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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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プレゼント

 初等部から入学した私に、友達と呼べる人がいなかった。入学式早々に、友達がいたらどれだけ嬉しかっただろう。

 それに此花女学院は全寮制で、どれだけ家が近くても、入寮しなくてはいけない。

 親に甘えたい年頃なのに、右も左もわからない場所へ置き去りにされた気分になった。

 それでも時間は流れ、学院に向かわないといけない時間になると、寮長さんが私の部屋までやってきて、集団登校であることを伝えられ、みんなに付いていくように言われる。

 なにも言えなかった。

 夜、眠れなくて、体がダルい。

 環境が変わって、体調を完全に崩してしまっている。

 視界がボヤケたり、ふぅっと空へ飛び立ってしまうような感覚がしたり。

 それでも必死に付いていく。

 せめてもの救いが、坂が少ないことだった。

 幼少部、初等部の校舎は街の近い場所にある。

 なにかあれば、すぐに大人を呼べる場所ということで、街のすぐ近くに校舎を建てたのだとか。

 それでも大人達はなにも見てくれない。

 お父さんと同じように。

 やっとの思いで着いた学院は、とても大きくて、私の居場所なんてないように感じた。

 みんなよりも2歩遅れて進んでいく。

 もうついていくことは無理なほど、衰弱しきっていて……。

 気がつけば、保健室のベッドで眠っていた。




「おはよう。夜は眠れなかったの?」


 街に向かうバスに乗り込んですぐ、真那ちゃんが眠ってしまい、肩を貸す形になっていた。

 もちろん、可愛らしいヨダレも染みこんでます。


「す、すみ、す、みませ……ん」


「いいのいいの。まだ少し時間があるから眠っていてもいいのよ」


 眠たそうに瞼を擦りながらも、小さく顔を横に振る。

 だけど、コクンっとしなだれる姿を見て、とても愛らしくって、抱きしめたくなる。

 そういえば、ポケットに雛からもらった飴玉があったはずだ。

 スカートのポケットを探ると、いちご味の飴玉が1つだけあり、封を開けて「あーん」っと真那ちゃんの口の中に放り込む。

 白い歯と飴玉がカチカチと当たり合う。


「少しは眼が覚めたかしら」


「はい。ありがとうございます」


 俺達のやりとりを見ていた子達がざわつき始める。

 なにかすればこうなるので、最近はもう慣れっこ。

 だけど、真那ちゃんは慣れておらず、仕切りに周りを気にしている。

 そんな真那ちゃんが可愛くって、つい、髪の毛を撫でてしまう。そして、髪の香りを嗅ぐようにして


「いつものことだから、堂々としていて」


 と、耳打ちしてあげた。でも、女の子の髪の毛って、とても良い匂いがするから、性的興奮を誘発させてしまう。自業自得とはまさにこの事だと、常日頃から思う瞬間だ。ここが共学だったら、笑い話で済むんだろうけど、女学院ともなればそうはならない。

 みんな、男という生き物の生態を知らない。

 汚らわしいとさえ思っている子もいる。


「長嶺様がお慕いする気持ちが少しわかったような気がします」


 俺の肩に頭を置いて、もっと撫でてと催促しているようだ。

 それに応えるように、撫でてあげる。


「もし、この学院が共学でしたら……お兄様って言ってしまいそうです……」


「いいよ。雛もたまにそう呼ぶから」


「うふふ。おちゃめな冗談です」


 よかった。

 さっきまで緊張しっぱなしだったから、なんとか出来ればって。それが上手くいって、本当によかった。

 ずっと雛の傍に居てあげてね。

 雛をお姉さんにしてあげてね。

 あ、雛の気持ちもあるのか。

 どうか、2人の気持ちが繋がりますように……。




「なにがいいかしら」


 雛のプレゼントを探しにやってきた俺達。そして、なぎさや凛ちゃん。そして楓お姉さまへのプレゼントも一緒に見て回ろうと思っている。

 年は違えど、真那ちゃんという女の子もいることだし、すんなりと決めることが出来るはずだ。


「プレゼントを差し上げた事がないので、私も全く……」

「また冗談ね。お父さんやお母さんにぐらい、あげたことはあるでしょう」


「ありません!」


 完全な拒絶だった。

 近くにいたお客さんもびっくりして真那ちゃんに視線を向ける。


「真那ちゃん、落ち着きましょうか」


 ハッと我に返り、真っ赤な顔をさせて、俯いてしまう。


「大丈夫」


 そう言って、正面から髪を撫でてあげる。

 此花女学院の生徒には、少数ながらも問題を抱えてやってくる。

 楓お姉さまもそうだった。

 家族の絆の亀裂により、此花女学院にやってきた。

 現在はその仲も、少しずつではあるが修復されていて、たまにメールでやりとりをしている。

 本人は恥ずかしがって、誤魔化したりしてるけど、見ているこっちからしたらバレバレ。でも、それがとても可愛かったり。

 楓お姉さまの萌ポイントは、また別の時に話すとして、真那ちゃんもその1人だ。

 楓お姉さまに訊いてみたら、盛大なため息を吐き出された。


「あなたは新聞やニュースを見るようにしなさいね」


 う……。

 少しは見るようにしているけど、政治家の献金疑惑や、アイドルの不倫騒動など、一向に興味が湧かない。

 人の恋路に外野がとやかく言うのは間違いだと思うしね。

 だけど、親が子を見捨てるというのは、見過ごせない。

 真那ちゃんのお父さんは国会議員。

 スキャンダルも多く、裏金問題や献金問題で何度もニュースのネタにされるほどの人だ。だが、それを上手いこと掻い潜り、何回も選挙を勝ち抜いている。


「邪魔だったのよ……」


 父親も母親も真那ちゃんに愛を注がなかった。

 2人は愛を語り合うこともなく、真那ちゃんを身籠った。母親としては、金銭に困ることがないから。そして、父親は快楽に身を任せた。

 



 いつものようにオープンカフェで紅茶を飲み、他愛もない話をする。

 いつも雛がどんな感じだとか、学院ではどんな風なのかなど、真那ちゃんは本当に雛のことが好きみたい。


「それじゃあ行きましょう」


 大好きな雛のプレゼント選びの続きだ。

 さっきはちょっとした地雷を踏んでしまい、ご機嫌を損ねてしまったので、今度は気をつけよう。

 席を立つと、2人、並んでショッピングモールを見て回っていく。

 だけど、さすがにお値段が高い。

 可愛い置物があったんだけど、さすがに数万円と書かれた値札を見たら、買う気が失せてしまった。というよりも、財布の中身に諭吉さん1人しかいないから買えない。

 これでも無理を言ってお小遣いを前借りさせてもらったのだ、なんとか予算以内に抑えないと……。


「真那ちゃん、なにかいいのはあった?」


「ありました……けど……」


「けど?」


 可愛いがま口財布の中身を見て


「お金が……たりません……」


 同じ悩みを持つ子が身近に居たなんて。

 学園の子達はカードでガシガシ、プレゼントを買い込んでいく。それを横目に見る俺達。


「「はぁ……」」


 とため息が漏れた。


「もう少し見ていきましょうか」


 もう少しお手頃なお店があるかもしれない。

 意気消沈しながら歩いて行く。

 すでに会話も少なくなっていた。

 値札を見るたびに、ため息を吐き出す。

 それを何十回と繰り返した、そんな時、たまたま、とあるお店が視界の中に入ってきた。

 俺はこれだ! って思って、真那ちゃんの手を取って、そのお店に入る。

 色とりどりの布地、糸などが有り、裁縫道具などを売っているお店だ。

 刺繍もありだと思うけど、あれはセンスが必要だと母さんが言っていたの思い出し、俺と真那ちゃんは店内の奥へと進んでいく。


「真那ちゃんあったよ」


 肌触りもよく、猫が遊びたくなるのも頷ける。


「毛糸……ですか?」


「そう。手作りのプレゼントをしましょう」


 完成された物は高く、俺達のお小遣いでは到底買えない。だけど、完成品前の状態であれば、数千円で買えてしまう。

 完全に同じ物は無理だけど、世界に一つだけのプレゼントを送ることができる。


「私、言ってはあれですけど、不器用で……」


「うん。私もよ?」


 ん? 

 それがどうしたのだろう。


「きちんとした物を作れる自信がありません……」


 なんだ、そんなことを気にしていたのか。


「きちんとした物を贈ろうとする気持ちが大事なんだと思うよ」


 誰だって初めてのことを、上手にできるはずがない。

 俺だって出来るとは思っていない。

 毛糸の種類を選びながら、買い物カゴに入れ、色んな種類の編み針にどれがいいのか……。


「お、こんな所に本があるよ」


 編み物の初心者用の本だ。

 ビニールに包まれているわけでもなく、誰かに読まれた形跡のない本に手を伸ばす。

 真那ちゃんでも見やすい高さで本を開いて、一緒にどれを編んでいくか決めていく。

 やっぱり、マフラーが定番かな。

 手袋も有りだし、最近はぬいぐるみとかもあるんだ。


「雛は猫ちゃんが大好きなの。真那ちゃんはぬいぐるみにしてみる?」


「私……自信が……」


「上手に出来ないと雛に嫌われてしまう?」


 小さくコクリと頷く。


「真那ちゃん……私の雛を馬鹿にしないでもらえるかしら」


 あえてキツイ言葉を選んだ。


「雛はそんな小さい人間ではないわ。不器用だろうと上手にできなかったとしても、喜んでくれて、大事にしてくれる。私達は他の子達と違うことをしようって言っているの。学園で私達だけの特別なプレゼントをしようって、他の子達と同じことをしても同じ評価しかもらえないわよ」


 お金の額で気持ちが変わるのであれば、お金が必要なんだろうけど、雛はお金の額で気持ちが変わるような子ではない。


「真那ちゃんは、そんな雛が好き?」


「いえ!」


「なら、がんばりましょう。でね、雛達に見つかりたくないから、夜に一緒に作らせてもらえないかしら」


「は、はい! ぜひ、いらしてください」


「ありがとう」


 編み物の本を見ながら、初心者なりに道具を揃えていく。

 これがいいかな。こっちのほうが編みやすいかな。なんて、お話をしながらの買い物はとても楽しくって、誰かのために手作りをするってワクワクしてしまう。

 俺が出来る最後のプレゼント。

 嬉しそうに買い込んだ毛糸を抱き込む真那ちゃんを見て、やっぱりこの学院にまだまだ居たい。もっと雛となぎさと、そして、楓お姉さまと、もっともっと……一緒に居たい。

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