85話 高校生配信者
『本当に高校生?』
『さっきからステータス数値平均して200万はあるような種族の魔物バンバン倒してんの強すぎwwww』
『高校生で上級探索者とか早すぎんだろ』
『それを言うなら高校生で上位ランカーのシロリンっていう化け物も居ますし……』
配信を始めてしばらく時間が経過した頃、同時接続者数は既に50人を超え、ちらちらとコメント欄も賑わうようになってきていた。
ダンジョン配信初心者が初めての配信でこれだけの人を集められるのはやはり才能というしかないだろうな。
「ありがとうございます!」
コメント欄に慣れないながらも答えながらダンジョン攻略をする友を傍目に俺は黙々と剣を振るう。
この剣は以前向井と共に行った武器屋で貰ったあのステータス数値によって威力が変化する奴だ。
もう壊れてしまったがあのリボルバーと同じ性能だから案外使いやすい。
ジョーカーじゃないときはこの剣を主要武器にしようかな。流石にジョーカーで使ってた武器をそのまま使い続けたら身バレしそうで怖いし。
そういや前のクエスト達成で貰った『全能の手』使って今度こいつの潜在能力を引き出してみようかな~。
何か出来るようになるかもしれないし。
「てかよー、配信中お前の事は何て呼べばいいんだ?」
「うん? 普通に俺本名でやってるぞ?」
「マジかよお前」
最近の若者はネットリテラシーというものがないのかね本当に。
いや逆に最近の若者の方が寧ろ教育されてるお陰である場合が多いのか。
「どうせランキングを目指すんだったら本名なんてすぐバレるし隠しても無駄じゃん」
「腹括ってんな~お前」
「それで言ったらお前の事は何て呼べばいいんだ?」
「うん? あー、俺はシロリンの配信でオーディンって呼ばれてたしそれで」
「お、お、オーディンってお前……この歳になって神様の名前をハンドルネームにするとかマジで言ってんのか?」
笑いがこらえきれないといった様子で俺の方を見てくる向井。
今度は俺が心配される側となってしまったわけでこの名を俺に与えたシロリンへの恨みが募る。
かといってここでこの名前はシロリンが付けた名前だから俺のせいじゃないとか言うのはちょっと陰口みたいになるしで嫌だし。
こう見えて俺はちゃんとシロリンに対して恩を感じている。
ジョーカーがここまで人に知られるようになったのはすべてシロリンのお陰だったわけだからな。
「俺は気に入ってるぜ」
「まそれは俺も同意だぜ。流石に」
ってお前もそっち側だったのかよ!
じゃあさっきの笑いはどこにあったんだよ。まさかの俺の方に問題があったパターンなのか!?
『名前はカッコいいけどお前がそれ名乗るのかよ』的なってことか?
くそ、場合によっては後で問いただそう。
「てかさっきからやけに魔物強くないか?」
「うん? 高難度ダンジョンだしそんなもんじゃないのか?」
そもそも俺は潜ったダンジョンの種類で言ったら片手で数える程度しかないからあんまり比較対象はないから自信はないけどあんまり魔物の強さには違和感はない。
大体ステータス数値が200万程度、高くても300万程度の魔物しかいないし。
確かにここが初級者ダンジョンって話なら別だが、ちゃんと高難度ダンジョンって書いてあるわけだしな。
「確かに下の階層ならそのくらいの強さで妥当だと思うけど、ここまだ3階層目だぜ? 流石に変だと思う」
「そうなのか」
正直ユグドラシルの試練で若干ステータス数値についての感覚はかなり狂っていると自覚している。
あっちのダンジョンではステータス数値が1000万を超えているのが当たり前ではあるが、倒すことは不可能とされていた『番人』がそのくらいだったことを考えると、上層部で300万はちっと高い気もする。
「ある程度潜ったら引き返すか?」
「いや続けよう。この程度のダンジョンで音をあげてちゃ、いつまでたっても俺はユグドラシルの攻略者にはなれない。引き返そうって話じゃなくてあくまで気を付けようって言いたかっただけだ」
そう言う向井の表情は少し固い。
初めてのダンジョン配信だから緊張しているんだろうな。
同時接続者数は今、100人を超えた。それほどの視聴者がつくのはフォロワーが1万人程度居ないと不可能だ。
それほどのプレッシャーを感じているのだろう。
「……先を急ごう」
「あいよ」
意を決したかのように歩を進める向井に俺は黙ってついていくことにするのであった。
♢
押出達がダンジョン攻略を進めている一方、探索者協会副会長の天院なぎさは急いでダンジョンへと向かう準備を進めていた。
異変が起きているダンジョンの調査故に準備を怠るわけにはいかない。念入りに装備を調整し、持ち物を揃えたところで部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「失礼いたします。先程、対象ダンジョン内部への入場規制を開始いたしました」
「迅速な対応ありがとうございます」
「いえ。人命にかかわることですので。ただ、一つ耳に入れておきたいことがございまして」
「何でしょう?」
「こちらをご覧になってください」
そう言って探索者協会の職員の男性が天院へととあるダンジョン配信を見せる。
題名は『高校生上級探索者、初配信!』とかなり目を引く題名となっている。
「これがどうしたのでしょう?」
「実は潜っているダンジョンがまさしく『深淵なる大地』なのでございます。我らが派遣できる上級探索者では到達できない階層にまで行ってしまっておりまして」
「なるほど。了解しました。それでは急ぎましょうか」
そう言って天院は急ぎ足で該当ダンジョンへと向かうのであった。
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