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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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入れ替わり

 私はこれでいいのでしょうか。

 にいさんに電話をした日、いつもと変わらない言葉が帰ってきた。

 どうしてこうも冷静でいられるんだろう。

 そんな疑問が私の中に芽生えた。

 怒りに似た感情と言えば正しいのかもしれない。

 すべては私の責任なのは、わかっている。でも、なにか冷めたような、関心がないような素っ気なさがあった。

 雛子ちゃん、なぎささんには伝えたほうがいい?

 にいさんはきちんと自分で伝えると言っていたし、私から言わないほうがいいかな? 

 それとも花園楓に……。

 はぁ

 私は変わった。

 自分で気付けるほどに。

 スマホのディスプレイには夏休みの時に撮った、みんなの浴衣姿が写っている。

 雛子ちゃんはどう思うだろう。

 嫌だと泣いてしまうかもしれない。

 それとも、なにも言わずに我慢して、強がってみせるかな。

 なぎささんは……そっかぁって、終わりそう。

 花園楓はどうだろう。

 ホテルでの一件で、どうなったとかは聞いていない。

 あの時は学院に潜り込んで、刹那が眠った後、私は授業を受けていた。

 初めての学院はとても新鮮だった。

 雛子ちゃんが隣でお喋りをして、私はただ頷くだけ。

 そうしていると、中等部の子達や上級生の方々が挨拶してくる。


「幸菜様、おはようございます」


「幸菜さん、ごきげんよう」


 1人や2人ではなく、すれ違う生徒のほとんどが挨拶をし、学院に向かう。

 有名なアイドルかのような扱いに戸惑うしかない。


「……おはようございます」


 戸惑いながら挨拶を返す。すると、以外な反応が帰ってきた。


「お体の具合が終わるのでないですか?」


 いえ、戸惑いしかないんです。

 なのに、顔も知らない学院の方々から、心配されてしまう。


「幸菜お姉さまは、女の子の日なのです」


 すると、皆が納得したように「失礼しましたわ」と、謝罪を述べてくる。

 私は「いえ、お気になさらず」と言い、その場を凌いだ。

 その後も挨拶は留まる事を知らない。雛子ちゃんのトークのように。

 

 学校に着いて、教室に向かう。

 すると、クラスメートがザッと押し寄せてきて


「ニュースを見ました! 願いが叶ったようでよかったです!!」


 有栖川グループの代表取締役を逮捕。

 花園グループの株価急上昇。

 わずか数時間前のことで、世界経済は大きく変わる。

 取り囲まれてしまった私は、あたふたするだけしか出来ず「えぇ」「はい」「いえ」以外になにも言えない。


「はいはい。取り囲んで話をしてると、幸菜が迷惑だよ」


 輪の外から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 そして、背後から肩を掴まれて、人だかりを気にすることなく進んでいく。

 なんて大胆な人だろう。

 被害者の私が「すみません」「失礼します」と謝りを入れる。

 でも、正直言って、助かった。


「さすがに刹那と匂いが違うね」


 雛子ちゃんには前もって『一日だけ入れ替わる』と教えていたのに、なにも知らないなぎささんが、出会ってすぐに気がつくのは以外だった。

 髪の毛に顔を突っ込み、クンクン嗅いでくる。

 さすがにイラっとした。

 だって、これを刹那にもしているのではないかという疑問が湧いたから。


「わかりやすいね」


 髪の毛から顔を離すと、今度はクスクス笑ってくる。


「大丈夫だよ。刹那にはこんなことしなから」


 本当か不安になる。

 でもっと言葉を続ける。


「こんなことはするよ!」


 腋に手を突っ込んできたと思ったら擽ってきた。

 逃れようと、体をクネらせて声を荒げる。

 制服は乱れ、髪は乱れ、息が乱れ。

 開放されて間髪入れずに


「なにをするんですか!」


 と、怒りの1言。

 だけど、さすがはなぎささんなのか、気にした様子はなく


「とても……セクシィーだったよ」


 と、笑いこけ、私の口からは、はぁ……って、ため息が漏れる。

 よほど、笑いのツボにハマったのか、お腹を抱えて笑い続ける。その姿を見ても呆れるだけで、苛つきやムカつきなどは感じない。これはなぎささんだからなのだろうと感じた。

 もし、他の人が同じようなことをして、同じように笑いこけていたら怒りを露わにしただろう。

 私が席に着くと、なぎささんも遅れてやってくる。

 初めて座る席は、とても居心地が悪く、異世界に飛ばされた主人公のよう。

 見慣れない景色。

 見慣れない人々。

 慣れない環境。


「もっと、リラックスしなよ」


 おっこいせっと、椅子をずらして座るなぎささん。


「もっと居心地の悪いことになるから」


「どういうことですか?」


 おや? っと、驚いた顔を見せる。

 私だって、すべてを知っているわけではないです。


「今回の件、テレビに薄っすらだけど、刹那が映ってるの。確証がないから、誰も言わないけど、服装が此花の制服。そして、花園と関係の深い人間は、楓さんか刹那になるからね。雛子ちゃんの件でお株上がって、私のときも刹那が関わってるってことは、わかりきってることだから、相乗効果で立花幸菜の人気は、うなぎ登りというわけ。それに、生徒会選挙の推薦投票分、ほとんど幸菜に票が入っちゃうのは確実なわけさ」


「断ればいいだけじゃないですか」


「断れるの? 中等部・高等部の生徒が集まってる中で」


 それは私が。ということだろうか?

 それとも刹那が。ということなのか。


「別に断る必要もないと思います。だって、私は」


「そのことを何人の人が知ってるわけ? いつ、入れ替わるの? 今日でわかったよね。この学院で刹那がどれだけの人気があるかってことが。初等部・幼少部にだって、『立花幸菜』って名前は知れ渡っているんだよ。私は、刹那も幸菜も大好きだよ? でもね、刹那がここに居たっていうあかしを幸菜が踏みにじるっていうなら、許さないよ」


 私は感の良い方だ。

 だから、気付いてしまう。

 なぎささんも刹那が好きなのだ。

 ただ、彼女は負けることが嫌いだから、それを胸の内に秘め、誰にも言わずに押し殺す。それが白峰なぎさという少女なのだと。

 刹那は罪人だ。

 こんなにも素敵な人達と友人になり、恋心を抱かせるのだから。


「えぇ。わかってます」


「なら良し! もうすぐ授業が始まるね」


 勝手がわからない学院を、さりげなく手助けしてくれるなぎささんに感謝し、私はすべての授業が終わった後、誰にもさよならも言わずに、電車に乗り込み自分のいるべき場所へと帰っていく。

 その電車の中で、このまま卒業まで刹那が学院に居てもいいじゃないかと考えた瞬間だった


『刹那がこのまま居ればいいとか、絶対に思っちゃダメだから。それじゃあまた学院で会おう(*´∀`*)』


 なんて、無邪気でなにも考えてないフリをしているのに、面倒見の良い人なんだから……。

 

 

 

 

 

 


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