106話 ランキング
「話? いったい何の話でしょう?」
今まで全く以て接点のなかった向井は訝しげに川下に問いかける。
川下と言えば先行部隊の中でとりわけ注目されているわけではないが、ことナンバーズ以外の面々の中では最もランキングが上位であり、彼も少なからずの化け物である。
「激流使い」と言えばまず間違いなく彼の名前が出る。
水の流れ、土石流の流れ、果ては空気の流れなど、その「流れ」を根本的に操作することのできる異能を持つ。世界的に見ても極めて驚異的な力を持っている。
故に、殲滅部隊の面々ばかり集まっているこの休憩所では、当然のことながらどよめきが起きる。
「川下さんって最近21位まで上がったって話題の?」
「ああ。俺の上位互換みてえな異能のバケモンだ」
傍でコソコソと黒田と永井が話している一方で、向井は座りながら立っている川下をまっすぐ見つめている。
「別に何の話って訳でもない。気になったから話してみたい、ただそれだけだよ」
そう言うと川下は「隣座っても良いかい?」と言って向井の隣に座る。
座り順的には左から、黒田、永井、向井、川下の順番だ。
その位置に座っているあたり、どちらかと言えば向井と話したいのだろうと察した黒田は少しムッとする。
「むくれんなよ。俺達がお呼びじゃないってのは分かんだろ」
「……はーい」
ランキング上位の人としゃべりたかったのに、とぼやきながらも黒田は永井の宥めに応じ、口をとんがらせるのを辞める。
「ごめんごめん。どっちかというと向井君に用があってさ。そっちの……えーと」
「黒田あかね」
「あー、そうそう黒田さん。それと……」
「オッサン」
「オッサンじゃねえ! 永井だ! 勝手に名乗んな!」
「あー……ハハハッ、永井さんだね。申し訳ない。僕のリサーチ不足だ」
黒田と永井の掛け合いにタジタジしながらも川下は何とか取り繕おうとする。
一方で向井はその二人のやり取りにどこか既視感のようなものを思い出し、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「いやね、聞きたかった話はさ。向井君って白崎さんと仲良いだろ?」
「仲良い訳じゃないですね。同じ学校で同じクラスってだけです。仲が良いのは俺の友達ですね」
「あ、そうなんだ。なるほどね。こっち来てから二人が話しているのを見たことなかったからどうなんだろって思ってたけどそういう事だったんだ」
向井と白崎は特段仲が良いわけではない。押出が二人と仲が良いだけなのである。
そして押出と言えばあの性格だ。当然、二人に仲良くしてもらってみんなで遊ぼうとかそういった考えは全て欠落している。
故にユグドラシルの攻略者内において二人が話さないのは必然であった。
「白崎さん、モデルとかもやってるくらい超人気で忙しいですし、同じ学校に友達ほぼ居ないと思います。正直アイツ以外と親密に話してるのは見たことないですね」
「へえ~。まあ人気ダンジョン配信者だもんね。俺なんかと違って」
「はいはい質問! 川下さんってダンジョン配信してないんですか!?」
黒田が遠くの方から手を挙げて川下に質問をする。
川下は一瞬、その大声に驚きながらもちゃんと答えようとしてか、考え始めるような仕草をする。
「……してないね~。若手の頃はしてたんだけど、ベテランになってからはあんまり。本当は協会からすればしてほしいんだろうけど、戦ってる時に配信がついてたら気が散っちゃって。別に配信しなくてもダンジョン探索さえすれば金も稼げるしな」
「ほえ~、ダンジョン探索だけでお金が稼げるなんて凄いですね~。私なんて午前中は高校に通ってるっていうのもあるけどそこまで探索難易度高いとこいけないから、配信とかしないと探索に必要な準備だけでマイナスになっちゃうのに」
「おめえは良いよな。おじさんなんてダンジョン配信したところで何も稼げないぞ」
「でしょうね」
「おい」
また黒田と永井の掛け合いが始まったかと川下は苦笑する。
向井はそのやり取りをやはり微笑みながら眺めている。
「そう言えば気になったんですけど、先行部隊にはどうやったらなれるんですか?」
そして向井がとんでもない爆弾を放り込む。
その問いかけに川下は待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべて答える。
「無論、ランキングに入ったらなれるよ」
「じゃあ俺も直になれるんですよね?」
今日はランキングが更新される当日。つまり、今日、向井がランキングに入れば今日から先行部隊になることも可能なのである。
「え、向井君。先行部隊になりたいの?」
「ああ、そのために俺はここに来たんだ」
先行部隊になり、ユグドラシルの試練で押出を探す。
数パーセントしかない可能性だが、向井はその可能性にかけてここまで来ていた。
「じゃあ私達、二人になるって事? このオッサンと?」
「オッサンって言うな! まあ、そうゆう事だろ」
黒田は何か言いたげな雰囲気を見せるが、永井はそれを察してかツッコミを入れて和ませようとする。
「二人には申し訳ないけど、俺はやることがあるんだ」
「……そっか。まあ仕方ないよね。元々、私達が無理言って組んでもらってるだけだし」
「俺は全然問題ないぜ」
向井の謝罪を二人は好意を以て受け入れる。
それに対し、向井はありがとうと述べ、再度川下の方へ向き直る。
「ランキングに入れたら、副会長に言っておいてあげる。今日入ってたら多分明日とかに先行部隊になれるんじゃないかな?」
「ありがとうございます」
向井がそう言った直後、テレビでニュースが流れ始める。
この番組でランキングが毎度発表されるのである。
そうしてキャスターが『今日のランキングを見てみましょう』と発言した直後、画面に順位が記された碑が映し出される。
『89位:向井流星』
まさにそれは向井の名がランキングに連ねる瞬間であった。
ご覧いただきありがとうございます!
もしよろしければブックマーク登録の方と後書きの下にあります☆☆☆☆☆から好きな評価で応援していただけると嬉しいです!




