77話 超常の存在
「シルクハット!」
「はい!」
西園寺が魔物たちの体を分断し、その瞬間にシルクハットもとい龍牙がステータスドレインをしていく。
龍牙の力は相手のステータス数値を吸収すること。一度で相手のステータス数値をすべて吸収しつくすことはできないため、地道にではあるがそれでもこうすることによって味方を増強しながら戦える。
「くたばれ!」
斬月が勢いよく拳を振りぬく。押出から受け取った武器を用いて最大限にまで増幅された波動が彼の全身を覆い、今や最強の矛にも鎧にもなっている。
拳が打ち出された方向に途轍もなく巨大な横向きの竜巻のように衝撃波が唸り、魔物達の体を切り刻んでいく。
その光景一つ一つにコメント欄が湧く。超人達の織りなす絶技の数々に更なる憧憬の念を刻みつける。
ある者は夢を抱き、またある者はその勇み足を抑えきれずにはいられずダンジョンへと足を向ける。
『頼む! 頑張ってくれ!』
『あなた方が世界を救うんだ! 頑張れ!』
『俺もいつかは』
同時接続数は既に100万を突破していた。それはこのダンジョン攻略が如何に世間から注目されているのかを示していた。
西園寺が斬り、龍牙が奪い、斬月が突く。緊張感を緩和させる事なく常に次の一手、次の一手を考えなければ死が待つ状況。
「花鳥風月流、森羅斬承」
そう唱えた瞬間、西園寺のドーム内全てを斬撃の嵐が咲き、強靭な魔物達を全て斬り払っていく。
「ようやくここまで来られた」
「ホントだぜ全く」
「そして、西園寺さんの読みはどうやら当たりのようですね」
そうしてようやく三人は目的の一つを達成する。あの魔物と巨人の群れを見事に切り抜け、とうとう船の上へと到着したのである。
更に船の上に大きな黒い輪があり、そこから次から次へと魔物達が現れてくるのを発見した。
「いや、俺は船を斬るとしか言ってないがな。読みとかはねえ」
「そういえばそうじゃねえか。一瞬でも感心しそうになったぜ」
「そんな事よりアレの壊し方を探りましょう。きっと船上に何かあるはずです」
その時であった。ビリビリッと静電気が走ったかのような感覚が全員の肌を撫でる。
「何か、来るぞ」
空気が揺れるとはまさにこの事なのだろう。ワープホールの奥の方から感じる途轍もない気配に三人は更なる警戒を向ける。
『なになに? まだ何かあんの?』
『マジかよゴールじゃねえのかよ』
『流石に鬼畜すぎない? このダンジョン』
徐々にワープホールの中から姿を現していくソレは全員の想像を超えるほどの大きな怪物。
背中には小さな翼が生えた巨大な蛇。神々しくも禍々しくも見えるそれは今までの敵と比べてもあまりにも異彩を放ちすぎていた。
「てめえら! 退避しろ!」
そしてその蛇が大きく息を吸い込む動作をしたのを見てすぐさま察知した西園寺が声を荒らげるも次の瞬間には蛇から放たれた黒い龍のブレスのような物で船上が荒れる。
「道玄!」
「西園寺さん!」
そしてそれは二人を守るべくドームを瞬時に展開し、ブレスを一刀両断した西園寺の体を蝕んでいた。
掠っただけでも甚大な被害をもたらす。
ただのブレスではない。体内からの痛みに耐えきれず西園寺はその場に膝をつき、地面に血反吐を吐いてしまう。
「毒だ。お前ら気を付けろ」
「いやお前は大丈夫なのかよ」
「俺は……ゴフッ大丈夫、だ」
「すみません、僕が未熟なばかりに」
「気にすんな」
口から流れ出す血を拭いながら立ちあがろうとするも思惑とは裏腹にその足は宙を掻き、そのまま体勢を崩してしまう。
「くそが、三半規管がいかれちまったか」
「撤退しましょう! この状態で勝てる相手ではありません!」
「落ち着けシルクハット。俺らはそれができねえからここまで来たんだろ?」
そう言うと斬月は拳を構える。逃げる気はない、それが彼の意思であった。
「……そうでしたね。少し気が動転してました」
腹は括ったのか龍牙もゆっくりとランスを構える。
対するは既に次の攻撃を装填した翼の生えた蛇だ。
「来ます」
今度は西園寺を守るように二人が立ちはだかる。一人は波動を纏って、もう一人はステータスを吸収する力を携えて各々が覚悟を決めて力を発揮する。
そして先程のブレスが放たれ、三人のもとへと到達したその時であった。
「ハッ! なんだてめえら? 楽しいことしてんじゃねえか!」
そんな声とともに超常の圧力がその場の全員を襲う。そして次の瞬間にはブレスはうち晴らされ、その渦中にたった一人の男が立っていた。
「やっと見つけたぜ? 次の階層へのカギをよ!」
筋骨隆々。まさに神話の世界から飛び出してきたかのような逞しい体は対峙する者を全て怯ませる。
そこには世界最強の一角、米国トップの探索者イグナイト・ライオンハートの姿があった。
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