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其の陸:アメリカ兵が味わった日本

ある晩1942年のガダルカナル島と、とあるコンビニエンスストア前の洞窟が繋がってしまった……。

この洞窟は通称「門」と呼ばれ、そこを通過するにはいくつかの条件があった。

・過去から現代には移動できるが、現代から過去には、来た者以外は移動できない。

・同時に「門」を通って現代にいられるのは生死を問わず最大3人まで。

・1人が持ち帰る事の出来る物資は、現代の金額で2000円程度までで、3人分まで。

・武器は基本的に移動させられない。

・歴史を変えかねない「情報」は記録媒体ごと移動させられない。

・この「門」は人為的に開けられたようで、上記制限は探せば抜け道が存在する。

「これは何だ?」

1943年のガダルカナル島から20XY年の日本を訪問中のマイク・トッド陸軍軍曹は、

米の上にハンバーグステーキと目玉焼きを乗せた料理を見て尋ねた。


(え? ロコモコって1943年は無かったんですか?)

(あると思って来たけど、調べてみるわ。え? 1949年? 惜しいわ!)


付き添いの自衛官が「ロコモコ」を知らないハワイ出身兵にどう説明しようか悩んでいた。

「だから、これは何なんだ?」

イラつきながら話す戦時中の米兵に、彼等は

「我々が想像したハワイ料理です。口に合わないようで申し訳ありません」

と釈明したが

「いや、美味いことは美味いぞ。だが、こんな飯は知らない。

 まあ、猿真似ジャップが想像で作った料理ってわけだな」

鼻で笑いながら、とりあえずは納得してくれた。


(タコライスはどうだろう?)

(あれは沖縄占領してからだから、ガ島戦当時は確実に無いぞ)

(…タコライスじゃなく、タコスでいいですか…)

(テキサスとかあっち出身だったらね。軍曹はホノルル出身だぞ)

(当時のアメリカの飯とか、日本の当時の飯程に知らないですよね)

ひそひそ話で、「門」から送り返すまでの時間の潰し方、具体的には

「大食いの米兵にどんな食事をご馳走するか」を相談していた。


相談の結果、次はやはり定番のハンバーガーにしよう、となった。

ハンバーガーは20世紀初頭には既に存在した。

だが、日本のハンバーガーを出すと

「小せえ! ショボイなあ」

と言われる事が分かっていたので、まだその店自体は1943年には生まれてないが、

それでも「ハワイアン・ハンバーガー」を出す店に軍曹を連れていった。


軍曹は満足していたが、

(ここ、ハンバーガーが某チェーン店の10倍の価格ですね)

(お前知らないの? 某チェーン店も最近それくらいの価格のハンバーガー売ってるぞ)

(本当ですか? 金かかりますねえ)

美味そうに食ってる軍曹に、通りすがりの白人男性が

「ヘイ!」と言って、ハイタッチして通っていった。

(横須賀バーガーの店にしなくて正解だった!)

(そうですね。あっちだと現代の米軍人が多いから、「お前どこの部隊?」とか聞かれて、

 おかしな事になったかもしれませんね)

軍曹は一心不乱に食った後、

「さっきの彼、誰?」

とか言って来た。

いや、君ら見ず知らずでも普通に「ヘイ!」とかやってるだろ!


「フー、よく食ったぜ。ところで、甘い物無いか?」

平和な国の女の子が「甘い物は別腹~」って言ってるが、貴方もその口なんですか?

自衛官は、戦後日本の、飽食日本の、グルメ大国として世界に知られた日本の

意地を見せるべく、ある店まで連れて行った。

「ミスター・トッド! この店は

 All-Sweets-You-Can-Eat(甘いもの食べ放題)だ!

 Sweets buffet(甘いもののビュッフェ)だ!

 好きに食べて下さい!!」

「WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!」

こんな笑顔のトッド軍曹は、昨日ガ島から転がり出て来て以来初めて見た。

食う、食う、信じられないくらい食う。

そして、ジュースもとにかく飲む。

たまにジュースに砂糖入れてやがる。

「美味しいんだけど、ちょっと甘味が少ないのがあるなあ」

って、こいつどんだけ甘党なんだ。

「なあなあ、あのチョコレートは融けているんだが、どうやって食べるんだ?」

「あれは、果物とかマシュマロを串に刺して、それを融けたチョコを潜らせて、

 その上にトッピングをかけて食べるんです」

「Woooooooooonderfuuuuuuuul!!!!!!!

 甘いフルーツに、甘いチョコをコーティングし、その上にナッツとか振りかけるのか?

 君たちは天才だな! 見直したぜ、ジャップ!」

一々反応が大袈裟だ、この店に来てからは特に……。

そして、パンケーキの上にアイスクリームを乗せ、その上にメイプルシロップと

チョコソースをふんだんにかけた物を持って帰って来た。

「My God!!!!!!!! Unbelievable!!!!」

そろそろうざくなって来た(笑)。


「なんか甘い物食べてたら、小腹が空いて来たよ」

とんでもない事言い出したよ、このキリギリス!!

幸いこの店は、軽食も提供しておる。

「マカロニ、美味えええ!!!」

なんか、時代背景とか考えて「その時代に合った料理を」とか考えたのが馬鹿馬鹿しくなった。

自衛官は顔を見合わせて

「今のアメリカ人が食べてるような、普通の飯や甘い物で良かったんだな」

と確認し合った……。


軍曹は食べ放題の時間をフルに食べまくって、満足したようだ。

「お前ら酷いな」

「へ? 何か不満でもありました?」

軍曹が何に不満を持ったのか気になった。

「お前らがこんなに嬉しい飯を食わせてくれたら、帰ってからジャップを殺せないじゃないか。

 一体どうしてくれるんだ(笑)?」

そういえばこの人は、1943年に戻れば日本人の先祖を殺す、交戦国の軍人なのだ。

(まあ、どうせ「門」を通れば忘れるでしょうが)

そう割り切りつつも、なんとも言えない感情に取りつかれた。




東京某所、山というか峠というか、そういう辺鄙なとこにあるコンビニエンスストア、

その前の繁みを越えた先の洞窟に「1943年のガダルカナル島と20XY年の日本」

を結ぶ「門」が発生した。

これから軍曹を乗せた自衛官の車は、そこに戻ろうとしていた。

「なあ、気になったんだが……」

軍曹が話しかけた。

「何でしょう?」

「この大量の自動車にも驚いたが、フォードもクライスラーも見当たらないなあ」

「ああ、日本市場から撤退しましたからね?」

「どうしてだ?」

日米貿易摩擦になった事項だの、日本車の性能が良くなっただの、

部品供給の関係とか色々あったが、この軍人の愛国心を刺激しない為に

「うちは右ハンドルですから。左ハンドルだと売れないんですよ」

そう言ったら、なるほどそうかと納得した。

しばらく無言の後、また質問をする。

「この時代、合衆国の企業ってどうなっているんだ?」

「さて……。アメリカの企業と言われましても、色々ありますからね」

「フォード、クライスラー、GMはどんな感じだ?」

「まだ存在はしていますけどねえ……」

「何があったんだ?」

「10年ちょっと前に、また世界恐慌がありましてねえ」

「また? おいおい、未来のお前らも随分だらしないな。まだ克服出来なかったのか?」

「フォードは持ちこたえましたが、GMは破産して、今はアメリカの国有企業になりました」

「リアリー? クライスラーは?」

「他の国の自動車メーカーと手を組んで……、

 もうはっきり言うと、外国メーカーに買収されました」

「シット! 一体どこの国だ?」

「イタリアのフィアットです」

「イタリアだと??」

なんか、ドイツや日本へのような口汚い悪口が出て来なかった。

「リアリー? あのイタリア? あの弱いイタリア??」

「……戦争と経済は関係ありませんから……」

「まあ、そうだな……」

また黙った後、

「ボーイングは? ロッキードは? グラマンは? ダグラスは? カーチスは?」

「ボーイングは健在ですよ。世界1、2の巨大旅客機生産メーカーです。

 ダグラスはマクダネルと合併してマクダネル・ダグラスとなった後、

 ボーイングに吸収合併されました。

 カーチスもボーイングに吸収され、そこの一部門になりました。

 ロッキードはマーチン社と合併してロッキード・マーチンとなり、戦闘機作ってます。

 グラマンはノースロップ社と合併して、ノースロップ・グラマンとなりました」

「ノースロップ・グラマンとなって、それからどうした?」

「最近パッとしないんで、何やってるんでしょうね? 軍需産業としては生き残ってます」

「コルトは? スミス&ウェッソンは??」

「コルトは倒産しました」

「Oooooohhhhhhh! Noooooooooo!!」

「スミス&ウェッソンは相変わらず、銃器メーカーでやってますよ」

「Yes!!!」

その後、ドイツや日本企業についても聞いて来た。

そして

「おいおい本当に合衆国は戦争に勝ったのかよ?

 ジャップやフリッツの企業の方が売れてるって事だろ?

 お前ら、戦争の結果か企業か、どっちか嘘ついてないか??」

そう言われて非常に困った。


一人の自衛官が回答した。

「勝ち負けで言ったら、今は中国の一人勝ちですよ。

 その内、ベトナムとかインドとかが勝つと思いますよ。

 人件費の高いヨーロッパからアメリカに産業に移転してアメリカが成長した。

 そのアメリカが敗戦国になった日本やドイツに投資してそっちが強くなった。

 日本やドイツも人件費が上がり、安い国に工場を移して、そっちが強くなった。

 それの繰り返しです。

 でもアメリカは、まだまだ新しい産業を作っていて、世界の覇者ですよ」

「ふうむ……」

軍曹は頷きながら、自衛官私物のリンゴのマークの何かをじっと見ていた。


(そこまで話しちゃって大丈夫ですかね?)

(未来の情報は多ければ多い程、「門」潜ったら忘れるから、かえって色々教えておけとさ)




トッド軍曹は「門」を通って、1943年のガダルカナルの戦場に帰って行った。

そして、思惑通り記憶を失った。

否、数十年思い出さなくされた。

そしてあるきっかけで全てを、昨日の事のように思い出す。

彼はその記憶を元手に、一財産築くことになるのだった。

前の回の修正。

「敵を50km彼方に確認し、発砲」とあったのですが、

よく考えたら大和の主砲の最大射的距離も42km、高角砲は14km。

さらに「この日の視界は最大8km」とあったので、読んだものが間違いとみました。

調べ直し、レーダーは50km先を捉えたようでした。

そのように修正しました。


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