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87話 強敵

『上級探索者……ってレベルじゃねえなこれ』

『なんか強すぎじゃない?』

『上級探索者の向井って今調べてみたけど上級になったのもつい最近なんだってさ』

『それでこの強さかよ』


 コメント欄は向井を称賛する声で溢れかえっている。炎を操り、次から次へと襲い来る強大な魔物を屠る様は視聴者たちの目を釘付けにしているみたいだ。

 俺に対するコメントはというと……まあたまにあるくらいだ。

 基本的に俺は配信に写らない画角で魔物を倒していた。

 これはあくまで向井が目立つための配信だ。俺が目立つことほど邪魔なものはないだろう。

 ……いや別に俺が目立たないってだけじゃないし……はずだよな……だってジョーカーの時はあんだけ目立ってるんだし。

 

「オーディン。これって帰ってる道で合ってると思うか?」

「……さあ。全然分からん」


 帰り道が塞がったあの後、俺達は一応帰ることを目標にダンジョンを進んできたわけなのだがあまりにも先が見えないために少し不安になってきた。

 転移石は探索者協会に預けているためいつもみたいに絶対に帰れるという保証はない。

 流石の俺も結構焦り始めていた。


「見ろよ。またでけえ魔物が出てきたぞ」


 そう言って向井が指さす方を見る。

 見上げるほどに大きな体躯。

 俺達の世界で言う鹿を大きくしたみたいな見た目をしている。

 しかしその角は普通の鹿とは違い、螺旋状に天へ伸び、その足は今まで見てきたどんな大木よりも太く力強い。


『何だあの魔物?』

『見たことないから新種?』

『深淵なる大地であんな魔物、報告すらされてないはずだけど』


 ユグドラシルの試練でも見たことが無い魔物だな。基本的には同じ種族の魔物とか居そうなもんだけど、あの大きさは思いつきもしない。

 新種の魔物ってのは往々にして注意が必要だ。何故なら、戦闘の前例がないから。


「向井、気をつけろ」

「言われなくても分かってるぜ!」


 そう言うと向井は勢いよくその場から飛び上がり、その鹿の魔物の目前にて剣を構える。


「くらえ」


 向井の剣が振るわれ、炎の斬撃が鹿の魔物へと迫っていく。

 うん? 意外と動き遅いな。てっきり俊敏に動くとか思ってたけどその場に立ち尽くしたままでまだ避ける素振りすら見せない。

 案外、外面だけで中身は弱いのかもな。

 ――そんな俺の予想は次の一手で大きく外れていることを思い知らされることになる。


「なっ!?」


 いつの間にか鹿の魔物は向井の攻撃の射程内から姿を消し、代わりに背後へと回り込んでいたのである。

 避けるのが余裕だったから油断させるために敢えて反応できていないみたいに振る舞っていたのか。


「向井! 避けろ!」


 螺旋状になっている鹿の角が勢いよく縮んだかと思うと向井の体へと一直線に、それこそバネの反動のように凄まじい速さで衝撃波を伴いながら突き進む。

 ちっ、あれじゃ回避する隙もねえ。かといって俺が助けに入る間もない。

 向井もそれを理解しているのか、鹿の魔物を迎え撃とうとその剣に異能の力を宿して炎の斬撃を飛ばす。

 そしてその二つの攻撃の決着はあまりにもあっけなく決まる。

 鹿の魔物の角は炎の斬撃をかき消し、一瞬にして向井の体へと到達していた。

 そして金属が激しく打ち合ったような音が聞こえた後、向井の体はダンジョンの壁へと叩きつけられていた。


「大丈夫か!」


 相手に追撃をさせまいとすぐさま俺は向井の飛ばされた方へと駆け寄る。

 

「へ……へへ、ちょっとやっちまったぜ」


 その手に握られている剣は半ばでポッキリと折れてしまっている。

 向井の攻撃で衝撃はある程度吸収できていたのか、幸いにも意識は保っていられているようだ。

 だが普通の探索者ならば一撃で体が木っ端みじんになったであろう攻撃を受けているだけに、すぐには動けなさそうだな。


「馬鹿野郎。気をつけろって言っただろ」

「気を付けたつもりではあるんだよ。あ、いってててて」


 気を付けたつもりの奴が一人で飛び出す訳がないだろうに。

 このダンジョン攻略を通じてどこか向井が一人で飛び出す事が多い気がする。

 それはユグドラシルの攻略者になりたいが故のものなのかはたまた別の理由があるのかは分からないが、今回はそれが通用しない相手が出てきたって話だな。


「立てるか?」

「何とかな。だが武器がねえ」

「じゃあこいつでも使っとけ」


 そう言うと俺はアイテムボックスの中から巨人の剣を取り出して向井へと渡す。そう、あのシロリンへと貸していた剣だ。

 炎の武器だし炎の異能を操る向井にピッタリだろ。まあ、逆に言えば炎を操ることができるんだったら炎を出す武器なんて要らないんだけど強そうな武器はこれしかないから仕方なくだな。


「良いのか?」

「そりゃいいに決まってるだろ。んなことより今度は一人で突っ走んなよ」

「あいよ」


 そうして俺達は目の前の強敵へと武器を構えるのであった。

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作者が物語の世界で主人公の存在を隠す理由が未だにわからない……こっそり最強ムーヴをかましたいだけ?
シロリンと同じ剣貸して身バレしない?大丈夫?
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