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妹のためならこれぐらい!  作者: ツンヤン
真っ赤なドレスが舞う時に
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秘密

「で、君達は、なにをしに来たんだ」


 あれから1ヶ月が経った。

 有栖川は崩壊し、東条、花園が後始末をするという形で、現在の日本経済を立て直した。

 すでに和馬さんは退院し、忙しい日々を過ごしているらしい。だが、ベッドに横たわっている金髪のお姉さん。桜花さんは、未だに1人では歩くことが出来ないために、入院を余儀なくされている。

 俺達、4人は休日にこうしてお見舞いにやってきたというわけだ。

 極普通の個室にいるだけなのに、どこかの王室ような気品がある。


「あぁ! なぎさ様の分はお渡ししたじゃないですか!」


「だって部活帰りで来たんだもん。お腹はすくよ」


 そう言って、桜花さんのために皮を向いた林檎を貪る野獣。

 ホントになにをしに来たんだろうか。

 桜花さんの隣に座る楓お姉さまも呆れたご様子。

 今や、この2人はすっかり仲直りして、本来の姉妹の姿を取り戻していた。


「あなた達、病院なのだから少しは静かなにしなさい」


 それに、楓お姉さまの雰囲気が大きく変わったように思う。

 やっぱりお弁当は一緒に食べてくれないけれど、周りに対する攻撃的なオーラを出さなくなった。それに伴い、朝の挨拶をしてくれる子がとても多くなり、お喋りしている時間が無くなってしまった。

 雛は複雑な気持ちなのだと言っていた。

 俺としては良いことだと思うけど。


「君はもっと周りの気持ちを汲む努力が必要だな。だろ楓?」


「桜花の言うとおりね」


 本当にこの2人は仲違いをしていたのだろうか……。

 実は、お芝居だったんじゃないの?

 ベッドの下から「ビックリでした」なんて看板を持った人がいても驚きもしない。そっちのほうが安心できるよ。

 こっちの気持ちを知ってか、2人はクスクスと笑う。

 まぁいいか。

 こうして平和な時間が過ぎていくのだから。

 



 お昼を過ぎた辺りで俺達は病室を後にする。

 この後はリハビリがあり、さすがに無様な姿を妹には見せたくないという桜花さんの希望により、いつもこの時間はショッピングモールで時間を潰す。

 女の子の買い物に付き合うのは苦手だったりする。

 服を一着買うにしても、数時間を要するからだ。

 気に入ったのなら買えばいいのに、別のお店に行き、ああでもないこうでもないと言い、そして、最初に気に入った服を買う。

 これはお嬢様達も例外ではない。


「ねぇねぇ、ゆきなはこんな服どう思う?」


 手首にフリルの付いた無地の白い服を自分の体にあてて、見せてくる。

 ラフな格好ばかりしているから、こういった女の子っぽい服装は似合わないのかと思ってたけど、手足が長いし、身長もあるので、以外と似合うじゃん。

 とでも言えば、付け上がるから


「まぁ、いいじゃない」


 とだけ言っておこっと。

 そうなるとだ、案外、ワンピースなんかも似合うんじゃないか?

 脳内でなぎさが白のワンピースを着ている想像してみた。

 ひまわり畑の中にポツリと立っていて、名前を呼ぶとこっちを振り返る……。

 ないな。

 うん。絶対にない。だって、ワンポースって逆に引き締まっている体型の女の子には似合わない。

 ある程度、ふっくらしてて、それでいて胸が大きくて、身長もいるからなぁ。

 すぐ横で服を見ている楓お姉さまを盗み見る。

 そうだよな。楓お姉さまがワンピースを着ると絶対に似合う。

 風邪で靡く、長い髪を手で抑えながら、こっちを見て……。


「鼻の下、伸びてるけど」


 咄嗟に口元を手で隠す。

 なぜか急いで雛を探して、服を選んでいる姿を見て、ホッとする俺。


「モテる男の子は大変だねぇ」


 笑いながら言ってくるなぎさ。

 きちんと答えは出したにしろ、やはり、雛の前で惚気けてしまうのはダメな気がする。

 惚気けとは違うな。

 まだ答えを貰ったわけでもないし。


「幸菜。こんな服なんてどうかしら」


 なにも知らない楓お姉さまが一着の服を持ってやってくる。


「口元を抑えて、どうかしたの?」


「な、なにもないです!」


 手を後ろに回し、苦笑い。

 どうも上手く接することができない。

 自分の気持ちをぶつけてから、前のように行かず、ずっと緊張しっぱなしだ。

 手に持っている服を俺の体にあてがう。

 ん~と首を傾げ「ちょっと違うわね」なんて、自問自答すると、持っていた服を元に戻す。


「私服よりもドレスが必要よね」


 言われてみればドレスを一着も持っていない。

 幸菜もドレスを必要とする場に赴いたこともないだろうし。

 だからと言って、ここで買っても俺が着るのであればいいけど、生地が薄いドレスは体型がくっきりしてしまうため、着るのはムリだと思っている。

 露出も自然と高くなるしね。


「クリスマスパーティーはドレスじゃないとダメなんですか?」


「そんなことはないけれど、学院の行事で唯一、晴れやかな服装が許されているから、学院生はここぞとばかりにドレスに力を入れていたりするぐらいかしら」


 確かに、此花女学院のレクリエーションと言えば、体操服か制服ばかりだ。宿泊行事はないみたいだし、みんなが気合いを入れて、おめかししたくなる気持ちもわかる。


「クリスマスまで1ヶ月もありますし、おいおい買い揃えておきます」


 そう言って逃げることにした。


「まぁそうね。時間も時間だし、今日は帰りましょうか」


 腕時計を確認すると時刻はもうすぐ16時になるところだった。

 服を見ることに夢中の雛の隣に行く楓お姉さま。

 そんな2人を遠くで見る俺。

 あぁ、もうすぐ、別れることになるのか。

 そう思うとジーンと心が痛み出す。

 いつか言わないといけないけれど、言うのを躊躇ってしまう。もちろん、なぎさにも言っていない。

 12月24日、俺は幸菜と入れ替わって、この学園を去るということを。

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