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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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お姫様だっこ

 中等部の子達が、私を取り囲み、制服を脱がしていく。

 ブレザー。

 カッターシャツ。

 薄いピンクのTシャツ。

 そして、上が下着姿になると、数人の子が思わず顔をしかめる。そして、何人かは涙を浮かべる。

 とても醜い傷跡が胸元を中心に伸びているから。

 1本ならまだしも、2本・3本と複数のメスの後がある。胸の形も普通の子とは違い、とても歪。

 でも、私はこの傷跡は誇りに思っている。

 私がこの世に存在する証であり、刹那との結びつきの証でもある。だから、周りがどんな醜く思っても、悲しんでも、私はダイヤモンドよりも光り輝いて見える痕だ。


「綺麗です。お姉さま」


 雛子ちゃんは私の傷を見ても、綺麗と言ってくれた。

 他の子達も追従するように賞賛の声を上げてくれる。

 美しい。綺麗。だけど、どれも私の心にまでは届いてこない。

 怖い。

 目の前にいる子達が本心で言ってくれているのだろうか。心の裏側では罵倒するような汚い言葉の羅列を刻んでいるんじゃないのか。


「あの……すみませんが開始のお時間ですので、パーティー会場の方までお願いします」


 生徒会の人が私達を呼びに来る。

 ギュっと心を鷲掴みにされたような苦しさが、私の心臓に襲い掛かってきた。もう手術も成功して、痛みも苦しさもなくなったのに……。


「お姉さま?」


 ぞろぞろと会場に向かっていくというのに、私は一歩も足が前に進まない。

 ダメだ。

 この重圧に私の精神は持ちこたえられそうにない。

 この子達の気持ちを私は受けきれない。

 私と刹那は性格が真逆、白と黒のように反対。

 そんな私が純粋なこの子達の気持ちを受け止められるはずがない。そんな恐怖だ。

 嘘がバレて、いずれは離れていく。

 それがまた恐怖。

 いままで守られていたから知らなかったけれど、外の世界は恐怖でいっぱいだった。




「マジかー」


 この電車は大雪のため、運転を停止しております。再出発の予定が分かり次第、再開しますので、もうしばらくお待ち下さい。

 此花女学院の制服を隠すように、紺色のコートを羽織って、肘置きに手を置いて、外の景色を見ていた。

 確かに白銀の粉が降り注ぎ、明日には白銀の世界に変化させてしまうだろう。

 学院から駅まで続く坂道は、スノーボードやスキーをすれば、気持ちいいぐらいのスピードで滑っていきそうだ。

 でも、雛は「寒いのは苦手なのです」と、いい冬がとても嫌いだと言っていたっけ。

 女の子に多い冷え性なのだと。

 いかにも健康そうなのに、やっぱり雛も女の子。

 小さな足を持ち上げて、可愛らしい猫柄の靴下をゆっくりと脱ぎ捨て


「お姉さま……温めていただけますか……?」


 上目遣いで吐息が届く距離で言われたら、どうにかこうにかして、温めてあげるけどなぁ。

 電車の中にいるのが俺だけだから、こんな妄想をしても誰も突っ込んでこない。

 ちょっと寂しかったり。

 はぁ。

 ちょっと渋めの缶コーヒーを一口。

 大人の味に浸りながら、いつ出発するのかと思っていると、ガラガラっと誰かが、こちらの車両に入ってきたようだ。

 別の車両の人がこちらにやってきても面白いことはないんだけど。

 電車が止まって退屈だから、足を動かして退屈しのぎでもしているだろう。そんな些細なことだと思っていると、足音がこちらに近づいてくる。

 なんだろう。

 もう女装を解除しているから、一人称は私ではなく俺と言わないと。

 さっきも駅員さんに「私」と言ってしまって、少し面を喰らっていた。

 すぐには治らないと思うけど、早く治していかないと。

 足音がすぐ横にまでやってきて……。

 窓ガラスに真っ赤なドレスを着た美少女が映し出された。

 驚いて振り返る。


「クリスマスプレゼントなのだけど、どうかしら?」


 どうかしらって……?

 いやいや、今はパーティをしている時間でしょ?

 どうしてここに楓お姉さまがいるんだ?


「あなたが選んだドレスなのだけど、なにも感想は答えてくれないの?」


「あ、いえ、そうじゃなくて……とても似合ってます。うん」


 下から上を見ていく。

 普段のお姉さまから連想しにくいかもしれないけど、フリルで覆われたスカート。胸元には真っ赤なバラが咲き誇り、豊満なバストが今にも零れ落ちそう。

 見とれてしまうほどの美しさ。

 そんな俺の手を楓お姉さまはそっと掴み、グッと力を込めて、座席から俺を立ち上がらせる。

 俺の大好きな人の手はひんやりとしていて、春でも夏でも秋でも、そして冬でも、しっかりと、ギュッと掴んでいないと滑ってしまうほど艶やかで柔らかい。


「戻るわよ」


 戻るって……学園に?


「私はもう女装してないですよ」


 楓お姉さまはクスクスっと笑う。


「男の格好で私って言ってるわよ」


 そりゃね、半年も女学院にいたら言葉遣いもおかしくなるよ。特にお嬢様達が通う学院なのだから、なおさら、言葉遣いには気をつけて生活してきた。


「笑わないで下さいよ。俺だって間違いたくて間違えたわけじゃ」


「わかってるわよ。ほら、いくわよ。妹のピンチを救うのは兄の仕事なのでしょ」


「幸菜になにかあったんですか!」


「ここで話している時間はないわ。行くわよ」


 ドレスの裾を汚さないように少しひっぱりながら走る楓お姉さま。もう一つの手は俺の手をしっかりと掴んでいる。

 電車は田舎町のど真ん中で止まっていて、見渡す景色は田んぼか山か雑木林か。それに大粒の雪がふっているので、視界もあまり良くない。


「ヒールだから歩きにくいわね」


 小声で文句をいう。


「だったら抱えましょうか?」


「……え?」


 聞き返された。しかも振り返った顔は真っ赤で、普段では見せないほど。

 それがとても可愛い。

 ドクンっと胸が跳ね上がるほどに。

 言ってはみたものの……俺のほうが実は恥ずかしい。

 だって、ここは「結構よ」って突き返す所で、普段の楓お姉さまなら……。


「お願いしよう……かしら」


 なんで、どうして、今日という日は女の子を大胆にさせてしまうんだ!


「お、仰せのままに」


 俺と同じぐらいの背丈の楓お姉さま。

 胸の大きさの文だけ重


「なにも考えないこと。なにも感じないこと。なにも」


「わかりましたよ」


 読心術怖すぎ。

 言われた通り、無言、無心、無重力は無理だけど、出来るだけ窮屈にならないよう、中腰になって腰、膝の裏に腕を回し、楓お姉さまがゆっくりと倒れてくるのを受けとめて……。

 とても軽かった。

 妖精の重さなんてわからないけど、たぶんそれと同じぐらい。


「もう少し食べたほうがいいですよ?」


 なぜか疑問形。


「私も女よ……。露出が多くなる月は少しは落とすわよ」


 そっぽを向きながらも、答える当たり楓お姉さまらしい。

 車両の中を真っ赤なドレスの生徒会長をお嬢様抱っこで運ぶ絵。

 車両の中に誰もいなくてよかった。

 誰かに見られていたらこっちが悶絶しそうだ。

 車内を歩いて、外へと向かう。ていうか、ここ。駅でもなく、線路のど真ん中。

 どうやって入ってきたんだ?

 そんな疑問はすぐにどこへやら。

 扉を開ければ桜花さんがいて、外からはヘリのようなド派手な音が聞こえる。

 もちろんヘリなどは止まっていない。


「やること派手過ぎますよ」


「私に言うな。電車を止めたのも、ここにあのド派手でうるさい車で押し寄せたのも、楓と瑞希だ」


 あぁ、この二人なら戦闘機さえもとめそうだもんなぁ……。

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