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101話 攻略メンバー

 ユグドラシルの攻略が再開された。その報せはすぐさま全国、いや全世界へと広まっていった。

 注目されたのはその投入された選ばれし探索者達の数だ。

 総勢1000人程度で組まれた大規模攻略部隊の編成。

 その中でも際立つのが初代ユグドラシルの攻略者の面々であるのは至極当然である。

 殲滅部隊は1000人ほど存在する上級探索者達に任され、以前のメンバーは全員が先行部隊に編成されることとなった。

 更にこの話が日本だけでなく世界が注目することとなったキッカケはとある人物の存在による。


「イグナイト氏。あなたの攻略地点までこちらの転移石に記憶させてきてもらえますか?」

「ああ」


 現状、攻略トップであるイグナイト達が手を組んできたこと。

 これには天院にも思いもよらぬ事であった。何故なら彼は日本との、いやジョーカーとの競争に固執しているように見えたから。

 その理由がイグナイトの隣に立つ黒髪の女性にあるとは誰も思わぬだろう。

 その顔は仮面で隠されている。突然現れ、何故だかイグナイトと対等に話している彼女の存在に天院はどこか既視感があった。


「姉さん」

「龍牙。どうかした?」

「僕達はどうしたらいい?」

「あー……もう少し待ってて。戦力を考えてチームに分けようと思ってるから」


 今回の攻略も先行部隊の中でさらに小隊に分け、攻略をする。以前はジョーカーが単独で行動し、他の者が全員でパーティを組んでいた。

 だが、先行部隊にランキング上位に入っている者全員の戦力をかき集めることができる上、前回のユグドラシルの攻略にて地力が強化されたことから、そういった策も練れるという訳だ。

 如何せん、『ユグドラシルの試練』は他のダンジョンと比べて何倍も広い。そうしなければ短期で攻略など不可能なのである。

 探索者協会としては、最近の異変を踏まえ、今回の攻略ですべてを終わらせようとしていた。


「整理すると、先行部隊に割ける人員は私を含めて合計で10人。ランキングを考慮して編成するとしたら西園寺さんと私、それと龍牙がリーダーとなって合計三部隊に分けた方が良いわね」


 天院の頭の中で先行部隊に属する10人のランキングが駆け巡っていく。


「あん? 俺ぁ一人で良いぜ? 俺にリーダーの能力なんてねえからな」

「そうはいきません、西園寺さん。あなたが無理に突撃して失ってしまえば我々人類の勝ち目が遠ざかってしまいますから。あなたに必要なのはストッパーです」

「はっはっはっは! 言うねえ、天院さん! おいおい、道玄よ。聞いたか? お前に必要なのはストッパーだってよ」

「……否定はできんな」

「あん? 珍しいな。お前が言われたままなのは」

「黙れ当真。ここで言い返すのは風情がねえだろう?」


 前回の攻略での失態が余程効いたのか西園寺はそれだけ告げるとそれからは天院の言葉に逆らう事なく首肯していく。


「殲滅部隊の指揮はどうするの?」

「それは会長にやってもらうから大丈夫」

「え? 会長も来てるんだ~」

「……書類仕事が面倒なんだって。ほら、今凄い報告が多いじゃない?」

「あーそういう事か」


 龍牙は天院の言葉を聞いて納得する。今の探索者協会の仕事量は今まででトップクラスに忙しいであろうことが予測できたからである。

 そしてそれだけに、大量の優秀な探索者を投入しているこの作戦を一刻も早く終わらせたいのである。


「皆さん、集まってください。先行部隊改め攻略部隊の各小隊メンバーを発表します」


 天院がそう言うと、前回の攻略メンバーが全員集まって天院が示す紙に目を向ける。

 

 隊長:天院龍牙、メンバー:白崎瑠衣、千条ちとげ

 隊長:天院なぎさ、メンバー:炎小路岳、残間世界、川下亮介

 隊長:西園寺道玄、メンバー:斬月当真、大地悟


「一応、ランキングを考慮して小隊を組みました。ご意見がある方はいらっしゃいますか?」


 そう問いかける天院に対し、手を挙げる者は一人も居なかった。

 そうして、このチーム分けは見事に成立するのであった。



 


 攻略部隊が攻略の準備を進めながらイグナイトの帰還を待つ一方で、殲滅部隊ではそれぞれの顔合わせも踏まえた交流が行われていた。

 その中に向井流星も居た。その手には押出から貰った炎の剣が抱かれている。

 未だに押出の生存確認が為されていない。一時、ジョーカーによる配信で生存確認をして、向井もホッとしたが、その安心感は長くは続かなかった。

 何故なら肝心のジョーカーすら今、生死不明だからである。

 ジョーカーの配信で述べられていた事実を鑑みると、彼らは神々の世界にて行方をくらましたと考えられる。

 そこに居るのは以前まで何とはなしに憧れを抱き続けている青年ではなく、友を探し求める青年へと変貌を遂げていた。


「よう、高校生配信者」


 そんな向井に声をかける者が居た。長髪で見るからにひょうきんそうな男である。

 

「俺は永井悠だ。お前強いだろ? 俺と組んでくれよ」

「俺の事を知ってるのか?」

「あたりめえだろ。高校生で上級探索者ってだけでも目立つのに、あんだけ配信で大暴れしてたんだからな」


 永井は笑いながらそう言う。それを見た向井も特にデメリットはないと判断し、了承する。


「分かった。一緒に行動しよう」

「おお! 助かるぜ~。俺の異能は主に水を操る異能だ。補助は任せろ?」


 補助かよ、とツッコミを入れたくなるが、意外にも水を操る異能というかなり強力な異能を持っていることに向井は少し驚く。


「あっ、もしかして天馬探索高校の人!?」


 今度はまた毛色の違う声のかけられ方をする。またかよと半ばうんざりしながらそちらの方を見ると、ミディアムヘアくらいの快活な女子の姿が目に入る。


「やっぱりそうだよね! よかった~。周り大人ばっかりだったからうんざりしてたんだよ~」


 そう言いながら駆け寄ってくると、ちらりと永井の方を一瞥し、再度向井の方を向く。


「やっぱり皆、チーム組むんだね」

「ええっと、ごめん。誰?」

「あっとごめんごめん。私、姫ケ丘探索高校の黒田あかねっていうんだ。一応、前の合同訓練で押出君と白崎さんと同じグループだったんだけど~、二人と知り合いだったりする?」


 そう言われて向井は少し思い出す。あの時から髪は伸びているが、確かにそんな女子がいたかと。

 押出のグループであったことから記憶に残りやすかったのだろう。

 それにしても上級探索者ではなかった筈。この短期間で上がったのかと驚嘆する。


「へえ〜、別嬪さんじゃねえか。このモテ男が」

「永井さん、ちょっと黙っててください」


 茶化してくる永井にそう釘を刺すと、向井は黒田に向き直り告げる。


「押出は俺の親友だ。もちろん、歓迎するよ」


 こうして向井は黒田と永井の2人と行動を共にすることになるのであった。

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