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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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親友の姿

 12月24日。 

 学院の体育館は飾り付けのお陰で、パーティー会場に早変わりした。

 生徒会と有志という形だが、ほぼ中等部の子達が率先してやっている。もちろん雛も参加している。

 冬休みに入ったというのに、寮内は活気があって、休みという気がしない。


「今日は雛が来ないから、もう少しだけ眠ろう」


 いつもの起床時間だけど、雛達は料理の仕込みなどで朝から大忙し。

 なんでも、料理人などは呼ばずに、中等部の子達が料理は用意する。飲み物は、給仕さん達が準備や、配膳をしてくれる。出来る限り、生徒主導でするのがクリスマスパーティなんだとか。

 なので、高等部の子達は夕方まで、なにもやることはない。

 ブーブー。

 俺のスマホが起きろと、誰かからのラブコール。

 仕方ない。

 スマホを手に取って、スライドする。


「遅いです」


 あ……我が妹だ。


「ごめん。ちょっと準備しててね」


「ベッドで横になっているのに準備ですか、そうですか

 どこから見てるんだ!

 カーテンは閉めているし、監視カメラは付いていない。

 GPSで位置情報はバレてしまうけど。


「きちんと言っているんですよね?」


「うん。今日の夕方に俺と幸菜が入れ替わる。それはみんな知ってるよ」


 嘘だけど。

 もちろん、雛もなぎさも……楓お姉さまでさえ知らない。


「なら、いいですけど」


「幸菜?」


 なんか歯切れの悪い。


「本当にいい」


「いいんだ。これは最初に決めたこと。幸菜の体調がよくなったら入れ替わる。それに、俺はこの学院では異端児なんだ。だから幸菜はなにも気にしなくていいんだよ」


「ですけど」


「妹は兄のことを心配しなくていいの。はい、この話はお終い。それで、まだ家にいるの?」


 少しの沈黙があったけど、幸菜は「はい。2時間後の電車でそちらに向かいます」と、事務的な返答を返してきた。

 もうこれは時間がなんとかするしかないだろう。

 だって、いつもの幸菜ならもっと「馬鹿ですか? そんなに早く行くわけないでしょう」などと、罵ってくるのに。

 妹も成長したんだなぁって実感した。

 体は成長しないのに。


「あ、部屋にあったエッチなDVD、割っておきましたから」


「ごめんなさい! それだけは勘弁してください!!」


 さすがに半年以上も部屋にいないとあそこまで詮索されるのか。あ、母さんにバレた時はビデオデッキの下の隙間に隠していて、翌日になったら、本棚に綺麗に並んであった。

 しかもタイトルは見えないように、表紙を裏返しにして細工までしているのに、母親は表紙を表にする始末……。

 その夜は赤飯でした。

 だから、辞典をくり抜いて、その中に隠したというのに!

 なんだ、俺にはプライバシーというのはないのか!!


「冗談ですけど……あるんですね。燃やしておきます」


 ――っ!

 ハメられた。

 終わった。

 俺の妹物のDVD……。


「それでは、電話切りますね」


「あぁ……うん……。気をつけてね」


「はい。では後で」


 ガタリ。

 両手、両膝を床に付き、項垂れてしまう俺。


「ゆっきなー暇だ……なにがあったの?」


 多分憐れみな眼差しを俺に向けていることだろう。

 妹に妹物のエッチなDVDを見つかるとか、切腹しないといけないレベルだよ。

 もし、君の部屋に熟女物のDVDあって、母親にそれを見つかったら、死にたくなるでしょ? 

 とある人は、ふ●りエッチって漫画を通学カバンに入れたまま、遊びに行って、帰ってきたらリビングの机の上に置かれていたこともあるらしいし。

 そんなことはどうでもいい。


「なにもないよ……ちょっと心にダメージを受けただけだから」


「結構なダメージ受けてるよ?」


 それよりも。と、なぎさは言い。


「今回は結構なパーティーになりそうだよ」


「そうなの?」


 前回がどれほどの規模だったのかが、わからないからなんとも言えない。


「でもさ、今朝の楓お姉さま、少しだけおかしかったんだけど」


 朝に弱い楓お姉さまを起こしに行くと、すでに起床していて、制服にまで着替えていた。ただ、なぜか落ち着かない様子で、罵詈雑言。いや、腹黒さがなかった。

 雛には気にするように言っておいたから、なにかあればすぐに連絡は来るだろうけど。


「気にするだけ無駄じゃない?」


 まぁそうなんだけど……やっぱり、無理してしまう人だから、気になって仕方ない。

 少しだけでも覗きに行こうかな。


「ねぇ、ちょっとだけ練習に付き合ってくれない?」


「今から?」


「そう。だから練習着を着てるんだけど」


 ん~。

 悩むを俺の背中をなぎさは無理矢理押してくる。


「いいから」


 部屋の扉を開け、俺は学院のグラウンドへと足を進めた。




 もうあの頃の怪我は完治していて、タイムは安定している。

 学校指定の体操服ではなく、緑色のジャージを着て、寒さ対策もしっかり。

 ストレッチを始めて、軽くランニング。

 誰もいないグラウンドを走るなぎさの姿は、やはり王者の風格が垣間見れる。ただ走っているだけ、それも軽く流しているだけなのに。

 足を痛めている俺はストップウォッチを片手に、なぎさが戻ってくるの待つだけ。

 このグラウンドも今日で見納めか。

 色々あったなぁ。

 思い出が次々と溢れてくる。

 なぎさに迷惑かけたし、ここらへんからかな。雛は教室にいる私を見つけると、大きくてを振ってきて、小さく振り返してあげると、物凄く喜んでくれて。

 楓お姉さまは……猛威を奮っていたっけ。


「幸菜! スタート合図」


 はいはい。

 自分勝手ななぎさに合わせ、俺は「よーい……ドンっ!」と声を出す。

 ビュン。

 風を切る音が聞こえた。

 出会った頃のなぎさとはスピードが一目瞭然。

 長距離タイプだった体は、短距離へと完全にシフトしている。

 息を整えながら、こちらに戻ってくるなぎさ。


「まだだなぁ」


「え?」


「リーサにはまだ届かない」


 俺は十分に全国制覇は狙えるタイムだと思った。

 高等部の年齢でこのタイムを叩き出せる人はいないだろう。


「あの子、最後の伸びが凄いんだよ。こうビューンって感じで」


 手振り素振りで、リーサの凄さを伝えようとする。

 それを見て、噴き出してしまった。


「なにさ!」


「いや、感覚で話をされるとまったく伝わらないなって思って」


 でも、それがなぎさらしい。

 難しい言葉で着飾ることもなく、純粋に自分を出してくる。それにイタズラが好きで……。

 さぁ、見守ろう。

 最後のなぎさの勇姿を……。

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