108話 訓練
「なあ、爺さん」
「なんじゃ」
「これ意味あんの?」
「意味あるからさせとるんじゃろうが」
俺は爺さんに聞いてもなお、この作業に意味があるのかを見出せずにいた。
上から吊るされた本を読みながら、両手であの槍を持ち、その先っぽに載ってる爺さんを持ち上げ続けるとかいう、ただの拷問みたいな姿勢をキープし続けるだけの訓練だからだ。
どこぞのインフルエンサーも言ってたぞ。静的トレーニングだけじゃなくて、動的トレーニングも交えてやりなさいって。
「それは筋トレの話じゃろ。これは神性を入れる器としての訓練じゃから違うのは当たり前じゃ」
「どこが器としての訓練なんだよ」
読んでる本も別に学術的って感じでもないし。何か物語みたいなのが書かれているだけだ。
「こんな物語読んでも何にもならない気がする」
「これで神の苦悩を知るのじゃ」
「いや、お前らの都合じゃねえか!」
まったくふざけた話だ。第一、今から鍛え始めたところで神に勝てるようになるかどうかも分からんのに。
もしかして俺、騙されてんじゃなかろうか?
「そもそも俺よりも爺さんの方が強いんだろ? その爺さんが負ける相手に俺が勝てる訳なくねえか?」
「何を言っておる? ワシは戦闘に特化した神じゃない。今のお主には負けんが、神性を手にしたお主には負けるじゃろうな」
「でも魔法とか使えるんだろ?」
「魔術じゃな。使えるのう。この湖は『知恵の湖』と言ってな。この水を飲んで使えるようになったんじゃがな」
え、じゃあ俺も飲めば使えるように……。
「ああ、でもお主が飲んでも使えるようにはならんぞ。情報量が多すぎて何も得ることはなく、脳内を通過するだけじゃろう」
「じゃあこの修行して俺は何が出来るようになるんだよ」
「だから言ったじゃろ。神性に耐えうる器を作ると。神には神性が無ければ傷を与える事すらもできん。ましてや反抗することすらもできんからのう」
つっても本を読みながら槍を持ち続けるだけとかいうよく分からん修行方法なんだけどな。
爺さんが俺の脳内を読み取り、読めたと思ったら次のページへ本をめくる。
魔術の使い方、だいぶ贅沢だな。
「そういえば神は人間界に降りれなくなるんだよな? 神性を受け取っちまったら俺も人間界に降りれなくなるとかって話ならナシだぞ?」
「それなら心配無用じゃ。お主は元より人間。故に神性を受け取ろうと、神になるのではなく、半分神、いわゆる半神になるだけじゃ」
すげえ。音で聞いたらカッコいいのに、字面にすると半袖みたいだな。
「……またしょうもないことを考えおって」
「あ、ごめん。つい――ってことは俺は別に人間界に戻れるってことだよな?」
「うむ。その通りじゃ」
ページをめくる音が聞こえる。
はあ、苦痛だ。文字を読むなんて学校以外でしない俺にとってこんなにも苦痛な事はない。
てかホントにそろそろ脳みそが限界……に……あれ? おかしいな。急にめちゃくちゃ眠くなって……きたぞ。
「ふむ、そろそろ限界かの」
そんな爺さんの言葉を最後に俺の意識は暗闇へと沈んでいくのであった。
♢
香ばしいにおいが鼻の中を通っていく。ゆっくりと目を開けると、爺さんが湖の畔でデカい鍋を火に当てていた。
そうか。俺、本読むのが苦痛すぎてそのまま寝ちまったのか。
にしても急に来たよな。魔法で麻酔かけられたんじゃねえだろうな。
「ようやっと起きよったか。ほれ、シチューがある。食べるんじゃ」
「あ、いただきます」
確かに腹減ってんな。俺は寝ぼけ眼をこすりながらベッドから起き上がる。
そして俺が寝ていたベッドはそのままどこかへと消え去ってしまう。
これも魔法で作った奴だったのか。何か草壁さんみたいな力だな。
「爺さんの魔法って異能みたいだな」
「そりゃそうじゃろう。異能は元をたどれば魔術に行き着く」
「あ、そうなんだ」
だからってそんなポンポン付与できるもんなのかね。
「リベルは特別じゃ。あ奴は『自由の神』じゃからな」
「え、なにそれ。せこ」
「神じゃからな。なんでもありじゃ」
ふーん、そんなもんか。
「それよりも迅よ。お主が人間でいうところの丸三日寝てる間に向こう側がこの空間に気付いた。さっさと訓練始めるぞ」
「マジかよ~……は? 丸三日?」
「うむ」
顔を見ればわかる。ふざけている爺さんではあるが、今は嘘を言っている顔じゃない。
だってこの爺さん、人をおちょくる時にはすげえ楽しそうにするし。
「……聞こえておるんじゃがな。まあ良い。人の身であれほどの神性を体内に取り込んだんじゃ。そりゃ、そのくらい体を休めねばならんじゃろう」
「神性を受け取った覚えないんだけど」
「お主が体内に取り込みやすいように、神性を文字に変換させ、少しずつ神性の器を作っておったのじゃ。どうじゃ? ワシ力作の物語は。面白かったじゃろう?」
……道理でつまらなかった訳だ。
「おい」
でも確かにあれほどの愚作なのにどういう訳か頭にこびりついている。
無難に面白い作品よりあからさまな駄作の方が印象が強くなる効果を使って俺の頭に刷り込んだって訳か。
「貴様。流石のワシもブチギレそうなんじゃが」
「その能力無くしたらいんじゃね?」
「なくしたらなくしたでどうせ口に出すだけじゃろがい」
「それもそうか」
「それもそうかじゃないわい。たく。そんなことより時間がない。さっさと始めるぞ」
不貞腐れた爺さんが再度本を開き始める。
そうして再度訓練を始めてから数時間してようやく気が付く。
両手で槍を持っている事には何の意味もないという事に。
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