表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/102

81話 無礼者

「イグナイト。客人として振る舞ってもらっている手前流石にそれは失礼ではないか?」

「そうよ。それに私たち二人で相手しちゃったら流石のあの人も勝てないからかわいそうじゃない」


 イグナイトに「ウチの二人と戦ってみろ」と言われ若干どうしようかと迷っていると、イグナイトのお連れさん二人がそう反論しているのが見える。

 よかった~向こうにはまだまともな感性を持つ人がいてくれてるんだな。若干女性の方の発言は人によったら癇に障るかもしれないが自己肯定感の低い俺にとったら良い逃げ道を提示してくれているからむしろありがたい存在になる。

 そんな事を考えていると、机の方からダンッと何かを叩く音が聞こえる。


「聞き捨てならねえなぁ。ウチのジョーカーじゃ勝てねえだと?」


 何か西園寺さんが怒ってる。え、この人ってまったく英語話せなかったんじゃなかったっけ?

 そう思って西園寺さんの耳を見てみると何かの機械が付いているのが見える。あー、そりゃそうか。俺より先にイグナイト達と接してるんだし英語の対策とか協会から支給されるよな。

 まあそのせいで何故か怒ってるんだけど。


「雑魚には用はねえ」

「雑魚? 言うじゃねえかデカブツ。俺はこう見えて剣術なら誰にも負けんぞ? どうだ? 俺とやるか?」

「ちょちょっと、西園寺さん。この方はアメリカのトップ探索者です。隠居なさっていたから分からないかもしれませんが、アメリカでは強力な探索者ほど権力も比例して大きくなるんです! 外交問題に発展しかねませんよ?」


 イグナイトを睨みつける西園寺さんを翻訳機の電源を切ったうえで天院さんが諫めようとする。しかし、西園寺さんはそれでは止まらない。

 何せ俺には経験があるからな。分かるぜ。


「嬢ちゃん。ジョーカーは今、帰ってきたばかりで疲弊している。そんな状態で戦わせて万が一でもあったらどうするつもりだ?」

「そ、それは」


 そして天院さんが助けを求めるかのようにこちらへと視線を移す。まあ、この状況で一番対応が難しいのは天院さんだよな。

 協会としての立場もあるし、かといってこの大規模攻略部隊の指揮官のうちの一人でもある。まあ今回の攻略はいったん十階層で中断するからこいつらを俺が相手して怪我でもしてもすぐに支障が出ることはないって判断で俺に戦ってほしいんだろうな。

 ていうか西園寺さんがこんな態度をとるとは驚いたな。前まで俺の事を敵対視してたはずなのに。

 だが、『万が一でもあったらどうするつもりだ?』か。まだあの人は俺の事を見くびっているらしいな。


「……フフフッ、西園寺さん。お気遣い感謝いたします。ですが私からすれば問題はそこではありません」


 そう言うと俺は西園寺さんが飛び掛からないように西園寺さんとイグナイトの間に入ると、隣の大男の顔を憐れみを以て見上げてやる。


「あなたもご参加なさらないのですか? 私はそれが不満で仕方がないのです」


 イグナイトの顔はそれでもなお一切動くことはない。ふーん、結構煽ったと思ったんだけどこれじゃ無理なのか。


「まさか部下二人だけけしかけるだけけしかけて自分は負けるのが怖くて高みの見物だなんて、人類最強がするはずありませんものねぇ?」

「ちょっ、ジョーカーさんも言い過ぎです!」

「言い過ぎ? いえいえ私としては突然やってきていきなり『お前の力を見せてみろ』と上から目線で言ってきた相手に対して最大限の礼を払っているつもりです。さて、どうでしょう? ()()()()()


 俺の言葉で部屋の空気が一気に冷える。仲間の二人もよっぽどイグナイトの黙っている姿が恐ろしいのかジッと押し黙ったままその状況を見守っていた。

 そして少ししてイグナイトがゆっくりと目を閉じると、またゆっくりと目を開く。そして俺の顔をジロリと見下ろすとくるりと踵を返し、ドアの方へと歩いていく。


「ふむ。期待していた俺がバカだったな。まさか彼我の実力差も分からんとは。興が醒めた。帰るぞ」

「お、おう」

「はーい」


 それだけ言うと何の挨拶もなくイグナイトが去っていく。後ろからついていった二人はこちらに頭を下げてからイグナイトの方へと向かった。

 なるほど、どうやら戦ってもないのに俺の評価がダダ下がりしたらしい。ま、それはそれで絡まれなくなるし楽になるけど。


「……行っちゃいましたか。せっかく連携してダンジョン攻略の方を進めていきたいと考えておりましたのに」

「仕方ねえよ嬢ちゃん。ジョーカーと戦うのが怖い臆病者が加わったって邪魔なだけだ。俺達は俺達のやり方でやればいい。さ、飯の続きだ。ジョーカーも白崎も食えよ」


 やったー! やっと食える! 正直決闘なんて受けてる場合じゃないくらいに腹減ってんだよこちとら!

 それから俺はすぐに席に座り飯を口に運ぼうとして仮面にフォークが刺さり、嫌気が差すのであった。





 イグナイトとの一件があった夜、俺は一人クエストを見ていた。

 『クエスト達成。報酬を送ります』

 そんな文言と共に出てきたのは一枚の手袋みたいな何かだ。説明を見てみると『全能の手:あらゆるものの潜在能力を引き出す力を有する』と書いてある。

 

「潜在能力を引き出す……だけ?」


 なんかショボくない? 神の武器とか手に入るかと思ったのに。やっぱ長い間クエスト達成できてなかったから大分報酬のティアが下がったのか。あーあ、せっかく苦労したのに無駄になった。

 そうして俺はポイと『全能の手』をアイテムボックスの中へと放り投げると、目を閉じる。

 明日からはいよいよ待ちに待ったダンジョン外での生活が始まる。それを楽しみにしながら俺は眠りにつくのであった。

ご覧いただきありがとうございます!


もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このまま引き下がってくれて「ジョーカー?あんな雑魚知らねー」と広めてくれれば、と思ってるだろうけど、そんなわけなさそう
イグナイトが尻尾丸めて逃げていったか… 確かに興醒めだね 人類最強ともてはやされてイキってたら目の前に化け物が居たんですもの逃げたくなるのもわかるね
こんばんは。 >『全能の手』をアイテムボックスにシュゥゥゥゥーッ! おいいいいい!? それ多分ドラゴンボー○の最長○様の潜在能力解放とか、ピッコ○さんをオレンジピッコ○迄引き上げた神○のオマケみたい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ