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不滅の憑依術師は魔王軍を虐殺する  作者: 結城 からく


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1/3

前編

 その街の通りは繁盛していた。

 肉や魚、野菜を売る露天商のそばでは、首輪を着けた人間が陳列されている。

 緑色の肌で角を生やした店主は、笑顔で通行人に呼びかける。


「若い人間の女だよー! 家事に食用に繁殖に! 使い方は無限大さ!」


 呼びかけに足を止めたのは槍を担いだオークだった。

 軽鎧を装備しているのでおそらく傭兵だろう。

 そのオークは舌なめずりをして人間を吟味する。

 店主はすかさず商品の素晴らしさを語って購買欲を煽っていた。


「――醜いな。すべて醜い」


 呟く俺は通行人に紛れて歩く。

 湧き上がる憎悪が頭の中を埋めつつあった。

 目深に被った外套で顔を隠していなければ、周囲の者達に不審がられていただろう。


 その時、俺は前からやってきたオーガ族の男とぶつかった。

 体格差で弾かれた俺は尻餅をつく。

 オーガの男は舌打ちして見下ろしてきた。


「痛えなおい。謝れよ」


「…………」


「てめえ、無視すんなッ!」


 男が俺の外套を掴んで引っ張る。

 フード部分が破れて素顔が晒された。

 嘲るように笑った男は、屈み込んで睨みつけてくる。


「ハハッ、ゴブリンか。最弱種族のクソ野郎が調子に乗るんじゃねえぞ」


「……間違いだ」


「あ?」


「俺はゴブリンではない」


 こちらの発言に、男はきょとんとした顔になる。

 その直後、ゲラゲラと笑い出した。

 男は俺の頭を平手で何度も叩いてくる。


「つまらねえ嘘つくんじゃねえよ。どっからどう見てもゴブリンじゃねえか!」


「…………」


 俺は無表情で耐える。

 男の暴力はどうでもいい。

 己の憎悪と衝動……それらを抑え込むので精一杯だった。


 そのうち男が俺の武器に気付く。

 腰に吊るした剣を指差して男は感心する。


「へえ、なかなかの得物だな。ゴブリンにはもったいねえから寄越せ」


「断る」


 俺が断った瞬間、男の全身から殺気が噴き出す。

 全身から夥しい量の魔力を発散させながら、オーガの男は拳を握り締めた。


「……さっきから、いちいち癇に障る奴だ。もういい、ぶち殺してやる」


「やってみろ」


 俺は剣の柄に触れ、そこから最高速で刃を引き抜いた。

 奇襲に等しい斬撃は弧を描き、無防備な男の胴体に潜り込んで通過する。


「う、えっ?」


 拳を構えようとした男は間抜けな声を発する。

 分厚い胴体に赤い線が滲み出し、ずり落ちるように切断された。

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