足2号作戦
「いいですか? 金額というのは主観的なものです!
ここに下手くそな絵があったとします。
誰もが『2000円以上出す気はねえな』と思いました。
しかし実はこれはピカソの落書きだと言う事が判明しました。
そうしたら何と、数億の値段がついてしまいました。
ではこの場合、金額はどっちが正しいのでしょうか?」
統括部長がまた、勿体つけた変な事言い出した。
「何か企んでるのはすぐに分かりました。
何をすんですか? 俺には何をやらせる気なんですか?
さっさと喋って下さい。どうせ選択の余地は無いんでしょ?」
「そんな夢の無い事を言わずに、会話を楽しんでも良いんじゃないでしょうか?」
「…すみませんが、俺も親父とは別な意味で、面倒事は嫌いなんです。
自己陶酔したオッサンの戯言なんて面倒臭いものに関わる気は無いんです」
「君、毒舌だね…」
「はい、さっさと本題を話して下さいな」
1943年のガダルカナル島に繋がる謎の「門」。
それがうちのコンビニに前に開いたものだから、俺は何かと巻き込まれてばっかり。
巻き込む元凶がこの統括部長なんだが、「門」に関わる事になったきっかけを知ったばかりに、
あまり強く「さっさとお払い箱にして下さい」とも言えなくなった…。
「じゃあ、率直に言うね。
この度一部の他の店も巻き込んで、10円くじの販売を行います!!」
「はい…」
「この10円くじを、日本軍の皆さんにひいて貰おうと思ってます!」
「この前の鶏の足よりはまだマシかと思いますが、どうせ裏があるんでしょ?」
「当然です。これは『足2号作戦』なんですから」
「どこにアクセスしたか、足跡を掴む作戦、ってのが本題でしたっけ。
で、表向きの『今回特売で大安売り~、大特価!!』って方はどうすんです?
七草粥でも送るんですか?」
「さっきの絵の話を思い出してみよう!
ピカソの絵でも、その金額が設定されていない内に買ったのなら、2000円が正当な金額なんです」
「すんません。何言ってるか分からないっす」
「つまり、10円のくじは10円の価値しか無いんですよ。
その当たりで交換する景品も、10円の価値しか無いって事です」
「10円くじで一等賞を出したら、フェラーリが当たったとか、そんな感じのですか?」
「いい線いってる。というか、ほぼ当たり!!」
このおっさん、悲惨な最初の「門」に関わってる割に、この状況で遊んでる気がするが、
気のせいだろうか? 絶対気のせいじゃないように思うんだが…。
景品リストを見せてもらった。
・特等賞:小型船舶
・1等賞:カーナビセット
・2等賞:ドローン
・3等賞:高級オペラグラス
・4等賞:1万円相当の商品券
・5等賞:花火詰め合わせセット
・6等賞:お好きなヨーグルト
・参加賞:ティッシュペーパー
一部オチが見えてるけど、くじの景品としては妥当な感じかな。
…船舶って…、数百万円で買えたかな?
射幸性がどうこう、博打になるとかそんなのは大丈夫かな?
「だ~いじょ~おぶ、むぁ~かせて~。
何の為に警察が仲間についてると思ってるの。
訴えがあっても握り潰す態勢は万全だよ!」
というわけで、うちの店にくじ引きBOXがやって来た。
景品も大量に持って来た。
見たけど…頭痛い…。
あれをアレと強弁するか?
キャンペーンは5日間限りだそうだが、初日でダメになりそうな気がする。
そして「門」が開いた。
既に話はついていたそうで、兵士が軍票を持って、「門」前に臨時設置された
くじ引きコーナーにやって来る。
「10円の軍票は、わざわざ本物を持って来たそうです」
自衛官が教えてくれた。
そして食事してる横で、3人の物資補給担当がくじ引きに並ぶ。
…2000円という制限があり、その範囲内であーだこーだ知恵を絞っていた時が懐かしい。
裏技も使い過ぎると、萎えるわ。
チリーンチリーンチリーン!
「おめでとうございます! 5等、花火詰め合わせです」
言ってて自分にツッコミ入れたくなって来た。
(これのどこが花火だよ!)
かわいいがでかいパッケージに入った、対空ミサイル、対戦車ミサイル、迫撃砲…。
これで上がるのは「汚ねえ花火」じゃないのか!!??
「門」は………
流石に通さなかった。当たり前だな!
むしろ「門」作った人間に同情しちゃうよ、ここまで来れば。
でも俺にはまだ仕事がある。
「では、代わりの花火詰め合わせです」
(確かに見た目はロケット花火だけどさ?)
でっかい段ボール紙で包まれた火薬の筒の上に、
パンツァーなんとかって弾頭が乗っかってるんだが?
「門」は………
これも通さなかった。やっぱりな!
流石にナメ過ぎてるわ。
ただ、この場合のマニュアルでは…
「…通らなかった場合、花火を外して、推進部だけ持っていって下さい。
花火の方は後程、仏舎利で輸送します」
だと??
やってみたら…
これも通さなかった。そうだろうね。火薬系はダメだと思う!
とりあえず、「何回か試したら、一回は連絡して」と言われた指定の電話番号にかけてみた。
『副店長さん? おは~』
「その声は賀名生さんっすね? おは~じゃないです。
えーと、ロケット兵器の詰め合わせは成功しませんでした。
ロケット花火風のロケット弾もダメでした。
火薬系はダメなんじゃないですかね」
『なーるほどねー。ちょっと待ってて、掛け直す』
数分後、折り返しの電話。
『副店長ちゃん? 君のとこの本部のサーバセンターには、3回目アクセスがあった。
そんで、用意してたページにやはり誘導されたよ』
「こっちから追加の報告です。
1等賞、カーナビ出ました、背面追突防止レーダー付きで……。
……あれって、ガワだけ騙してますけど、中身完全に別物ですよね?」
『通ったの?』
「あれは通っちゃいました。いいのかなあ?」
『そですか。じゃあ、また確認してみる~。
とりあえず今のとこ通らないのは、武器だけか…』
「武器かどうか、どうやって調べてるんですかね?」
『ジェーン年鑑っていう総合兵器カタログがあるから、多分それ』
「じゃあ、誤魔化しは効かないわけですね」
『武器に関してはそうかもしれない。
でもさっきのカーナビは通ったんでしょ?
他の抜け穴はあると思うよ。
こっちも調べるんで。じゃね!』
武器に関して、やはり抜け穴はあった。
迫撃砲の発射筒だけなら通った。
「発射筒は単なる、とは言いませんが金属筒に過ぎません。
あれは砲弾の方が本体ですから」
とは言われたが、”そのまま”ではダメで、見た目は大きく変えた。
つまり「現地改造して元に戻せば、迫撃砲弾を発射できる金属の筒」を
「打ち上げ花火」として「くじ引き景品:10円相当」とデータ登録した事で
「門」は通してしまった。
大丈夫か、この「門」………。
3等賞も出た。
高級オペラグラスって、おい!これどう見ても暗視装置じゃないか、双眼式の!
ヘルメットに装着するタイプだってのは、うちの近くがサバゲー会場なせいで知ってる。
夜間イベントの時の必需品だって。
そして…
「門」通ったよ………。
電話してみたら
『それは吉報。いけないかもしれないって思ってた。
サーバセンターだけでなく、他にもアクセスが無いか調べてる最中なんで、切るね』
とか言って電話切られた…。
そうこうしてる内に…
チリーンチリーンチリーンチリーンチリーンチリーン!
「特等賞 小型船舶出ました!!!」
…って、これは逆の意味で詐欺だな。
船舶ってバスフィッシングに使う感じの小型手漕ぎボートの事ね。
これは定価は…ああ、3万円くらいか。
「…副店長…、それは多分間違ってます」
「もっと高いの?」
「ボートにくっついてる装備が問題です」
「あー、なんか色々くっついてるね」
「魚群探知機とソナーです」
「魚釣るには必要だもんね」
「魚ならいいんですけどね」
「何があるの?」
「あの時代の潜水艦なら、探知出来てしまいますよ。
なんせ鯨と間違えて某国の潜水艦を漁船が追い回した事もあるそうですから」
「それって現代の話?」
「現代です。某隣国は軍事用ソナーの代わりに魚群探知機積んで誤魔化してました」
「そんなに性能いいんだ?」
「流石に『現代の』アメリカ軍相手には通用しませんが、昔のならば…」
現代の潜水艦は、釣り用の深度より遙に深いところを高速移動する為、
魚群探知機の適用範囲外で映らないが、1943年当時ならば深度90m、水中速力9ノットで、
全速走行ならともかく、巡航時の2ノットや潜望鏡深度なら探知出来るだろう、と。
「というか、探知出来る性能のを渡すんだと思います」
「なるほど」
「あと、船舶用レーダーも積んでます。釣りで使ったら、重くて沈むんじゃないですかね」
「そんなに重いの?」
「レーダーだけなら軽いんですが、この一式全部だと明らかに過剰搭載です。
絶対、あっちに持っていってから、ソナーとかだけバラして使う気ですよ」
そして「門」は…
通してしまいやがった……。
なにこのザル?
「門」を開いた連中は、本当にくじの10円であんな商品が行くと思ってるのか??
(後で賀名生さんの解釈を聞くに
『機械に頼り切ってればあり得る。機械は”チェックロジックがOKと言ってるからOKだ”
ってとこがあるんで。そこを補うのが人間だけど、人間が関わる限り
セキュリティホールは発生する』だそうで)
うちに持って来たくじは、統括部長が言うには
「特等と1等、2等、3等そして5等しか入ってないからね」
だそうで…。
100%現代の装備渡す気だな…。
いつまで大丈夫だろうか?
(続く)
感想ありがとうございます。
ラストスパートに入ります。
今、この人たちがやってるのは、セキュリティホールを衝いて、
そこにガンガンリクエストを送信する方法なんですが、
可能なら「大量にパケットを送って、機械を麻痺させられないかな?」という
DDoS攻撃というのもやろうとしてます。
あるいは不可解なデータ送ってロジックを混乱させるか。
なもので、かなり無茶な物を送ろうとし、そのせいかこの回では穴が酷い事になってますが、
次話までご容赦願います。
次話では流石にザルを何者かも修正しますので。




