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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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気持ちの居所

 雛子ちゃんとなぎささんに腕を掴まれながら体育館にまで連れてきてくれる。

 内装は中等部の子達がお姉さまに喜んでもらおうと、自分たちで純白のカーテンを取り付けたり、色鮮やかなテーブルクロスやコップなども個々に用意している。

 床も今日だけは板張りから絨毯に。

 それほど、このパーティには力が入っている。

 その間も雛子ちゃんの軽快なトークのおかげで、刹那の立ち位置であったり、ダンスはまだ男性のステップしか習得できいないことや、下級生からダンスの相手を数十人もお誘いがあること。

 さすが刹那、断ることを知らない。


「お姉さますみません。少しご用事があるので」


「うん。いってらっしゃい」


「さすがご兄妹ですね」


 雛子ちゃんはクスリと笑い、同級生のほうへと歩いていった。しっかり者だから、みんなから頼りにされているのでしょう。

 さて、ふと隣を向くとすでになぎささんは隣にいなかった。

 まだ始まってもいないから、食べ物を漁りにいったわけではなさそうだけど……。

 でも、義妹いもうとさん、いるんだっけ。

 もしかしたら、そっちのほうで用事なのかも。


「お姉さま!」


 私の前に小走りでやってくる。中等部の子なのかな?

 背丈は小さく綺麗なドレスを着て、お化粧をしているので、幼さが隠されて大人の女性に変貌している。


「今日のお相手、よろしくします」


 ドレスの裾を掴み、優雅にお辞儀。

 私は制服なので、着飾ることもなく、ただ「よろしくお願いします」とだけ言う。

 すると、小首をコクリとかしげる。


「お姉さま?」


「どうしたの?」


 彼女は「いえ……」と、なにかが噛み合わない。とでも、言いたそうに、私から離れていく。

 さすがに女の子だ。と、私は思った。

 私が刹那と入れ替わったのを見抜いただけ。

 たぶんだけど、口調の柔らかさやトーンなどで、違和感があるのだと思う。他にも匂いも違うだろうし、髪質も見ればわかるだろうし。


「私はひと目でわかるわよ」


 スッと隣にやってきた女。

 私の恋敵。

 花園楓。


「わからないって言ったら、刹那を奪っていた」


「無理よ」


 勝ち誇ったように言うので、少し苛立ちを覚える。

 だけど、私は知っている。

 この2人はまだ誓いの言葉を交わしていない。


「まだ告白もしていないくせに」


 今度は花園楓が苛立つ番。


「ちょっと体調がよくなったら、なかなかお喋りなのね」


「えぇ。もう軽いジョギングもしていますから」


「そう。おめでとう。で、あなたのご質問に答えてあげるわね」


 そういい、少し溜めを作ってくる。


「別に私達に誓いの言葉など必要ないの」


 どうよ。っと、ばかりに豊満な胸を強調してくる。

 握りつぶしてやろうかっ! なんて、思うけど、私の腕力ではどうにも出来ない大きさ。

 大は小を兼ねるって言葉が心に突き刺さる。


「だったら、私が、いえ、雛子ちゃんが刹那とキスしてもいいのね」


「別に構わないわ」


 なにを強がっているのか。

 でも、不安になる気持ちもわかってしまう。

 刹那が学院に行っている間、不安で仕方なかった。

 誰かと……とか、一緒に……とか、想像すると怖かった。

 私の所有物でも、法律的に結ばれない関係であったとしても、好きなのだから不安になる。

 恋って一緒だと安心するけど、目に見えない場所にいると、刹那が別の世界に行ってしまったようで、もう戻ってこないんじゃないかって、心ではずっと保証のない大丈夫を言い聞かせていた。

 でも、もう刹那の心は私でも雛子ちゃんでもなく……。


「ありがとう」


 まっすぐな視線が私の瞳を見つめてくる。


「あなたがいなければ、知ることもなれければ、出会う事もなかった。運命という言葉は綺麗すぎると思うけれど、私の中ではその言葉でしか表すことができない。それぐらいの出来事」


 頬に暖かいなにかが流れ落ちた。

 真っ赤なドレス。胸元にはバラが咲き誇り、腰に大きなリボン。どこかのお姫様のよう。


「バカね」


 そっと私を抱き寄せ、豊満な胸に顔を押し付けられた。

 トクン。トクン。っと鼓動が聞こえてくる。


「もう隠し事はできない」


 その言葉の意味は私にはわからない。

 だって、ここに居たのは私じゃなくて、刹那なんだもの。時間も居場所もここには……。


「お姉さま。ドレスに着替えましょうなのです」


 私の腕に雛子ちゃんの手が絡みついてくる。


「いってらっしゃい。制服ではさすがに変わり映えしないでしょうし」


 そういって、私の背中を撫でてくれた。

 こんなに優しい人間なはずがない。だけど、今はその優しさを受け入れよう。顔をあげると、花園楓は手を伸ばして、私の前髪を整えた。


「雛子。頼んだわよ」


「はい」


 雛子ちゃんに引かれるまま、更衣室へと向かっていく。

 他にも雛子ちゃんの同級生や、中等部の子達もゾロゾロと私達の後ろを付いてくる。

 体育館を出てすぐの更衣室に到着すると、後ろを付いてきていた子達が扉をスライドさせる。すると……。


「……綺麗」


 薄いピンク色をしたウエディングドレス。

 別に婚姻するわけでもない。なのに、こんなに可愛くて、とても高そうなドレスは、私には似合わない。

 どちらかと言えば、雛子ちゃんやなぎさのほうが似合う気がする。


「お姉さまのために、私達、中等部の生徒会が作りました」


「私のために?」


 私のためではない。

 この子達は刹那のために一生懸命、思いを込めて作り上げた。


「私にこのドレスを着ることは」


「幸菜だから着る権利があるんだよ」


 中等部の子達の後ろ。

 蒼いドレスを着たなぎさ。

 その顔が少し怒っていた。


「そのドレスはね、世界に一着しかないの。その意味わかる? このドレスを渡されたってことはね、この子達が生徒会長でもなく、私でもなく、他の先輩達でもない、幸菜に着て欲しいから、授業が終わって、お姉さま達を迎えに行って、部屋までお見送りしてから、ちょっとずつ作ったんだよ」


 でも、私は刹那じゃない。

 この子達に着て欲しいのは刹那であって、私じゃないのはわかってる。


「この道を選んだのは幸菜だよ。そんなに辛いなら、どうしてこのタイミングだったのさ」


 だから、私は卒業まで待つと言った。

 こんな中途半端な時期、そして、いきなりパーティーとか、どうすればいいのかもわからない。

 どうすれば、どう反応していいのかわからない。

 ここまで、大勢の視線を向けられたことがないんだから。

 ここまでの愛情を受け止めたことがないんだからしかた


「逃げるなっ!」


 なぎさの瞳から光るモノが流れ落ちた。


「この子達の気持ちから逃げるなっ!」


 怒ったなぎさはどこかに行ってしまう。

 その横顔はとても悲しそうで。

 あぁ、なぎさも……。

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