99話 苦難
それから爺さんが苦々しい顔を浮かべながら語った過去は壮絶な戦争の物語。
最初は優勢であった神々の軍勢はリベルが率いる無限に増殖していく異形たち、今でいう魔物達による軍勢により削られていった。
更には最強の神であったギルバーツの神性を奪った破壊の神カダースは凄まじく大きな狼の姿となり神界を踏み荒らしていった。
もとより備えていた能力と最高位の神性を得た事による無限の体力は昼夜を問わず神々の軍勢を壊滅させていった。
そして潰走した神々は散り散りとなり今に至る、とまあこんな感じだ。
「お主、ワシらの苦難の物語を綺麗に短くまとめやがったじゃろ」
「ん? さ、さあ?」
だって途中の涙が出ただの、皆で励まし合って立ち向かっただの無駄な要素多かったんだもん。
「……お主、神並みに共感性に欠けておるのう」
何故か呆れたようにそう告げられる。まあ今更だよな、そんな事は。
俺の周りの事じゃないとイマイチ実感なんて湧かないもんだ。
「昔は幼気な少女を救う為に命を賭けてあったというのに。力に溺れおって」
「そりゃアイツと神じゃ関係性が違えし……てか何でそんなこと知ってんだ?」
「言ったじゃろ。お主の異能はワシが与えた異能じゃ。その頃から覗いとるに決まっとる」
うん、トップがこんなんだからあんまり助けたいとか思えないんだよな。
人のプライバシー勝手に覗いてんじゃねえよ。
「それでオルウィスク様。これから我らはどのように行動すべきでしょうか? 全能なる貴方様であればそれがわかっていらっしゃるのでしょう?」
「ふむ。それなんじゃが、フィリア」
そう言うと爺さんはゆっくりとティーカップを持ち上げ口に当てる。
そしてその香りを十分に楽しみ、茶を口に含んだ後、こう告げる。
「すまん、分からん」
「はい? 今何と?」
「すまん、分からん」
静まり返る。うん、ここは良い場所だな。空気も綺麗だし、幻想的でずっとここに居ていたいって気分になる。
茶を啜る。こうしてのどかな生活を営んでいくのも悪くない気がするな……さてと。
「分からんのかい!」
「痛ッ! くそ、のどかな生活を送りおって! 油断しておったわい。思考ジャミングしておったな!?」
俺の手が油断していた爺さんの肩に当たる。
そして爺さんの隙を突けたことに満足し、心の中でガッツポーズをする。
「ゴホン、まあそう心配するな。やるべきことは分かっておる。ワシが迅を鍛える。そしてフィリアよ。お主がギルバーツの奴を探し出すのだ」
「ん? 俺を鍛える?」
「お言葉ですが、私は神です。神は下界には直接降りられないはず。どのように探せばよいのでしょうか?」
「私は神ですって素で言ってんのおもろいな」
「リベルが作った下界にあるダンジョンとやらは神でも出入りできるようになっておる。ダンジョンならここからでも接続が出来るようにしておる故そこから探し出すのだ。恐らくギルバーツの奴はダンジョンに潜っておる筈じゃからのう」
「承知いたしました」
俺はまだ承知してないんだけど。鍛えるってどういう事だ?
今までさんざんクエストで鍛えられてきた気がするけど。
「では私は早速ダンジョンへ向かいます」
「うむ。頼んだぞ。時間も僅かじゃ。じきにリベルもここを突き止め、進軍してくるじゃろう。その間に迅よ。お主にはワシの知り得るすべてを教える」
「すべて? 全知全能の?」
「いんや、そこまで教えてしまえば人間の脳では耐え切れぬ。恐らく数秒で命を落とすであろう。ではなく、ワシが教えるのは強靭な肉体を作り上げるすべての事だ。お主らの言葉で言うところのステータス数値とやらだな」
ステータス数値か。唐突だけど2億とかって言ったらさ、何か馬鹿っぽく聞こえるよな。適当にでっかい数言いましたよって感じ出てて。
どっちかっていうと9000万って言った方が強そうに聞こえるのなんでなんだろうな。
ま、俺は残念ながら2億の方なんだけど。
「ていうかそれってさ」
「うむ。お主の想像通りじゃ。その間、お主にはここで生活してもらう」
この一言によって俺はしばらく家に戻れない事を悟ると同時に次ぎ会ったら母親と探索者協会になんて説明しようかと思案することとなるのであった。
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