こ、今回だけなんだからっ!
さすがは有栖川主催のパーティね。
著名人などはいないのに、とても豪勢な食事を用意し、ゆったりできるほどのスペースを、わずか数時間で準備するなんて。
有栖川の幹部連中、東条の幹部連中がひしめき合う。
そんな中、私は会場の隅で少しずつミネラルウォーターを飲んでは、さっさと終わらないかと時間を潰す。
はっきり言ってここに居てもやることがない。
特別、なにかするわけでもなければ、人脈を広げようとも思わない。
メイド達は空いたグラスや皿を回収に勤しみ、執事達は来賓達にグラスを渡していく。それを見ては、こういう生き方もありなのかもと思う。
コツコツとお金を稼いでは、小さな幸福を得るためにお金を使う。それで生きていけるのだから気楽なものね。
人間観察が趣味にでもなったようで、自分が惨めに見えてくる。裕福に見えても、学費以外は自分で稼いできたお金を使って、やりくりしてきた。そうは言っても、大きなお金と言えばドレスに20万円ほど毎年使っていたけれど、服などは数千円などの物ばかりで一般の人とほとんど変わらない。
あの子は数万はすると思い込んでいたみたいっだけど。
それに周りでは有名ブランドのモノを付ければ、品格が上がるなどという。だからどうなのだろう。
品格とはその物に感じられる気高さや上品さをいう。
例えば、学校でもあまり声を上げることもなく、地味にしている子が数億するネックレスを付ければ品格が上がるといえるのか。確かに物珍しいかもしれない。ただそれだけで、品格が上がったとは言えない。だったら、自分のレベルを上げなければ、品格も上がらない。
お金とは物の価値を上げることはできても、人の価値を上げることはできない。そんなものを欲する有栖川の連中を見ていると吐き気がする。
「やっと来たのね」
小さな体に此花の制服。
数日、制服を見なかっただけで懐かしいと思えてしまう。
「えぇ。でも、平民にはなにも言ってないわよ」
東条の愛娘はオレンジジュースを片手に、私の隣にやってきた。ここには年齢の近い人間は私ぐらいだから。って言うのもあるんだろうけど、なにか他に意味もありそう。
不気味な存在。
排除したい存在。
邪魔な存在。
誰が敵で誰か味方か。思考を巡らせ、私の願望を叶えるために必要なのはなにを見定め、言葉を探した。
「そうなの。言っても良かったのよ?」
平然を装う。
「フェアじゃないでしょ。これはあんたと平民との戦い。それに水を差す必要はないでしょ」
でもね。っと言葉を続ける。
「私は恩を仇で返すような人間でもないの。情報は与えないにしても、時間は与えるわよ?」
なぜか疑問形だった。
それに時間を与えるということだけど、これはほぼ不可能。すでに東条の社長は乗り気であり、後は契約書にサインするだけとなっている。
このパーティはそれを祝うためのモノで、それ以外になんの意味も持たない。
なのに、この子は優雅にオレンジジュースを飲む。
「もうすべてが終わったわ。花園もこれで地に落ちて、数年後には誰からの記憶からも消えていく」
私の思い通りになった。
復讐の終焉はハッピーエンドという、私の願いを成就して幕を下ろす。
「そうね。有栖川が戦いの舞台から降りるって未来が、数時間後に起こるのだからね。あ、お父様」
小太りで、背筋を反り返しながら、髭を弄るのがクセで、常に触って雑談をしている人物。それが東条グループのトップである、東条政道。
愛すべき娘を見つけ、少し驚いたように、瞼が大きく開いたように思う。
これはマズイ。
私の感がそう言っている。
咄嗟に彼女の肩を掴んで、それ以上、近づけないようにした。
「往生際が悪いわよ。花園楓……」
言葉から殺気を感じた。
東条凛。完全に甘く見ていた。この空間を支配するような空気を放ち、鋭い眼光で相手を見つめ追い詰めていく。
距離が1歩、2歩と離れ行き、私の手は彼女の肩から外れて、完全にその位置で固まっていた。
「や、やぁ、凛。学院はどうしたのだ?」
「きちんと受けてきました。それでお父様にお話があるのですけど」
ゴクリと唾を飲み込む。
「私、東条グループを辞めて、花園グループに移ることにしましたので、そのご報告に参りました」




