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不滅の憑依術師は魔王軍を虐殺する  作者: 結城 からく


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2/3

中編

 オーガの死により、場は騒然とする。

 平和な日常を謳歌していた魔物達は驚愕していた。


「な、なんだッ!」


「殺しだ! ゴブリンが剣を持ってやがる!」


 魔物達は怯えて距離を取る。

 俺は近くにいた者に跳びかかり、大上段の一撃を繰り出した。

 剣は慌てふためく露天商を縦断する。

 俺は返り血を浴びながら疾走し、逃げ惑う魔物を次々と斬り殺していった。


「うわっ、逃げろ!」


「痛えッ!?」


「くそ、押すなって!」


 反撃を試みる魔物はほとんどいない。

 俺を見て恐怖し、焦り、情けない姿を晒して逃げ出す者ばかりであった。


 この百年ほどで魔物は弱くなった。

 人間との戦いに勝利し、自由と平和を手にしたことで、緩やかに堕落したのである。


(こんな連中のために我々は……)


 怒りと憎しみに苛まれながら、俺はひたすら剣を振るい続ける。

 数十体の魔物を葬ったところで、胸に鋭い痛みを覚える。


 そこには矢が刺さっていた。

 首と手足にも同様に刺さっている。

 見上げると、大量の矢が雨のように降り注いできた。


「……ふむ」


 全身を貫かれる痛みを知覚した直後、視界が闇に染まる。

 次の瞬間には喝采を上げる魔物達が映し出された。

 弓矢を持つ彼らの視線の先には、血みどろで倒れるゴブリンの死体がある。


「やっと死んだか!」


「いったい何者だ……?」


「ゴブリンとは思えないほど強かったな」


 話し合う弓兵を押し退けて、俺はゴブリンの死体に歩み寄る。

 死体は矢だらけだった。

 傷口から流れ出した血が地面を濡らしている。

 手には剣が握られていた。


 俺の行動に気づいた弓兵達が呼びかけてくる。


「おい、何してるんだ!」


「離れろ! 今からそいつの身分を調べる!」


 聞こえてくる言葉を無視して、俺は死体から剣を引き剥がして握る。

 そして踵を返して弓兵達に襲いかかった。


 間合いに入った魔物の四肢を切り刻む。

 至近距離で放たれた矢を剣で弾きつつ、相手の脳天に刃を叩き込んだ。

 腹を捌かれた者は、己の臓腑を掲げて喚いている。

 予想外の事態に、弓兵達は狼狽えていた。


「こいつ、気でも狂ったのか!?」


「とにかく止めろ! 殺してもいい!」


 弓兵達はなんとか反撃に移るも、やはり俺の敵ではなかった。

 そもそも周囲に味方がいる状況で、俺だけを狙うのは至難の業だ。

 一方で俺は無差別に殺しまくるだけでいい。


 特に苦戦することなく弓兵部隊を殲滅し、死体だらけの大通りで剣を下ろす。

 胸中に抱くのは、失望と苛立ちの念だった。


「この程度か……」


 次は街の中心部を攻めるか。

 逃げ惑う住民を殲滅するのは難しい。

 なるべく大きな損害を与えるとなると、立ち回りにも工夫が必要だ。

 機動力の高い肉体に乗り換えるべきかもしれない。


 その時、後方で地鳴りのような声が響き渡った。


「レイルス・アートン! 狂気に呑まれた亡霊め!」


 振り向こうとするが、その前に全身が黒炎に包まれた。

 骨の髄まで焼き尽くされる苦痛を味わいながら視界が切り替わる。


 今度の肉体は家畜の人間だった。

 俺は煩わしい首輪の鎖を引き千切り、黒炎で炭化した死体から剣を掴み上げる。

 そして黒炎が飛んできた方角を注視する。


 死体だらけの通りを闊歩してくるのは、灰色の肌を持つミノタウロスだ。

 巨大な戦斧を担いで迫るその魔物は、街の領主であり魔王軍の元将軍デバルトだった。

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