちゃん……」
親しくない先輩達だけが目の前にいたために、部屋の隅っこで怯える子猫のように、身を小さくしていた。
手にはしっかりと雛に渡すプレゼントが綺麗な彩りをした紙袋が握られている。
小走りでこちらに来ては、俺の腕を掴み少し安心したように身を寄せてきた。
「とりあえず……本題に入るわね」
負のオーラを醸し出しながら第一声。
こ、これは浮気でもないし、俺から手を出したわけじゃないからセーフ。うん。アウトよりのセーフ。同時だったらセーフって野球のルールにあったはずだし。
後輩なんだもの、しっかりとお姉さんが面倒を見てあげないとね。
「話が進まないから進めるわね。まず、生徒会選挙の結果はお察しのとおりに幸菜が推薦投票で86%の支持を受けている状況。それを当人は受け入れる気はない。で、私の考えなのだけど、ここでネタバラシ。つまりここにいる本当の幸菜と偽物の幸菜、刹那を一緒に壇上に上がってもらって、すべてを打ち明けてもらいます。最悪は退学ということになりうるし、まぁ刹那は前科をいただくことになるわね」
満面の笑みでこちらを振り返る楓お姉さま。
だから、不可抗力だって……。
「あなたはそれを望んでいると?」
幸菜が不服そうにしながらも言う。
「ここでは紛らわしいから、名前で言うけれど刹那はどれだけこの学園に貢献してきたか。が、焦点となっているの、雛子の件にしろ、なぎさの件にしろ、刹那は自分の身を顧みず、二人を助け出した。それに気さくな性格で、挨拶も率先し、少しながらも会話をしてくれる下級生の憧れの的。それを幸菜ができるとでも思っているの?」
それは幸菜には難しい。
「そうだね。2人の容姿は似てても中身は違うからね」
なぎさの同意も頷ける。
「ですね。どうにもなりません」
東雲さんもそれに加わり、敗戦ムード一色。
「そこで、あなた達にも手伝ってほしいの」
楓お姉さまの一言が突破口となる。
「幸菜。あなたが生徒会長になるかもしれない。それは受け入れなさい。もう逃げ場はないのだから。私だけでは収集がつかない可能性があるわ。だから、運動部に属していて下級生にも人気があるなぎさ。おっとりしているのが上級生に人気で、とても親切な中等部の雛子。同級生から信頼の暑い東雲さんに、どうしても刹那を助けてあげたいと思うアーシェ。そして、倉田さん。あなたの力も必要。助けてもらえるかしら?」
全員が一緒にうなずく。
「みんなありがとう。今日でここにいることが最後になるけど……最後まで幸奈のためにやり遂げたい」
そして、最後ぐらい最高の思い出を作り上げたい。
「決まりね」
マイクスタンドから一本のマイクを握り
「さぁ行きましょうか」
即実行。
この行動力、度胸、それが花園楓。
俺の大好きな楓。
さぁ行こう。
フィナーレを飾りに……




