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66話 飛び入り参加

「よっしゃあ! おめえら! かかってきやがれ!」


 5階層のボスを倒した翌日、草壁さんが新たに造ってくれた訓練場の中で一人の男の声が鳴り響く。

 うん、何であなたが居るの?


「おい道玄。てめえは殲滅部隊の仕事を全うしやがれ」

「今は天院の嬢ちゃんと交代なんだよ。ちゃんと朝に仕事を全うして帰ってきたわい」

「だったらちゃんと休め、この戦闘狂が」


 斬月さんと西園寺さんの言い合いが勃発する横で俺は急かすようにパンパンと大きく手を打ち鳴らす。


「西園寺さん。あなた一人で三人を一気に相手することは可能なのでしょうか?」

「ふん、愚問だな。俺は風情を大切に隠居してたとはいえ鍛錬を怠ることはしなかった。若造二人に今まで一度も俺に勝ったことのない当真が相手だろ? 正直余裕だぜ」


 西園寺さんのその言葉に途端に空気がピリッとひりつく。あーあ、あのおっさんはいつまで経っても成長しねえな。

 いや違うか。敢えて煽ることで休ませようとする当真さんを焚き付けてるんだ。まあでも当真さんだって大分年齢を重ねてる訳だしそんな子供だましみたいなので引っ掛かる訳……。


「ほう、言ってくれるじゃねえか道玄。俺はお前と違って隠居なんてせずに常に最前線にいたんだ。サシじゃあ負けるかもしれねえが三対一なら負ける筈がねえだろ」

「お口が過ぎますね、西園寺さん。僕をただの若造と思ってもらっては困りますよ」


 めちゃくちゃ引っ掛かってる!? しかも龍牙さんまで!? あの人一番冷静だと思ってたのに何なら一番炊いてない!?

 まあでも流石に白崎は大丈夫だな。今も俺の隣で無言のまま三人のやり取りを見てるだけだし……。


「……」


 いや無言で見つめてるだけなのも逆に怖いかも! 何かよく見たら若干隣から冷気が漏れ出してきて寒いし!


「……しょうがないですね。西園寺さん。あなたがお三方の模擬戦の相手をしてください。ただしこれは絶対条件ですので()()()()守っていただきたいのですが、絶対に()()を出してください。危険があれば私が止めに入りますのでどうぞご安心を」

「カカカッ! 言われなくとも全力を出すわい。頼りにしてるぞ、ジョーカーよ」


 あれ? 何か若干デレが入ってる? 前までは頼りにしてるぞなんて一切言わなかったはずなのに。ま、良いか。扱いやすくなったってことで。

 それに実は模擬戦の相手を西園寺さんがやってくれるのは結構ありがたい。西園寺さんっていう世界的にも有名な実力者に対してどれくらい通用するのかってのも見たいし。

 俺が相手だと俺の強さの基準がどのくらいか分からない以上、何となく前より強くなった気がする、みたいな評価になりそうだからな。

 

「さてそろそろ始めましょうか」


 カメラは回さなくてもよいだろう。これは模擬戦だ。見られているという緊張感をわざわざ皆に与える必要はない。


「是非とも私に皆さんの強さを見せて頂きたいものです。それではReady fight!」


 俺が上空へリボルバーの空砲を撃ち放ったことで三人が動き出す。西園寺さんは迎え撃つ気満々の様子で刀を柄の中に差し、居合の構えでその場から動かない。


「じゃあ私から!」


 そうして最初に仕掛けたのは白崎。

 早速自身の異能を注ぎ込んだ氷の剣『ウル』を剣先を上方へと向けた状態から一気に西園寺さんへ向かって振り下ろす。

 すると以前とは比べ物にならない程の大きさの氷の刃が出現し、勢いよく西園寺さんへと飛んでいく。

 何だあの剣、もしかしてめちゃくちゃ白崎の能力と親和性高いんじゃねえか!?


「へえ、やるじゃねえか」


 西園寺さんも白崎の急激な成長に少し驚いた様子を見せていたけど、やっぱり日本人最強の名は伊達じゃない。

 それくらいの動揺ではあのおっさんの剣に淀みが生まれる事はない。一瞬で西園寺さんの異能『絶対領域』を展開すると一気にそれを軽々と一刀両断する。

 ランキング上位者同士による攻撃のぶつかり合いの勢いは凄まじく、こっちから姿が見えなくなるほどの白い霧が発生する。


「甘かったな。俺の剣は全てを斬る。威力が増しただけじゃ意味ねえんだよ」

「だったらこれはどうでしょうか?」


 そして今度はいつの間にか西園寺さんの後方へと回り込んでいた龍牙さんがあのランスを手に勢いよく西園寺さんへと振るっていた。

 なるほどね~。白い霧で相手の視界を遮っている隙に背後を取ったのか。あの三人、俺を倒すために一応作戦会議とかしてたし連携とかは抜群かもな。


「フン、忘れたか? この領域は俺の領域だ。背後だろうが何だろうが俺の剣はこの領域内ならどこでも届くんだよ」


 そうして背後から迫る龍牙さんのランスをも絶対領域内で生み出された斬撃によって防がれてしまう。

 いや普通に考えて不意打ちされてほんの一瞬しか余裕ないのにその間に剣を振って斬撃を生み出せてんのがそもそもバケモンなんだけどな。

 これに関しては俺なんて絶対真似できない達人の領域なんだろう。


「おいおい道玄よ。俺も居る事を忘れんな?」

「へっ、同時に来たって俺はやれないぞ?」


 龍牙さんの攻撃とほぼ同時に打ち出された斬月さんの攻撃をも斬撃で防ぎきる。やっぱあの人は別格なんだな。

 流石はダンジョン攻略もせずにランキング3位に君臨し続けた男だ。

 ま、多分この程度は三人も想定の範囲内だろう。その証拠に三人ともが防がれた瞬間から次の行動に移る予備動作をしているのが見てわかる。


「……どいつもこいつもバケモン過ぎだろ」

「俺も先行部隊いけるかと思ってたけどこれ見ちゃったらさっぱり無理だな……ランキング上位は伊達じゃないってか」


 うん? 何か声が聞こえると思ったら殲滅部隊の人達も見に来ていたらしい。どうせ西園寺さんが喧伝したんだろう。

 因みに彼らもランキング100位以内の実力者だ。世間から見れば十分にバケモンと称されるくらいの。


「どうでしょう? お二人も非番なのでしたら戦っていきますか? 川下さん、大地さん」


 川下さんはランキング43位、大地さんはランキング56位だ。世界でも有数と言って差し支えないだろう。

 だが俺の提案に二人は若干困惑するも、すぐに首を横に振った。


「ジョーカー殿。申し訳ないが俺達じゃただの邪魔になっちまうから無理だよ」

「ていうか私達の名前を覚えてくれてたんですね」

「それはそうでしょう。ランキング内に名がない私と違ってお二方はランキング内にお名前がある有名人ですから」

「あんたはランキング内に名前が無くても実力は俺達を遥かに凌ぐだろう?」

「それはどうでしょう? 私の異能で手に入るアイテムがただ強いだけの可能性もあるでしょう?」

「強力なアイテムを使いこなすのこそ技量が必要なのですからやはりあなたの強さなのでしょう。それこそステータスの数値では測れないほどの」


 何か案外認めてくれてるみたいだ。会議に行った時は何か色物でも見るような目で見られてた気するんだけどな。

 そんな事を話している内にどうやら模擬戦の方はより白熱していたみたいだ。

 四方八方から繰り出される驚異的な氷の刃の数々。そしてそれらをすべて斬り伏せ、更に同時に斬月さんと龍牙さんの両方を一人で捌いている西園寺さんの姿が見える。

 ただ持久戦に持っていくと三人の方が有利だな。

 単純に人数差もあるが、更に龍牙さんの異能の力もある。徐々に削られているのが西園寺さんの動きから見て取れる。


「氷輪花!」


 訓練場を埋め尽くすほどの氷の刃が咲き誇る。そして徐々に捌ききれなくなった西園寺さんの肩を掠める。


「……チッ」

「人数有利なので申し訳ありませんが、力を吸収させていただきますね?」


 そうして白崎の攻撃によって隙が生じた西園寺さんの体を龍牙さんがランスの刃の腹で横に薙ぐ。

 それで一気に力を吸収され、かなり脱力したのが見て取れた西園寺さんだがすぐに剣で弾き、距離を取る。

 だがそこに居たのが斬月さんであった。


「悪いな道玄。流石にこのハンデじゃあ負けられねえんでな」


 そうして最後には纏う衝撃波がまるで風の刃かのように腕全体を覆った斬月さんの掌打が西園寺さんの腹を穿ち、大地に沈める。


「……参った。俺の負けだ」


 こうして沈黙の王は三人の前に敗北を宣言するのであった。

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