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102話 『ユグドラシルの攻略者』始動

 イグナイトが帰還し、転移石で最高階層まで転移した後、本格的にユグドラシルの試練攻略が始まった。

 先行部隊の10名は殲滅部隊の面々に見守られながらその先へと足を踏み入れる。


「本物だ」

「すげえ〜、テレビで見んのとは威圧感が違え」

「シロリン、可愛すぎんだろ」


 全員がランキング上位という錚々たる面子は、殲滅部隊の士気を上げるのに十分な役割を果たしていることだろう。


「いや〜、居心地悪い〜」

「ハハハッ、俺もだよ。実質注目されてんのはあの人達だけだってのに」


 先行部隊の後方では以前まで殲滅部隊として参加していた炎小路岳、残間世界、川下亮介の三人が少し萎縮しながら歩いている。

 彼らもまたランキングに載ってはいるが、白崎達よりは順位が低めということもあり、同等の期待を背負うには荷が重いと感じているのだろう。


「千条さん、今日からよろしくお願いします」

「ええ。同じ女性同士、仲良くしましょう」


 一方で、同じ殲滅部隊であった千条は三人のその態度を気にも留めずに白崎と話している。

 

「当真。指揮はお前に任せたぞ。俺ぁ、斬る」

「たくっ、仕方ねえな。少しはリーダーらしくしやがれ」

「適材適所っつうもんだよ。なあ、大地」

「え、あ、はい」


 殲滅部隊での交流があるのか大地と西園寺の仲は比較的良い。

 いきなり暴君の下についてしまった事で不憫に思われていた彼の配属もそれなりには悪くないのかもしれない。

 程なくして基地を抜け、イグナイト達の隣に立つ。


「私達はあちらへ向かいます。あなた方は他の三方向を中心に攻略して下さい。次の階層への道を見つけたらこれを鳴らしてください」

「承知いたしました。()()殿」


 イグナイトの隣に立つ女性に対して、天院は頷く。

 そしてとある質問を投げかける。


「ところで、あなたと()()()()ジョーカー殿はどうなさいましたか?」


 それを聞くと、レイは無表情のまま視線を重ねる。そしてゆっくりと首を横に振ると、天院の耳元でこう囁く。


「あの方ならもうこの世にはいませんよ」


 それだけ言うとレイは天院の顔を見向きもせずにこの場から姿を消す。

 イグナイト達もそれに続いていく。

 

「姉さん、何て言われた?」


 弟の問いかけに対し、天院はうまく言葉を返せないまま押し黙る。

 今ここでジョーカーの死を伝えてしまえば士気が下がるのは間違いない。

 消息を絶ってしまった辺りから覚悟していた事ではあったが、やはりその衝撃は世界を揺るがすほどであろう。

 しかしてこの事実を天院一人では抱えきれないことだろう。


「良いだろう別に。ジョーカーは死んじゃいねえ。」


 西園寺はそう言って天院の迷いを断ち切ると、剣を掲げてこう告げる。


「さあ行くぞ! 俺達の力で神とやらを倒しにいこうじゃねえか!」


 こうしてユグドラシルの試練攻略が再始動するのであった。





「先行部隊が遂に攻略を始めたらしいぜ」

「俺達もうかうかしてらんねえな」

「つっても、先行部隊の帰還場所を整えるだけだろ?」

「馬鹿お前知らねえのか? ここはステータス数値1000万を超えるバケモン共がウロチョロしてるんだぜ? 俺達の仕事だって気合い入れなきゃ死ぬぜ?」

「俺は死んだって良いさ! こうして『ユグドラシルの攻略者』の一員になれてんだからな!」


 基地内部の探索者休憩所ではそんな会話がどこかしこで繰り広げられていた。

 そんな中で向井は自身の剣を磨いている。

 それは友人がくれた炎の剣。


「……そういやまだありがとうって言えてねえな」

「なになに? 誰の話?」

「聞いてたのかよ、黒田さん」


 そんな向井の傍には先程チームを組むことになった黒田の姿があった。

 そろそろ出番があるという事で一度荷物を整えてから再集合する手筈となっていたのである。


「この剣、押出がくれたんだ。それのお礼が出来てねえなと思ってな」

「何で? 普通にすればいいじゃん」

「あかねちゃん、そういう事じゃないだろ多分」


 次いで再集合した永井も口を挟む。

 その言葉で気付いた黒田もハッとしたような表情を浮かべる。


「ごめんなさい!」

「良いよ別に。それにアイツだって死んだとは限らないし」

「そうだよね。あれだけ強い押出君がすぐに死ぬとは思えない」

「へえ、そんなに強いのか。その押出って奴は」

「強いなんてもんじゃないよ。それこそ探索者としては先行部隊の人達と()()階級だし」

「は???? マジで?」


 特級探索者。それは上級探索者の中でも10人に満たない程に少数の精鋭たちの事を指す。

 

「ついでに言っとくが、アイツが特級の始まりだからな」

「……いやいや頭が追い付かねえんだが? だってそいつまだ高校生だろ? てかなんでそんな奴が全然話題になってねえんだよ」


 永井の言葉ももっともである。特級という階級の始まりでもあり、しかもそれが高校生だとなれば世間が大いに騒ぎ立てることだろう。

 しかし、探索者をやっている永井ですら知らないというのは少し違和感がある。

 まるで何者かが世論を操り、存在を隠しているかのような、そんな不思議な力が働いているのかもしれないと思うには十分であろう。

 そんなことで少しの間、三人で押出についての話題で盛り上がっている最中、休憩所に探索者協会の会長が姿を現す。


「これより殲滅部隊の作戦を開始する。探索者は皆、協会が配った所定のカメラで配信をするように。公開義務はないが、こちらの基地に常に状況が共有できる環境で作戦を履行してほしい。疑問のあるやつはいるか?」


 その問いかけに手を挙げる者は居ない。皆、期待の籠もった眼で会長を見つめる。

 この作戦で目立つことが出来れば有名人になるチャンスが大いにある。それは前回の攻略で証明された。だからこそ、皆ここに集い、戦うのである。


「無いなら良し! では、思う存分暴れてくれ!」


 その会長の一言に皆が声を張り上げて賛同するのであった。

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