67話 模擬戦
「四名様ともお見事でした。まさかこれほどの戦いが見られるとは思いませんでしたよ」
訓練場内に響き渡るくらいの大きさで拍手をしながら四人のもとへと歩いていく。近くで見るとより一層あの模擬戦がどれほどせめぎ合っていたのかという事が分かる。
氷漬け、えぐり取られた地面の後からも容易に理解できる。
「へっ、まさか俺が負けるとはな」
「それは仕方ありません。流石にランキング上位のお三方が相手ですから」
「だが以前までならまだ俺が勝てていた筈。秘密はその武器だろう?」
「フフフッ、流石にお気付きのようですね」
そりゃそうか。全員明らかに動きが違いすぎたしな。白崎に至っては氷の能力の威力が倍以上に膨れ上がってた気するし。
まあでもまだ使いこなせているとなるまでは程遠そうだな。白崎の剣を握る手から腕の方までちょっと氷漬けになってるし。
「この武器、相当暴れるわ。今の私の力じゃまだ抑えきれない」
「ですがこのダンジョンで鍛えればすぐに順応できるようになるでしょう。先程だって初めての戦闘でしたのに全身を氷漬けにされずに済んだのですから」
「まあちょっとでも気を抜いたら多分氷像になってたけど」
やはり強い武器にはそれなりの技量が必要って訳か。白崎の武器はどれほど冷気をコントロールできるかでまた更に強くなれそうだ。
「龍牙さんはどうでした?」
「僕も白崎さんと同じ感じさ。やっぱり若干意識を持っていかれそうになるね。この武器で吸収したステータス数値が多ければ多いほど逆にこの武器に元の僕のステータス数値も含めて全部持っていかれそうになる」
「ほうステータス数値を持っていくのですか」
だとしたら何かありそうだな。例えばそのステータス数値を利用して強力な攻撃を出せるようになる俺のリボルバーや武器屋で貰った黒剣みたいに。
奪ったステータス数値を使って大きな攻撃を出せるっていうまさに地産地消。いや地産というより他産か。
「俺はかなり良かったな。そんな反動もないままただただ俺が身に纏う衝撃波の振動数と攻撃力が増幅されただけだ。後は俺が全身に衝撃波を纏う事が出来るようになれば完璧だな。どうやら増幅されるのは拳だけじゃなさそうだったし」
「流石はベテラン探索者ですね。それは良かったです」
多分だけど斬月さんも二人くらいの練度だったら普通に衝撃波が逆に増幅されすぎて自分の体に刃を向けてくるとかありそうだし、単純に探索者としての練度の違いでそれが出てないだけなんだろう。
このおっさんより龍牙さんの方がランキングは高いとはいえ流石に経験値が違う。
こういった経験値とか知識とかもステータス数値としては加算されないから探索者の本当の実力ってのはこの数値だけじゃあ結局のところ分からないよな。
俺だってステータス数値は高いけど、あまりにも知識ないし。まあ経験値はそこそこあるかもだけど? お前地底深くに籠ってただけだろって? その通りだよ!
「ではでは皆さま。ある程度武器に馴染んできたことでしょうしそろそろ始めますか?」
「「「何を?」」」
「何を? もちろん最初から決まってたじゃないですか」
西園寺さんとの激闘の後に申し訳ないけど若干俺も試してみたくなったんだよね。
「私との模擬戦です」
俺がそう告げた瞬間、先程までの興奮が嘘かの様に訓練場内がシーンと静まり返った。
そして次の瞬間、全員が立ち上がりこちらへと武器を向けていた。そう、全員である。
「えっと西園寺さんとそこのお二人はお呼びではないのですが。殲滅部隊での仕事がこれからあるでしょう?」
そこのお二人というのは先程観戦していた川下さんと大地さんの事だ。おかしいな、二人ともさっきはあんな戦いに参加したら邪魔しちゃうとか言ってたのに。
「流石にあんな試合を見せられちゃあね」
「俺達にも火が付いたってもんさ」
二人の方を見るとめちゃくちゃ興奮気味の顔をしてそう言われる。そしてもう一人だ。
「俺はお前が負けてる姿を一回見ておきたいだけだ」
ニヤリと笑みを浮かべながらそう告げる西園寺さん。はあ、元々はあの武器に慣れてもらうための模擬戦だからなるべく長時間の耐久勝負にしようかと思ってたのに。
1vs6か。これじゃあ……。
「ならば私も本気を出すしかないようですね」
己が持つ力を最大限に開放する。それと同時に訓練場内部が少し軋むような音が聞こえ始める。
「やべえ、何だこの力!」
「おいおい流石に訓練場がもたねえんじゃねえか!?」
五人のランキング上位者を相手にするならばもっとだ。もっと力を開放しないと。
「さて始めましょうか」
その言葉と同時に俺はほとんどのステータス数値を込めたリボルバーを皆へ向ける。
「これくらいは防いでくださいね?」
「ちょま、お前! 殺す気……!?」
返答を待つまでもなく俺は引き金を引く。その瞬間、極大のエネルギーの塊が光線となって訓練場の端から端まで一瞬にして横断すると、そのまま壁を突き破る。
「さてと、まだまだ……」
「そこまでです、ジョーカー殿」
俺がさらにリボルバーに力を籠めようとするといつの間にか近くに居た存在から制止される。
「天院さんじゃないですか。戻ってこられていたのですね」
「つい先ほどですね。それよりも何をしていらっしゃるのですか?」
「今先行部隊の中で実戦を意識した模擬戦をしておりまして」
俺の言葉に天院さんは納得した顔を見せるがすぐにこちらを窘めるような視線を向けてくる。
「模擬戦は構いませんがジョーカー殿はなるべく力を抑えて頂かないと困ります。拠点が潰れてしまいますので」
「それは申し訳ありません。ここからは少し力を落としてやりますので」
天院さんの言われた通りに力を抑えて模擬戦を続行しようとすると、俺がリボルバーを持つ腕を天院さんが掴んで止めようとする。
そしてこう言うのである。
「殲滅部隊の方々は交代の時間です。なので模擬戦は控えて頂けると助かります」
「そうですか承知いたしました。では皆さんにもそう伝えて参ります」
そうして俺はその旨を告げるために皆のもとへと向かう。
「殲滅部隊の皆さん、交代の時間らしいです」
俺がそう声を掛けるもすぐに返事はこない。少し間があって、瓦礫の山の方から声が聞こえる。
「馬鹿野郎! おめえの一撃のせいで川下と大地はノビてんだよ!」
そちらの方を見るとどうやらボロボロになりながらも西園寺さんや白崎、龍牙さんに斬月さんは耐えているがあの二人は気を失っているようであった。
その瞬間に自分がやらかしているという事に気が付いたのである。
「……やっべ。やりすぎた」
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