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其の伍:トンネルを抜けたら、そこは「大和」艦上だった

ある晩1942年のガダルカナル島と、とあるコンビニエンスストア前の洞窟が繋がってしまった……。

この洞窟は通称「門」と呼ばれ、そこを通過するにはいくつかの条件があった。

・過去から現代には移動できるが、現代から過去には、来た者以外は移動できない。

・同時に「門」を通って現代にいられるのは生死を問わず最大3人まで。

・1人が持ち帰る事の出来る物資は、現代の金額で2000円程度までで、3人分まで。

・武器は基本的に移動させられない。

・歴史を変えかねない「情報」は記録媒体ごと移動させられない。

・この「門」は人為的に開けられたようで、上記制限は探せば抜け道が存在する。

トンネルを抜けると、そこは戦艦大和の内火艇収容口だった。


1942年のガダルカナル島に繋がる謎の「門」付近のコンビニに、情報統制の一環として

バイトの形式で出張している陸上自衛隊の浜 瑛之(ひでゆき)1等陸曹は、魔が差して「門」を潜ってみた。

すると、彼は海の上にいた。

馬鹿デカイ後ろ甲板に2基のカタパルト。

水上機を移動させるレーンがあり、その横には対空機銃が設置されていた。


「貴様は誰だ? この艦の乗組員ではないな」

拳銃を突き付けながら海軍士官が問う。

彼は敬礼を返しながら答えた。

「小官は日本国陸上自衛隊立川基地勤務 浜 瑛之(ひでゆき)1等陸曹であります」

「陸上自衛隊? どこかの自警団だ? 聞いたことない。

 で、どこから乗って来た?」

「あそこです」

そこは大和型戦艦にのみある、内火艇(ランチ)の艦内への引き込み口であった。

「あそこに隠れていたことは分かった。

 で、いつから乗っていた? どこから入り込んだ?」

「それを答える前にどうしても聞いておきたい事があります。

 今は何年何月何日ですか?」

「おかしな事を言う。昭和二十年四月七日に決まっておろう」

「では、お答えします。私は昭和が終わった時代から来ました。

 昭和はあと40年以上続きますが、とりあえずあの収納口まで来て下さい。

 私が言っている事がおかしいのか、正しいのか分かります」

「ぬ、おかしな奴だ。収納口に行き、何もなかったら貴様を連行するぞ」

「どうぞ、ご自由に」

何故か浜1曹は何故か自信があった。

その海軍士官を連れて「門」を潜れる、と。

そして


「ここはどこだ? (おか)の上か?」

確かにその海軍士官を連れて、「門」のある東京某所に転移出来た。

戻ろうとする士官の腕を掴み、彼は意を語った。

「大和は本日14時、今から11時間後に空襲を受けて沈みます。

 だから我々は、それを阻止すべく大和に遣わされたのです。

 今から武器を持って行きますから、しばし待って下さい」

士官は何が何だか分からないようだった。

彼は無線機を使い、「会議」に連絡した。

どうも「会議」の方も、これあるを想定していたようだ。

『直ちにスティンガーを送る』

という返事が来た。


91式携帯地対空誘導弾、陸自内での呼び名は「スティンガー」または「PSAM」。

それを満載したトラックがコンビニ横の駐車場に停まった。

ここまでに既に1時間が過ぎている。

「閉門」までのあと1時間で、こいつを可能な限り運び込まないと。

表向きの調達数を遥かに上回る多数が、陸自隊員とともに「大和」に運び込まれた。



「小林少尉、その者たちと、その物は一体何だ??」

朝5時になり、「大和」に乗り込んで来た30人の軍人(?)と300個の筒を見て、

当直の士官が質問した。

本当は「貴様、この2時間どこに消えておった?」と言いたかったのだろうが、

それ以上の問題が目の前に広がっていた。

浜1曹が代表し

「我々は未来の日本軍です。第2艦隊は正午より空襲を受け、『大和』は14時に沈没。

 沖縄に辿り着く事はありません。

 しかし、我々はそれを変える為に推参しました」

そう答えると

「おい小林、このキ〇〇゛イはどこで拾って来た?」

と信用しなかった。

しかし後部対空銃座を預かる小林少尉は、先ほどまで東京に転移していたことを説明し、

「彼がキ〇〇゛イなら自分もキ〇〇゛イで十分です。

 共に戦うと言うのですから、取り成しをお願い出来ませんか?」

そう頼んでくれた。


一同のうち、5人が艦橋に案内された。

小林少尉が起きた異常事態を説明する。

「その筒は一体何をするのか?」

黒田砲術長が問う。

「これは敵機を撃墜するものです。追跡型噴進弾といったところです」

「当たるのかね?」

「百発百中……と言いたいとこですが、まあ故障がなければ9割は」

「信じ難いな……」

「それで、君たちは一体どうしたいのか?」

この質問は能村副長からだった。

「第2艦隊各艦に3人ずつ乗せて下さい。そこで対空戦闘を行います」

「たった3人増えたとこでどうともなるまい」


その時、じっと見ていた将官が

「彼等の希望通りにさせてやってくれないか、有賀艦長」

そう言った。

「は、長官のご命令ならば」

「うん、他の艦には僕からの命令って事で伝達する。参謀、そうしてくれ」

「了解しました」

「では貴様ら、短艇で各艦に送るから、人員分けしておけ」



第2艦隊は一時減速し、3人の新規乗組員を搭乗させると、再加速した。

そして、新規乗組員の告げた時間通りに飛行艇や艦載機の索敵部隊を確認した。

「未来人ってのは本当だと思うかね?」

伊藤整一中将が有賀幸作大佐に話しかける。

「正直信用しておりません。しかし、わざわざ命を捨てに来た若者です。

 その志は無碍には出来ないでしょう。

 自分たちと一緒に死んでくれるって言うんです。大目に見てあげましょう」

だが、伊藤の言葉はちょっと違った。

「わざわざ命を捨てに来たのはそうかもしれない。

 だけど、僕には彼等は勝算を持ってやって来たように見えるんだ」

「あの筒ですか? 追跡型噴進弾とかですか?」

「さあねえ。まあ、自信があってもその通りに事が運ぶとは限らない。

 彼等が上手くやってくれたら、それでいいじゃないか」

「長官は別に彼等が未来人だろうが何だろうが、どうでも良いのですね。

 ただ、彼等が自信満々にしているものを見てみたい。

 それで艦隊が進めたら、それで良いと」

「うん」

艦橋での私語はそこで終わった。


12時34分、「大和」の電探はついにアメリカ軍艦載機を50km遠方に認めた。

だがこの日は雲が立ち込め、視界は8km程しかない。

雲の合間から敵艦載機群を確認した時は、既に5km程に迫っていた。

「対空戦闘~」の喇叭(ラッパ)が鳴る。

だが直後、後甲板から”シュゴーー!”という音と、橙色の発射炎が見えた。

「誰が撃てと言った! 当たる訳ないだろう!」

射撃管制もしてない単発で対空砲火など当たる筈がない、それが常識だった。

しかし後甲板から放たれたロケットは、敵の1機に命中した。

その命中の仕方が異常だった。

敵は回避しようと機を横に滑らせたのだが、それを読んだかのようにロケットが向きを変えた。


(追跡型? 追跡型噴進弾だと?)


砲術長が、彼等の言った言葉を思い出した瞬間、「矢矧」「冬月」「涼月」からも

発射されたロケットが敵機を撃墜していた。

(故障しなければ9割? 信じられないが、本当かもしれん)


米軍は対空砲火対策に、密集隊形を取らず、いくつかの集団に分散していた。

「こちら『磯風』隊、前方の第1集団を狙う」

「了解。では『浜風』は左舷の集団を狙う」

無線で連絡を取りながら、出来る限り重複の無いように敵機の集団を狙った。

そして第1波攻撃隊186機は、攻撃位置に着く前に40機を撃墜された。

特にアヴェンジャー雷撃機が22機、ヘルダイバー急降下爆撃機が13機撃墜されたのが問題だった。

異常な被害に攻撃隊から母艦に「日本軍の対空砲火により、30機以上を失った」と報告が入る。

だが、本番はこれからだった。

第2艦隊の各艦から苛烈な対空砲火が吐き出される。

だがこの砲火は派手ではあるが、主力である25mm機関砲の発射速度と装填間隔が、

ギャップをすぐに詰めて接近出来る「穴の開いた」砲火であった。

しかし…

「またロケット…」

その悲鳴と共に攻撃隊の各機が撃ち落とされていく。

「大和」の対空砲が1機、「冬月」の対空砲が2機、そしてスティンガーチームが60機を撃墜し、

第1波攻撃隊は帰途についた。

「あの連中が帰って、補給を済ませたらまた襲ってくる。今のうちに減らしておけ」

と帰還する編隊に追い打ちのミサイル攻撃で10機が撃墜された。

第1波攻撃隊は113機、全体の60%を失うという「信じられない」被害を出した。

もっとも第2艦隊も無傷では済まず、「大和」は爆弾2発と魚雷1発を食らった。

「浜風」が被弾し航行不能となった為、そこのスティンガー隊3人は

「冬月」「涼月」「矢矧」に移乗した。

これ以外は、多少の被弾はあるが、沖縄へ向けて未だ航行可能であった。


「なんとも凄まじい」

有賀艦長は唸った。

1発で1機を落とすロケット。

日本海軍にもロケット砲たる十二 (センチ)二八連装噴進砲や、四式 焼霰(しょうさん)弾という

兵器は存在し、戦艦「日向」「伊勢」、空母「瑞鶴」に搭載された。

だがそれは狙って撃墜するものでなく、飛翔後に爆発し、焼霰弾子をまき散らして

敵機の攻撃を妨害する兵器であった。

「あんな命中率は、全く信じられない」

そういう有賀艦長に伊藤長官は言った。

「その信じ難いのに頼ってしまうが、それでも良い。

 さあ、我々は沖縄に向かおう」


13時2分、第2波攻撃隊約94機が襲来した。

第2艦隊の9隻から、10発のミサイルが発射される。

2発が同一目標を狙った為、9機が瞬時に撃墜された。

さらに攻撃態勢に入る前に、10発ずつ3回のミサイル攻撃で、今度は重複無く30機撃墜。

戦う前に戦力半減した攻撃隊は、さらに第2艦隊の対空砲を浴びた。

だが第2波攻撃隊はロケット弾を「朝霜」に命中させて炎上させた。

彼等は「大和」に狙いを集中した為、2発魚雷を当て、「大和」の速力を落とす事に成功した。

……その代償として20機が撃墜された。

そして帰途についた彼等を送り狼の10発のミサイルが襲い、10機を落とされ、

対空砲で落とされた1機と合わせ70機を失った。


13時30分、第3波攻撃隊約106機が襲来。

この攻撃隊も、第2波と同じような運命を辿った。

対空砲とミサイルとで72機を叩き落とされるも、この攻撃隊は粘り、

炎上していた「朝霜」に魚雷を当てて沈めた。

「朝霜」隊は「磯風」「雪風」「初霜」に乗り移った。

(残りは50発。一人あたり5発か。これならいける)


アメリカ海軍第5艦隊 第58任務部隊は被害に青ざめた。

出撃総数386機、被撃墜255機、損耗率66%。

帰還した機体も、52機が損傷を受けていた。

だが、アメリカ海軍のエセックス級正規空母は、艦載機搭載数90機以上だ。

第58任務部隊はエセックス級7隻を有し、さらにインディペンデンス級軽空母も4隻。

機体総数は800機近い。

300機を失っても、まだ500機を叩きこむ事が出来る。

顔色を失った参謀たちに対し、マーク・ミッチャー中将は戦意を衰えさせていない。

寡黙で穏やかな彼だが、珍しく参謀たちを叱咤すると、第4波攻撃隊の準備をさせた。

そこに電文が来る。

アメリカ第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将からで

「I Will Take Them.(私が奴らをやろう)」

というものだった。



第2艦隊は、2隻の駆逐艦を失い、「大和」も被雷して24ノットしか出せなくなったが、

沖縄に向けて前進をしていた。

「敵さん、来ないなあ」

とスティンガーチームは手持ち無沙汰であった。

この頃になると、F6FやF4Uによる機銃掃射で傷ついた兵は、艦内で治療を受けたか、

死んで浴室(したいおきば)に押し込まれたかで、甲板上は意外に静かになっていた。


そして夜を迎え、「大和」の二号二型電波探信儀が接近する敵艦隊を捉えた。

スプルーアンスが派遣したモートン・デヨ少将率いる戦艦部隊であった。

戦艦6隻、巡洋艦7隻、駆逐艦21隻の水上部隊である。

さらに「大和」に電文が入る。

「ヤマトに告ぐ。

 戦艦時代の幕を引く海戦となるだろう。

 両軍悔いを残さぬ健闘を期待する。

   アメリカ海軍第5艦隊司令官海軍大将 レイモンド・スプルーアンス」

訪米時に親交した送り主の名を確かめ、伊藤整一中将は

「スプルーアンス大将か……。本望である」

と短く口にした。


浜1曹は、敵が航空攻撃を諦め、戦艦で撃ち合いに来た事を知らされた。

そして呟いた。

「こういう結果なら、それはそれでアリかな。『大和』よ、心置きなく戦ってくれ」






…………


「……という夢を見たんですよ」

珍しく浜さんが語っていた。

「夢オチですかい!」

思わず俺はツッコミを入れた、

たまたま来ていた広瀬三佐は

「結構危険な夢ですね。そういう事しないで下さい。

 まあ、こっちから行くことも、武器持ち出しも出来ないのは確認してますが、一応ね」

と釘を刺した。

「出来ないから、じゃないですかね。鬱憤が溜まってこんな夢を見たのかも。

 あの『門』が訳分からない制限だらけで、皆さんやりたい事出来てませんからね」

「まあ君も30歳を超えたいい大人です。夢と現実の区別はつきますよね。

 その辺は安心していいですよね?」

「当然です」

「なら結構」


広瀬三佐は、コンビニと「門」で書類の回収をして、公用車で引き上げた。

帰路、後部座席の彼はその胸中でこう呟いていた。

『私も数年前に、同じような事を夢見て、実際にそうなった場合の準備まで

 していたなんて、同レベルだったって、知られちゃならんな……』

夢オチです。

一回は書いてみたかったネタです。

第51部分で書いた「もしも大和艦上に門が開いたら」の想定でもあります。

あの時は「門」の制限は分かってなかったので、こっちから行ったり、

武器大量に持ち込んだりってルール違反もあえて書きました。

「門」に制限が無ければ、こういう事出来たのかもしれませんね。

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