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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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雪の降る夜

僅かな時間だというのに、空から舞い落ちてくる真っ白な雪が、地面を覆い尽くしている。

 1歩、足を踏み出せば、独特の感触が足から体に届いて、鼓膜にザクっという振動を届けてくれる。

 そして、俺の腕の中には楓お姉さまが恥ずかしそうに、顔を胸に押し当ててくる。

 隣にいる桜花さんが、なにやらため息を付いて、先に電車から降り、それに続いて俺も降りる。

 さすがに楓お姉さまの体重もあり、ちょっとよろけてしまうが、桜花さんが支えてくれて、なんとか着地。

 2人が歩いてきた足跡は消えかかっていて、俺と桜花さんの足跡が新たに刻まれていく。


「ホワイトクリスマスだな」


 桜花さんはこちらに視線を向けながら言ってくる。

 もちろん、俺に向かっているのではなく、とても可愛い義妹である楓お姉さまに向けて。

 そうやって、義妹いもうとをからかうのはやめてほしい。

 さらに顔を押し付けてきて「聞こえない!」と、グリグリ攻撃をしてくるから。

 あっちで待っているであろう瑞希は、アクセルを踏み込み「ブォン」、通訳すると早く来いと言っている。

 そんな光景を見て、嬉しそうな眼差しを向けてくる桜花さん。

 なんだか、2人が喧嘩をしていたのがはるか昔のように思えてくる。


「さぁ瑞希が待っている。少しペースを上げるとしよう」


 本来、人が歩くように作られていない線路はとても歩きにくく、不安定ながらも、無事に想い人を車の中にまで運ぶことができた。

 ガチャリとドアを開けてくれた桜花さんは助手席へ、俺と楓お姉さまは後部座席へ。

 そのまま滑るように楓お姉さまは奥へと進んでいく。


「楓。いつまで照れているの」


 瑞希が楓お姉さまの態度を見てか、少し怒り気味に注意を促す。


「照れてなんてないわ」


 車に乗り込んでから、1度もこっちを見ようとしない。

 でも、ちゃんと窓に映る楓お姉さまの顔は、普段見たこともないような、女の子の顔をしている。


「瑞希もお姉さんしてるんだね」


「お仕事とプライベートはきっちりしていますから」


「まぁまぁ、義妹が恋をしているんだ、恥ずかしがるのも無理はないだろう」


 大人な対応の桜花さん。

 三姉妹でありながら、ここまで性格が違うのも見ていて面白い。それに、とても歓迎されている。言葉を変えれば、家族のように接してくれているのが、とても嬉しかった。でも


「連れ戻しに来たということは、学院ではもう始まっているんだろう楓」


 ゆっくりと車は出発すると同時に、桜花さんが楓お姉さまに喋りかける。

 腕時計に目を向ける楓お姉さま。


「そうね。もう発表されているでしょうね」


 なにが発表?

 今日はクリスマスパーティであって、ワイワイガヤガヤとテストからの解放や、中等部の3年生が高等部に移る前の挨拶、逆に今年で学園を去ることになる高等部の3年生との思い出づくりなどのイベントだと聞いていたけど。


「そうね。まだ刹那には言っていなかったわね」


 やっと、俺に視線を向ける。


「貴方……いえ、立花幸菜は推薦投票の結果が2/3に到達。そのため信任投票の結果は無効となり、推薦投票の結果が反映されることとなるの」


「いやいや」


 ちょっと待て、俺は別に大それたことをしたわけではないし、なにか学院に貢献したかと言えばそうでもない。

 幸菜が幼少部から在籍していたのなら、それまでの過程で貢献してきている可能性もある。だけど、幸菜は高等部からの新入りで、今までは俺が幸菜の代わりとして、学園生活を謳歌してきた。


「ホントに刹那はにぶちんですね」


 クスクスっと運転席から声が漏れてくる。


「なぜ、楓が推薦を落としたと思います?」


 少し考え込む。

 言われればそうだ。

 容姿端麗・才色兼備の楓お姉さまが落選までしている推薦投票。というか、過去に1度も推薦投票で成り上がった生徒会長はいないんだっけ。


「なにか不満・不安? があった……と考えるべきかな」


「では、刹那。中等部の2年C組の子のお名前を覚えているかぎりで良いので、言ってみて下さい」


 ん~C組って言えば……。


「英里さん、聡美さん、琴子さんに……」


 32人の名前しか出てこなかった。


「後は出てこないなぁ……」


 ちらっと楓お姉さまを見ると、なぜかため息をつかれた。


「出てこないじゃなくて、それで全員。たぶん楓は1人も出てこないでしょうね」


「覚えてても無駄じゃない」


「いつも言っていますけど、そこですよ」


「そういう瑞希も推薦落としたじゃない」


「私の場合は前に出て引っ張るタイプじゃなかったですし、背中を押されるタイプでもなかった。それだけですよ」


 なぜか姉妹喧嘩が始まってしまう。

 頭の回転・キレ共にほぼ互角な2人の口喧嘩……落とし所が見つかりません……はい。

 



 姉妹喧嘩をBGMにして、到着した此花女学院の正門前。まだ中に生徒がいるので、正門は開かれている代わりに警備員さんが2人も、しっかりと仁王立ちして、門番をしている。

そんな警備万全の中、ワンボックスカーが停車。


「ねぇ瑞希?」


「なんでしょう?」


「コッチに来るよ?」


「来ますね?」


「どうするの?」


「どうもしませんが?」


 疑問形に疑問形が帰ってくる謎の連鎖。

「私達は行くけれど、2人はどうするの?」

 瑞希はともかく桜花さんが中に入るのには、手続きが必要となるし、とくに緊急性が高い用事もないため申請は通らないだろう。


「ここで待っていても仕方がない。私たちはホテルに戻るとするよ」


 というので、俺達はここで別れることにした。

 だけど、サンタさんは無情にもプレゼントを用意していた。


「刹那。はいこれ」


 瑞希らしくない可愛らしい言い回しに、ドキっと心は跳ね上がり、隣りにいる楓お姉さまの視線がなにやら鋭く突き刺さる。

 絶対に視線は合わせない。

 だって、わずか数秒先の未来がわかりきっているから。

 そんな視線に怯えながら、クリスマスプレゼントを受け取る。

 もちろん此花女学院の冬服とウィッグ。


「もらっても着替える場所がないんですけど……」


 ガラスにフィルムが貼っているから、外からは見えにくくはなっているけど。


「早くしなさい。来るわよ」


 早くって言われても!

 俺の理性がやめろと止めてくる。

 だが、妹のピンチに駆けつけられないのは兄としてどうかとも……。

 悩む。

 暇なんて無いっ!

 まずは上から……そして、下!


「ど・ど・ど・ど・どこで脱いでいるのよ!」


 バシィーン!


「ヒッヒーンっ!」


 裸の状態での平手!

 しかも背中にクリーンヒット!!

 泣きたいほど痛い。

 叫びたいほど痛い。


「叫んでただろう」


 1番の年上さんに冷静に突っ込まれる。


「早く下を履きなさいよ!」


 すっぽんぽんのぶーらぶら。

 ゾウさんも寒さのせいでカタツムリ状態。

 なにがブラブラは黙っておく。

 サポーターを履いて、下着を履いて……

 上からパットを付けて、ブラを装備して形を整えてから、肌着にカッターシャツ。そしてスカートにブレザーを着込む。

 ウィッグを付けて、ポーチからお化粧道具っと……。

 あら不思議。


「お姉さま、どうでしょうか?」


「男やめたらどう……」


 わずか10分の出来事に車内にいる3人、なぜか引いている。

 あなた達が仕込んだんですけど……。

 ま、まぁいい。

 コンコン。

 警備員の1人がこちらにやってくる。


「あら、横山さん」


 ウインドウを開ける瑞希。

 顔を見た瞬間、完全に警備員さんの顔から血の気が引いているのがわかってしまう。

 もちろん、体も少し引いていく。


「少しだけお願いがございますの。あぁ、大丈夫です。茜の下着を盗もうとして、ベランダを渡り歩いているのを見つけたことがあるなんて誰にも言っていませんから」


「きゃぁあああああああああああああ」


 叫んだ。

 絶叫した。

 振り返りたくない過去。

 しかも茜さんだなんて……。

 確かに茜さんカッコいい系のお姉さんだから年下受けはしそうだけど、年上が茜さんって。


「ですから……ね?」


「どどどどドウスレバヨイノデショウカ」


 どこの外国人だよ。

 でも、その気持ちはわかります。

 瑞希と楓お姉さまは敵に回したくない。

 肉体的攻撃であればいくらでも受け入れよう。

 だがっ!

 精神攻撃は治癒に時間がかかるのだ。


「この子達を中に入れてくださいな」


「え?」


 俺と楓お姉さまを見て、なぜか?マークを浮かせている。

 それもそうだ。今日の今日まで俺が女装して通っていたんだから。


「生徒手帳さえ提示してもらえばいいのですが」


「そこをなんとかしてもらいたいのです」


 もう、生徒手帳は幸菜が所持しているので、手帳を持っていない。

 そうか。

 寮に戻る子のために護衛もしているから、生徒手帳の提示義務があるのか。それにお化粧で変身してしまう子もしるからの対策。

 それを卒業生である瑞希が忘れるはずがない。


「かしこまりました……」


 警備員さんがこそっと瑞希に耳打ちする。

 瑞希もニコっと笑って返答。

 その笑顔が怖いんだよね。


「さぁ行っておいで」


 桜花さんがドアを開けて降りるように促す。

 それに従い、俺と楓お姉さまは雪に足を付ける。


「気をつけて下さい」


 滑らないように手を差し伸べると、自然な笑みでその手を取ってくれた。

 とても細くて少し長めの指が、絡まり合う。

 恋人繋ぎっていうあれ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 さぁ、最後の戦いに行こう。

 雛のために。

 なぎさのために。

 幸菜のために。

 そして、楓のために。

 

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