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107話 神々

「お前もとうとう明日から先行部隊か」


 出発の準備をしながら永井がそう声をかける。


「そうだな」


 向井の言葉からは嬉しさなど微塵も感じられない。以前はあれほど熱望していたユグドラシルの攻略者の、しかも主役の隊に抜擢されるというのに、だ。

 向井にとって以前まではそれはゴールに程近いものであったが、今はただの通過点にすぎなくなってしまったという事なのであろう。

 

「そういや二人とも、他から声かかってんだろ? 今日そっちいっても良いぞ」

「何水臭い事言ってるの。今まで一緒にやってきたんだしさ、私達に送り出させてよ」


 ユグドラシルの攻略作戦が開始してからこれまでかなりの月日が経過していた。

 そこからずっと共に戦い続けてきた二人だ。

 信頼関係は段違いであろう。

 向井はその二人を見て、ここに残りたい、と思う気持ちと、俺だけ幸せで良いのか、という気持ちとでせめぎ合っていた。

 今はもう絶望的と言われている押出迅、そしてジョーカーの安否。

 それでもなお、向井は信じているのだ。生きていると。

 だからこそ、今、友は苦しんでいるかもしれないのにと心の中で葛藤しているのである。


「それじゃ行こうか」

「おう!」

「うん!」


 これまで共にしてきた時間はかなりのものだ。それ故に三人は息をピッタリと合わせ、基地外部へと繰り出す。

 これが三人で行動する、()()()()()の時であるとは知らずに。





 豪奢な装飾が施された神殿、その中央に置かれているこれまた豪華なベッドの上で一人の男、いや、()が寝そべりながら林檎を齧り、大きな水晶の球を眺めていた。

 

「リベル様」


 そこにやってきたのは如何にも戦闘後と言わんばかりに負傷しているヘルブレインであった。

 そして名を呼んだ相手は「リベル」。このベッドで寝そべっている神こそが、この()()の主犯格、『自由の神リベル』であった。


「派手に負けたか、ヘルブレインよ」

「……申し訳ありません」

「まさか冥界を消し飛ばしちまうなんてな! 傑作だったぜ?」


 そう言うとリベルは大声を上げて笑う。

 

「何と申し開きをすればよいか……」

「別に良いぜ。アイツを信仰してる奴らの魂なんかわざわざ私達が管理する必要はないと思っていたからな。ま、魔物化して神界に蔓延って若干ウザいだろうがな」


 そう言うとリベルはスッとベッドの前で跪いているヘルブレインの方へと手のひらを向ける。

 刹那、ヘルブレインの身体は凄まじい速さでリベルの目前にまで引き寄せられていく。


「お前が無事ならそれで良いさ。後処理は私に任せると良い」


 ヘルブレインの顎をくいっと持ち上げ、至近距離でそれだけ告げると、リベルはベッドの上にヘルブレインを残したままベッドから降りる。


「そんな事よりもヘル。大水晶で()()()()()を探すぞ。」

「……はっ、承知いたしました」


 リベルの行動により少しの間、ぼおっとしていたのか、現最高神の言葉であるのにもかかわらず、一瞬聞き逃してしまうも、すぐに取り直し、リベルの下へと駆け寄る。

 そこでヘルブレインはとあることに気が付く。


「今日はヨルムは居ないのですか?」

「あー、アイツは人間どもの中で気になる奴が居るっつって大樹に行ったな」

「そうなのですか。あ奴め、リベル様を放っていきおって」

「よいよい。そもそもアイツは自由の神である私よりも縛られるのが嫌いだからな」


 そう言うとまた、リベルは大声で笑う。

 それに対してヘルブレインは少し頬を膨らませる。


「リベル様。あなた様が注意してくださればいいのに」

「言っても聞かねえさ」


 そう言って二人が神殿を出た時であった。


「チッ、ま~たカダスの奴が暴れてやがるな」


 遠くを見ると巨大な黒い狼の姿がある。

 その狼の名は『破壊の神カダース』。雷神ギルバーツから神性を奪い、その身に宿すことに成功し、神性だけで言えばリベルを超えるほどだが、代償として理性を失い、今では神界を荒らしまわっているだけの存在だ。

 傍から見ればそんな奴を放っておいているだけで危険だと分かるだろう。

 現に神殿の一部も破壊しつくされた場所がある。

 それでもリベルは処分することなく、カダースの好きにさせている。


「また近づかない様にお灸をすえましょうか?」

「いい、いい。アイツだって苦しんでんだ。それに私達は家族だろう? 家族ならば反抗期くらい大目に見てやろうじゃねえか」


 今、リベルの周りにいる神は皆、リベルの()()であった。

 そしてその誰もが薄暗い過去を持っている。

 だからこその確固たる絆がそこにはあった。


「さあ、今日こそあのジジイの潜伏先を突き止めるぞ」


 そう言うとリベルは大水晶が置かれている建物の扉に手をかけるのであった。

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