弐号機は初号機より強いんですとか、足2号作戦は足号作戦より狙いが深いとか…
1943年のガダルカナル島から、多くの現代文明の産物が戻って来た。
米軍の銃弾や爆発による破片で壊れたものもあった。
泥水に沈めて中まで完全に掃除しても復旧困難なものもあった。
だが最も多かったのは、電池切れと充電装置喪失により1943年ではどうにも出来ない物だった。
これらは20XY年に持って来て、充電すれば再使用可能となった。
そうして1943年に再貸出しする一方、現代世界はそれら1943年を記録したメモリカードを抜いた。
1943年では印刷もデータ転送も出来ない。
もう記録を再生したところで、昨年12月末の第三次総攻撃以降状況が変わった為、
敵の位置情報や戦車の配置等、彼等にとって意味を為していない。
だから現代世界で、記録データを解析してみた。
お宝映像の山だった!!
戦友たちとの記念写真は複数枚印刷された。
カラーのものとバックアップデータは防衛省の史料室に納められた。
写真サイズ(L版、たまに2L版)のものに、あえてモノクロ印刷したものを、
まだ生き残っている兵士たちに渡したりした。
戦死した兵士と共に写っている場合は、その分も焼き増し、というか再印刷した。
これが実は1枚あたり2.4円とかそれくらいコストがかかる為、
「門」通過時の金銭計算上は厄介者だった。
それ以外の写真、原住民集落の様子、米軍の望遠写真、さらに
「ピューリッツァー賞ものの写真だ!」
と評価の高い、第三次総攻撃の戦闘中の写真もあった。
中でも現代人を悩ませた写真が、第三次総攻撃中の戦車の写真であった。
「M4中戦車じゃないか? なんでここにいるんだ?」
史実ではM4中戦車が太平洋戦争に現れたのは、1943年11月のタラワ島の戦いからである。
「歴史が変化した? それとも歴史が加速している?」
今まさに歴史干渉をやらかそうとしている人間たちに疑問を投げかけた。
歴史が変わって、ガ島戦をやっている世界と現代の世界が別物になるならば、
無責任に兵器でも何でも補給して良い、そんな考えもある。
しかし歴史が加速した上で現代社会に影響を与えないよう辻褄合わせが為されたのなら?
先人たちを助けると言いながら、かえって揺り戻しでもっと過酷な運命を強いてしまうのでは?
再び議論が起こりかけたが、ここは以前とは違う意味で「問題の先送り」をした。
「1943年2月7日の、史実におけるガ島撤退までもう1ヶ月も無い。
悪いが歴史の議論は先にして、何を運べるか、どう運べるかに専念しませんか?」
M4中戦車の存在は、送るべき武器の選定にも影響した。
「06式小銃てき弾で、M4中戦車の装甲を撃ち抜けるのか?」
「いや、そもそも対装甲用のHEAT弾はほとんど送っていなかった。
面で制圧するタイプを九九式小銃でも使えるよう改造したものだ」
「対装甲用のHEAT弾は、M3軽戦車や水陸両用戦車対策の
切り札として10セットくらい送ったが、もう使い切っただろう。
これからM4中戦車も想定してHEAT弾を送るなら、どれくらい必要だろうか?」
「一体何両ガ島に来てるんだ?」
「米軍の編成表を見ると……、1個中隊なら14両、1個大隊なら最大86両」
「そんなには来ていないだろう」
「とりあえず06式てき弾のHEAT弾は100セットを送ろう。
相手はM3軽戦車や水陸両用戦車もいる。
それ以上は…準備不足ですぐには用意出来ないし、『仏舎利』はそう多くは運べない。
他は史実通り、M4中戦車の履帯や後部を狙わせるしかあるまい」
現在、
「1943年に既に存在しているから、年代測定を誤魔化せば運び込めそう」
な兵器を検討をしている。
その兵器の中で、無条件でM4中戦車を倒せるものを、送れるかどうか…。
人間の手で運べない重量のものならいくつかあるが、すぐに揃える事も、運び込むことも出来ない。
現在の方針は「助かる分だけガ島から無事に撤退して貰う」であり、
米軍の戦車による侵攻や空襲に対し、撃破出来ずとも「簡単には攻撃出来ない」と思わせ、
最悪でも2月7日まで余計な戦闘を回避出来たらそれで良かった。
対空の方は何とかなる。
だが、対戦車となると…。
実はこの時点で、現代側は米軍を過大評価していた。
M4A1中戦車はわずかに4両しかガ島には来てなく、しかも2両ずつ第25歩兵師団と
アメリカル師団の師団司令部の直属とした為、「取って置きの局面」でしか投入されない。
戦車を出すより航空支援を頼んだ方が楽だったりもする。
だが、デジカメに写ったM4中戦車は、その数が不明だった為、現代側に見えない枷を嵌めてしまった。
深夜、東京某所:
まだ「門」は開いていない。
「さて、今日も10円くじやりましょうね!」
「部長…、質問いいですか?」
「はい、何でしょう?」
「クリスマスの時に『足作戦』で、コンビニ本部のデータベースに足跡が残った、
何者か知らんが、あの『門』を開けた奴の手がかりをつかんだ、って言ってましたよね?」
「はい、そう説明した筈ですが」
「今回の『足2号作戦』って、その追試ですか? だとしたら、意味有るんですか?」
「ふっふっふ…、君はまだ読みが甘い。いいですか、弐号機は初号機よりも強いんですよ!
最初に来た右より本命の左の方が引き出しが多いんですよ?」
「何のネタですか、それは?」
「あ…通じないか…寂しいなあ…」
「えー、真面目にやって下さい」
「今回は、わざと『それ10円ちゃうやろ!!』って物を、大っぴらに送ってるんです。
機械の目でなく、人間の頭で判断して、です。
こんなのがいつまでも続く筈がありません。絶対途中でチェックロジックが強化されます。
その時にどういう挙動をするか調査するんです。
相手はコンピュータのデジタルデータを読みに来る、そこまで分かったんです。
あとは候補となるデータベース数ヶ所に罠を張りましたので、
早く連中が『通してはいけない物』を拒否する処理を組み込んで欲しいのです。
だから、思いっきり『10円ちゃうわ!!』ってのを渡してやって下さい」
ほおー、そういう理由が…。
「でも、『花火セット』で外枠変えただけの迫撃砲とか、やり過ぎじゃないんですかね」
「それくらいでいいんです」
「『門』、閉められません?」
「閉めるくらいなら開けないんじゃないでしょうか?」
「いやいやいやいや、この前辻政信が勝手やったって、この時代の人が怒ったじゃないですか。
それと同じで、こっちの時代の人間が好き勝手やったら、
未来か異次元か分かんないですが、その人も怒るんじゃないすか?
それで『やってられんわ!』と、『門』の接続を切るって事も有り得ますよね?」
「その前に設定強化して、また『頑張っても歴史は変わらない』ように戻すと思います。
一回歴史が乖離しかけたと思われる、開通時間が短くなっていた時、
それを元の時間に戻しましたからね。
多分、まだあっちの人たちも諦めてないと思いますよ」
「多分とか、思います、で試していいんですかね?」
「いいでしょう。仮に切られたなら、その時はその時です。
元々『門』がある事自体が非常識なんですから、無くなったらそれはそれ。
最初の時と違って、私たちも随分と頑張って補給しましたしねえ。
やるだけやったんだし、これ以上を望んでダメだったなら、もうそこでおしまい。
ガダルカナル撤退以降はもう干渉しない、しようとしてもガ島以外の『門』を知らない。
だから、早いか遅いかってだけです」
なんか、変な方に吹っ切れた感じがある。
怖いなあ…。
そして開門時間。
どうも歴史の乖離が再び起きているようで(そりゃそうだ。どう考えても史実と違う)、
「門」の開通時間は2時間から大きく短縮され、1時間半程度になっている。
そんな限られた時間で色々運び込もうと、早速「花火の詰め合わせ」当選出したけど、
『門』は弾いた!
洞窟の中に、昨日まで通ったものが悉く通らなくなり、残っていた。
まあ当然、あんなザルだって分かったら未来人か何か知らんが修正するだろう。
そう、賀名生さんに連絡を入れた。
『お! 通らなくなった! 思ったより早いね。サンクス!』
「いいんですか? 武器を渡すのが目的じゃないんですか?」
『これ、本来なら去年の内にやっておく調査だったんだ。
もうひと月も時間が無いし、多少強引にやってみた』
…多少強引ねえ…。迫撃砲を打ち上げ花火とか、強引ってレベルじゃないと思う。
「それで何か分かったんですか?」
『分かるのはこれから』
「そういや、先人を利用した科学調査とかは二の次にするって決めてませんでしたか?」
『決めたけど、これはその範囲外。
何が何でも彼等を救うっていう目的の為には、どうすれば良いかの方法確立が必要。
一応方法について目途は立ったけど、確実なものが欲しかった。
だから『足2号作戦』で、コンビニ以外にどこにチェックにいくか、調べた』
「結果は?」
『これから分かるさ』
「門」で騒ぎが起きた。
最近は潜水艦が毎日ガ島に輸送を行っていて、兵員の交代もしたりしている。
それを利用して、海軍の駆逐艦乗りに「未来」まで来て貰うことになった。
昨日特等賞として「門」を通過させた「魚群探知機」「ソナー」「水上レーダー」だが、
実際に扱って習熟して貰わないと宝の持ち腐れである。
3人の駆逐艦乗りが、こちらの世界で訓練を受ける事になったのだが、
「どうしても1人、『門』を潜れない」
という事態が発生していた。
もう閉門までいくらも時間は無い。
通れない1人の氏名・階級・搭乗駆逐艦の名を教えて貰った。
そして「社務所」のPCで調査したところ
「生きてます。その方は20XY年の現在、まだ存命です!
もう百歳近いお年ですが、確かに生きています」
ということだった。
自衛官が嘆息して言った。
「我々は今まで、変な言い方ですが、『死者』と接して来ました。
戦死しただけでなく、生きて帰国しても、もうお年だから亡くなった方もいました。
同時に同じ人間が2人いる事は出来ないようです。
だから、兵士・下士官ではないという理由以外で来られない人間がいて、
その人の身元を確かめたら、確かにこちらの時間に存在している。
『門』の向こうは確かに自分たちの時間と繋がった世界なんだな、って改めて思いましたよ」
確かに。
「門」の向こうが似て非なる世界なら、同一人物という者は存在しない為、
現在存命中であっても来られたろう。
同じ時間軸にいる日本人なんだなあ。
……って、同じ時間軸なら、やっぱり歴史変えるの危険じゃね?
変え過ぎて、途中で補正効かなくなったらどうするんだろう?
(続く)
感想ありがとうございます。
多分ですけど、未来人はリアルタイムでチェックしてません。
翌日ログを見て、対策したと思います。
火薬系は迷いどころです。
実はこの辺のネタは、フランス他のレジステンスにイギリスがステン短機関銃を供与した時、
弾倉とバレルとストックを外すと「水道管」なんて揶揄されるものになったり、
持ち運びが簡単で大き目の鞄に入れてもバレなかったってものでして、
どこをどう脳内変換かけたのか、あんな話になってしまいました。
……自衛隊がステンガン使ってたらすぐにネタとして仕えたのですが。
一方で未来のくじではあり得るという指摘、目から鱗でした。
そういえば自分、古銭ガチャで400円で百文銭当てたりしたので、等価交換なんてガチャとかだとクソ喰らえですな。
シャーマンちゃんは、この物語では珍しい「過去の状況が現代を足止めする」装置です。
未来の「何者か」には翻弄されつつも、過去の人たちには結構好き勝手やって来た現代ですが、
過去は過去で状況を変えて来るので、辻政信の登場と同じように、過去が現代をビビらした感じです。
現代側は人伝にしか1943年の事を分からないので、シャーマンの影に踊らされた形です。
史実通りに物事考えてましたが、若干史実からズレると現代も考え直す必要出て来ますので。




