後編
デバルトが俺を見下ろす。
その目は嫌悪を隠そうともしていなかった。
「レイルス……まだ生きていたのか」
「使命を成し遂げるまでは戦い続けると決めている」
「死人が世界を荒すな! 守るべき存在がいないというのに、なぜ殺し続けるッ!」
デバルトが戦斧で斬りかかってきた。
正面から受ければ、この肉体が持たない。
そう悟った俺は半身になって刃を躱し、剣の刺突を放つ。
デバルトは紙一重で防御して吼えた。
「百年前、魔王様によって勇者は死んだ! 以来、この世界は我々のものだ! 人間は家畜となり、反映した魔物が平穏な暮らしを送っている! それでいいだろう!」
「そんな世界は間違っている」
俺は淡々と斬撃を繰り出していく。
デバルトは懸命に戦斧で弾くも、次第に捌き切れなくなっていった。
防ぎ損ねた刃が手足を切り裂いて、その痛みに顔を顰めている。
(やはり昔より弱い……かつて一国を滅ぼした将軍だというのに)
懐に飛び込み、魔力を込めた二連撃を食らわせる。
胸部が裂けたデバルトは、大きく怯んで戦斧を振り回す。
俺は素早く跳んで避けた。
傷口を押さえるデバルトは荒い呼吸を繰り返す。
既に全力を出しているのは明らかで、これ以上の切り札はないようだった。
さらなる失望に蝕まれつつ、俺は静かに告げる。
「俺は勇者様の遺志を継いだ。故に魔物を滅ぼす。そのための憑依魔術だ」
「現代の魔物は戦争を知らぬ! 罪のない命まで奪うつもりかァッ!」
「魔物は生きているだけで罪だ。だから殺す」
俺は瞬時に突進し、デバルトの喉を剣で貫いた。
致命傷を受けたデバルトは、目を見開いて吐血する。
「グッ、ガハッ……!」
「諦めろ。百年間、俺はずっと戦い続けてきた。戦場を離れたお前とは違う」
「か、家族がいる……やめてくれ……」
「そう言って命乞いした人間を、かつてのお前は見逃したのか?」
「……ッ!」
デバルトの顔に罪悪感が差す。
刹那、俺は剣を横薙ぎに振るった。
デバルトの生首が宙を舞って地面を転がる。
それを粉々に切り刻んだ後、俺は呟く。
「まだだ……まだ足りない……」
この百年間で魔物は繁栄した。
だから俺が殺し尽くさねばならない。
それが勇者様の遺志なのだ。
「見ててください。必ず、やり遂げますので」
勇者様の遺剣を握り込む。
街の住民を殲滅するため、俺は悲鳴の聞こえる方角へ歩き出した。




