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105話 基地内部

 二度目の『ユグドラシルの試練』攻略の速度は一度目の時と比べて異常なほどに速かった。

 その要因はイグナイト……の隣にいる仮面をつけた黒髪の女性の存在にあった。


「そこからは気配を感じません。こちらです」


 そうしてイグナイト達を指揮する姿は視聴者たちの目に留まる。


『普段は何物にも従う事のないイグナイトが滅茶苦茶素直に意見を聞いてるぞ』

『あの女性、何者なんだ!?』

『仮面をつけた救世主みたいな存在って、なんかジョーカーみたいじゃない?』

『本当だ! ジョーカーみたいだ!』

『二人目のジョーカーって事か!』


 その卓越したダンジョン把握と次の階層への道を見つける類まれなる洞察力から、仮面をつけたその女性はほどなくして二人目の『ジョーカー』と言われるようになった。

 一人目のジョーカーの代わりに現れたのだと。

 目的とは違うが、あながち間違いではないその考察は米国のみならず日本にまで浸透していた。


「二人目のジョーカーだあ? たくっ、世間ってのはどうしてこうも風情がないのかね?」

「まったくだぜ。ジョーカーはアイツだけだ」


 一方で先行部隊の面々はその様相を面白くないと感じている者も多いようだ。現在、基地内部の食卓を囲みながらそんな話題が噴出していた。

 現に普段は西園寺の言動を窘める側の斬月までもが同意する側に回っている。


「でも共通点あるし」

「そうそう突然消息を絶った後に出てきたんだからあながち間違いでもないかもしれないぜ?」


 一方でジョーカーとそれほど面識がなかったであろう元殲滅部隊の面々は二人面の『ジョーカー』という言い方に反発どころか寧ろ同調する意見を持っているようであった。

 西園寺がそんな意見を放った残間と炎小路の二人の方を向いた時、千条が割って入る。


「やめときな2人とも。ここで今その発言したら、他の皆がどう思うか分からない?」

「「……すいません」」


 千条は主に白崎の方を少し気にかけながら残間と炎小路を窘める。

 彼女は知っていたのだろう。白崎は世界で最もジョーカーとの縁が濃いことを。

 白崎だけがジョーカーの素顔を知っているのではないかと言われているのである。


「それにしてもジョーカーはどこに行ったんだろうね? あの人が消息不明になる前に何のサインも残さないだなんてありえないと思うんだけど」


 龍牙がそう呟く。

 それにもっともだと言わんばかりに西園寺が頷く。


「アイツはそんなタマじゃねえ。下手すりゃ俺達に内緒でここを攻略してんのかもしれねえ」


 前回の攻略で俺達の実力を見て呆れてな、なんて以前までの西園寺であれば吐かないような自虐すらも聞こえてくる。


「……どうしてるんでしょうね」


 そう呟くと白崎は一人だけ心の中で呼びかける。押出君、と。





「いや~、向井。お前強いなやっぱ!」


 バシバシと無遠慮に男子高校生の背中を叩きながら豪快に笑うオッサン……コホンッ、永井。

 現在、出動から帰ってきてこうして基地の内部で休息をとっている最中なのである。


「ホントだよ! 同じ上級探索者だけど向井君は格が違うよ! だって現に同時接続も私達が殲滅部隊の中で一番多かったし」

「いやそれは俺のお陰だろ。ほら、コメント欄も言ってたし」

「それ信じてたの? そんなので増える訳ないじゃん。向井君が元々注目されてたから多かったってだけだからね?」

「マジかよ!? くっそ、アイツら騙しやがったな」


 向井の実力を褒める流れがいつの間にか永井が自滅する流れへと変貌していく。

 そちらの方が向井としては有難いのか、少し口角を上げる。


「おっ、ようやく笑ったな?」

「何だよ。別に今までも笑ってただろ?」

「い~や、笑ってなかったさ。ずっと辛気臭え顔してたぜ?」


 そう言われて向井も思い当たる節があるためか、それ以上の反論はしない。

 現に今でも押出の事が頭から離れていない、いや、離れてはいけないとでも思っているのだろう。

 

「お前の友達は強えんだろ?」

「ああ、強いさ」

「お前より?」

「ああ」

「だったらよ、お前なんかが心配なんてしても無駄って話さ。特級探索者なんだろ? どうせ直に何事もなかったかのように帰ってくるさ」

「……ああ、そうだな」

「それよりさ、押出君のエピソードとかないの? 滅茶苦茶気になるんですけど」


 黒田の発言により、向井はこれまでにあった押出のエピソードについて話し始める。

 友人の事を自慢するかのように話す彼は、殲滅部隊に所属してから一番活き活きしていた。

 そんな折であった。


「ねえ、殲滅部隊で一番同時接続者数多かったの君達だよね?」


 そう話しかけてくる者が居た。

 向井達が振り返るとそこには先行部隊の川下亮介の姿があった。


「話がしたいんだ」

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