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73話 超常の存在

 船から次々と降りてくる巨人や魔物たちの群れ。その一体一体からダンジョン内部の魔物とは比べ物にならないほどに強力なオーラを感じる。

 そしてその中にはあの光の戦士達のような姿も見える。多分……ていうかやっぱり、これは神から仕向けられた軍勢ってことだな。にしては神の声が聞こえる前に来たけど。


「困りましたね。皆さんを助けに向かいたいのですが」


 まさか転移石の力が使えなくなるとは思っていなかったぜ。そんでコピペみたいに同じようなボスが出てくるともな。

 攻略者のクエストが『10階層を攻略しろ』ってもんだったし、今までの経験からして10階層には何かあるんだろうなとは思ってたけど。


「更に()()()()なのが降りてきましたね」


 船から降りてきた魔物や他の巨人たちも隔絶した力を保有している。だが、そいつらを以てしてもあの真ん中に立っている奴には勝てないだろう。

 長い赤髪を靡かせる、一見人のように見える存在。だけどその双眸には本来白目であるはずの場所が真っ黒に塗りつくされ、黒目の代わりに赤い目を宿している。


『何だあれ?』

『人いない?』

『あいつだけ弱そうww』

『向こうの配信には居ないみたいだけど』


 コメント欄では総じて“あまり強くなさそう”という評価を得ているあの存在。だけど多分それはあまりにも一般人とはかけ離れた存在だからこそ認識できないってことなのだろう。

 現に横にいるシロリンの顔を見ると視線はあの赤目の存在に釘付けとなっている。

 

「あなたは何者なのでしょうか?」


 もしかしたら言葉が通じるかもしれないという一縷の希望にかけてその赤目の存在に話しかけてみる。

 どうやら巨人達もあの赤目の存在には敬意を払っているらしく、次々と道を開けていく。

 近づいてくる超常の存在を警戒して俺はすぐさまリボルバーを取り出し、構えようとする。


『跪け』


 そんな言葉が脳内に直接語りかけられたかと思えば、突如として上から押さえつけられるような凄まじい圧力を感じる。

 両足が踏みしめる大地に亀裂が走る。そして自分の意思とは関係なく片膝が地面へと突き刺さる感覚を覚える。


「大丈夫ですか? シロリンさん」

「大……丈夫……じゃない」


 隣では既にシロリンは片膝をつき、頭を垂れている。まるであの赤目の存在に向かって跪いているかのような態勢で。

 俺も膝まではついているものの頭だけは上げてその存在を見上げていた。


『……神の言葉は絶対だ。なぜ貴様は抗うことができる?』


 神の言葉? ってことはあいつは神本体ってことなのか?


「あなたがいつも私達に話しかけてくる神って奴なのですね。目的は何ですか?」


『ふむ、僅かにだが神性が見えるな。大方、打ち漏らしたあ奴が悪だくみでもしたのだろう』


 双方が互いの質問を無視しあうというまさに奇妙な展開である。いや、俺はともかくそっちは神なんだし少しは大人な対応を見せてくれよ。こちとらまだ高校生だっての。


『さて、神性を奪うとするか』


 一歩ずつ名乗りもせずにこちらへと近づいてくる赤目の存在。それをただ身動きすることもできないまま眺め続ける。

 神性を奪う? 何をするつもりだ?

 冷汗が体を濡らしていく。体を動かせないままただ一方的に何か得体のしれない事をされるというのは本当に不気味なものだ。

 何とかして動かないと。動かないと!


『……何のつもりだ?』

「さあ、動くにはこうするしかないと思いまして」


 右腕からだらりと血液が流れていくのを感じる。握りしめていたリボルバーに急激に力を流し込み、そのまま暴発させ、硬直状態を解いたのだ。

 やっぱり精神操作の類だったか。普通に力で押さえつけられてるだけだったら意味なかったから一種の賭けだったし、何ならリボルバーが壊れたせいでただただ弱体化しちまうだけだったけど。

 硬直状態を解いた俺はすぐにアイテムボックスの中に壊れたリボルバーをしまい、『主神の槍』を取り出す。


『忌々しい武器を持っているのだな。だが無駄なことを。“跪け”』


 とりあえず遠くへ! そう思った俺は相手が言い終わる前に動き始めていた。もう一度同じのを受ければリボルバーをしまった今、硬直状態を解くことはできない。

 しかし、その思惑は無駄であった。少し動いた時点で体が動かなくなる。

 だが、その後が違っていた。再度上から圧力で押しつぶされる感覚を覚えるものの、すぐさまその状態が解けていくのである。

 まるで主神の槍から伝わってくるかのように穏やかなぬくもりが全身を包み込み、自由に動けるようになったのだ。いやビックリ。


『チッ、忌々しい。あ奴め。それを通して神性を与えたか』


 余程腹を立てているのか更に威圧感が増したような気はしたが、それも難なく受け流せるほどになっていた。どうしてだろう?

 まあいいや。そんな事よりも向こうの状況が心配だしさっさと終わらせよう。


「友好関係を築ける者ではないことは理解しました。ではあなたも楽しんでいただきましょう?」


 俺は一瞬で足に力を込めて大地を蹴り、縮地の要領で主神の槍を構えながら赤目の存在の目の前まで移動する。


「私のSHOWを」


 そうして刃先を薙刀へと変形させると思い切り槍を振るうのであった。

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