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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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フィナーレ①

「ねえ刹那」


 楓お姉さまと2人っきり。

 昨日も通ったはずの廊下なのに、外が暗くなっただけで、とても神聖な雰囲気を醸し出す。


「はい?」


 そして、いつもと違うトーンで話しかけてくる。

 少し弱々しく、少し戸惑いながらの呼びかけ。


「もし、私が遠くに行ってしまったら……あなたはどうするの?」


 一歩前を歩く楓お姉さまの背中を見てしまう。

 もし、これが小説とかだと、少し背中が小さく見えた。とか、彼女の背中が震えていた。とか言われるんだろうけど、後ろ姿だけ見たってなんにも感じ取れない。

 だから、俺はどう答えたらいいのかと少し悩む。

 引き止めて欲しいのか。

 背中を押して欲しいのか。

 押しても引いても変わらないのは知っている。

 けれど、精神的な要素で大きく変わっていく。

 自分の信じた道を追ってきてくれるのか、それとも、お互いに違う道に進んでいくのか。


「怖い……ですか?」


「そうね……これが恐怖って言うのなら簡単なモノなのだけど」


 すっと歩みを止め、こっちに振り返る。

 お互いの瞳と瞳が向かい合う。

 とても綺麗な澄んだ瞳をしていて、真っ黒で綺麗に流れている髪の毛。

 整った顔立ちに大人びたプロポーション。

 どこぞのお姫様と言われてもおかしくない。

 そんな人が俺の前に居て、俺のこと誰よりも知っていてくれて、誰よりも恋しい。


「私は恋をした。最初は少し気晴らしにでも……なんて思っていたけれど、あなたは私の期待を裏切って……」


「私も、生徒会長さんとお知り合いになるとは思ってもみませんでしたし、もうデンジャラスな学院生活になると思ってもいませんでしたね」


 とても楽しくて、とても嬉しくて、とても……

 瞳から暖かい雫が流れていく。

 なんで、楓お姉さまはそこまで強いんだよ!

 どうして、俺に学院に居て欲しいって言ってくれないんだよ!!

 どうして!

 涙で滲んだ視界。

 真っ直ぐに大好きな人を見つめているのに、歪んでいく視界。

 なにかが近づいてくる。

 それだけの情報しか受け取れない。


「私はあなたが欲しい」


 言葉と一緒に俺と楓お姉さまは……キスをした。

 ひと口。

 優しく抱きしめられながらふた口。


「ファーストキスって苺の味とかレモンの味って聞くけれど、私は涙の味ね」


「ご、ごめんなさい!」


 ゴシゴシ目元を擦り、必死に涙をかき消す。

 止まれ! 止まれ! 止まれ!!

 それでも涙は止まってくれず、ポロポロとこぼれていく。

 優しく抱きしめてくれる楓お姉さまが愛おしい。

 男としての立場としてはダメなのかもしれないし、本当は楓お姉さまのほうが泣きたいのかも。


「私は強い。あなたは弱い。強いモノは弱いモノを守らないといけない。それは形のあるモノでも形のないモノでも一緒」


 俺の髪を優しく撫でてくれる。


「さぁ……最後……フィナーレを飾りに行きましょう」




「みなさん静かにして下さい!」


 生徒会の人がマイクを通して、落ち着きのない生徒達に向け声を発した。

 すぐに沈黙。

 さすがはお嬢様が集う学院。

 今日から入学した私にとっては、とても新鮮で、少しだけむず痒く感じる。


「花園生徒会長は少し私用で遅れると聞いておりますので、副会長の私からパーティーの挨拶をさせていただきます」


 一呼吸してから、大きな握手。

 私もその拍手な中に混ざっては、次の話を待つ。

 次の話……生徒会選挙の結果。

 すぅっと小さく深呼吸をする。


「お断りになるのですか?」


 私の隣にいた雛子ちゃんが、耳打ちする格好で聞いてくる。


「もちろんよ。私は刹那ではなく幸菜。嘘を嘘で塗り固めるのは良い気分ではないから」


 人間は嘘をつく。

 些細なことでも。

 でも、それは弱さを隠すだけのおまじないみたいなモノで、効果があるかないかは相手による部分が大きい。

 見抜く力のある人間がいれば、嘘は効果をなくす。

 ようは、個人であれば効果は大きいし、限定すれば嘘を見抜くことは不可能になる。でも複数、学院の生徒となれば600人は在籍していて、600人の知識をすべて把握して、嘘を付くことは不可能。


「まず、準備に関わっていただいた方々にお礼申し上げます」


 副会長さんは一礼すると、生徒も一礼する。

 本来なら花園楓がスピーチをするはずだった。

 でも、ここにいない。ということは……。


「ねぇ、雛子ちゃん」


「はい?」


「どこかに裏口とかないかしら」


 刹那を呼びにいったに違いない。

 もし、私が拒否したり、正体を明かそうとすれば刹那を投入してくる。


「体育館の放送室へ向かうルートはあります。そこから壇上へ繋がっているのです」


 ちょっと席をはず……して、先回りしようとしたが、私の腕を掴んでいくる長身の彼女。


「行かせないよ」


 しっかりと引き締まった二の腕を顕にして、美脚を見せつけるかのような青いドレス。


「なぎさはそれでいいの? これまでの功績は刹那のモノ。私のモノではない」


「それでも刹那は幸菜のために今までこの学院で生活して、幸菜のためにここから居なくなっていった。それをなかったことにするのは許せないもん」


「私もそれには賛同します」


 背後から声を掛けてくる。

 振り返ると白銀の背の小さい妖精のような少女。


「アーシェさんも」


「アーシェで構わない」


「まぁまぁそこまで怒らなくても良いじゃないですか」


 東雲さんまでもやってきて、これは確実に逃さないための布陣が出来てしまった。

 副会長さんの演説も始まり、いよいよパーティの本番に差し掛かろうとしている。


「あなたの我儘で刹那の今までを無にはさせない」


 はぁ……。

 どうして刹那ってこうも……。


「刹那さんは人を惹き付けるなにかをもっていらっしゃるのですね」


 やりたくはなかったけれど、最後の手段に出るしかない。


「あ……あの……」


 純白の綺麗な綺麗なドレスに雛子ちゃんと同じくらいの背丈。セミロングの黒髪に緊張していて、頬が少し赤みがかっている。

 誰だろう。

 雛子ちゃんもなぎさも、ここにいるみんなが面識を持っていないように、顔を見わせる。


「本当に幸菜様で……しょうか……?」


 彼女は刹那の事を知っている。


「えぇ、私以外に立花幸菜はいないわ」


 それでも彼女は疑いの眼差しを向けてくる。

 やはり、雛子ちゃんに視線を送ってしまったのがマズかったのかもしれない。


「私のお名前を言って頂いてもよろしいでしょうか?」


 彼女の目は真剣だった。

 刹那から交友関係をメモ用紙に書いてもらっていたが、この子の容姿はメモにはなかったはず。

 私が忘れるわけがない。

 円周率も100桁までは空で言えるぐらい、記憶力には自信がある。


「幸菜お姉さまのお知り合いなのですか?」


 雛子ちゃんが合いの手を入れてくれた。


「ひ、雛子様……は、はい。お姉さまには色々とお世話になりま……して……」


 なんだかとても悲しそう。

 もし、刹那だったらなんて言うだろう。

 優しく頭を撫でてあげる?

 優しく抱きしめてあげる?

 優しく……。


「幸菜、こっちにいらっしゃい」


 突然の登場、花園楓が私を手招きする。

 生徒達が突如としてざわめいたので、壇上に立つ副会長さんが、場を沈めにかかる。


「後、そこにいる幸菜の関係者一同も、倉田さんあなたもね」


「わ、私もですか!」


 花園楓は人差し指を口元に持っていき、静かに。と注意を促す。

 さすがは花園楓。

 言葉一つですべてを片付けてしまう。


「話は別室にて、ついていらっしゃい」


 全員なにがなんだかわからず、ただ付いていくしかなかった。

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