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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第8章:過去に開いた「門」の話
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最初の「門」の話

2011年8月8日 千葉県某自衛隊基地周辺:

「いらっしゃいま…」

統括部長、当時のそのコンビニのマネージャー(直営店の派遣店長)は息を飲んだ。

異様な風体の男が入って来たからだ。

(まずいな)

そう思って、いつでも警察に通報出来るよう身構えた。

「おい、貴様!」

「何でしょうか?」

「ここは一体何だ?」

「はい、こちらは〇〇ストア××支店ですが?」

「××? 千葉県のか?」

「はい」

「嘘をつくな!」

「いや、嘘ではないです。あの、お客様は?」

「俺は呉から来た」

「呉って広島県の?」

「そうだ」

「遠いところわざわざ…」

「そんな訳あるか! 呉から広島に落とされた新型爆弾の調査と、市民の救助に来たのだ」

「はぁぁぁ??」

「貴様、知らんのか? 広島に米国の新型爆弾が落とされ、多くの死者が出たのだぞ?」

「原爆の事ですか?」

「そうそう、原子爆弾とか上の方で言っていた」

「はあ…」

「俺はその爆弾の被害調査と救助の為に広島入りしたのに、ここに来た」

「はあ…………」

「気の抜けた返事は何だ!! シャキッとせんか、若造が!」

「原爆って、60年以上も前の話ですよね。今日、一体何を言ってるのですか?」

「何だと貴様!」

「いや、そこの新聞見て下さいよ。今は西暦2011年ですよ。昭和は終わったんですよ」

「貴様こそ一体何を言っているんだ?」

「いいから、そこの新聞読んで下さい。あ、110円になります」

「110円だと! ぼったくりもいいとこではないか!」

(うわ、マジモンかよ…)

マネージャーは本気で関わり合いたくなくなったそうだ。

面倒臭い客が来た、金もきっと持ってないぞ、迷惑だからお引き取り願おう、と。

そして、無音で警察に通報するボタンを押した。


汚れた半袖の軍服を着た日本兵は、新聞を読んでいて、

「平成とは…、今の陛下はどなただ?」

と質問して来た。

「昭和天皇の皇太子殿下だった方ですよ」

「陛下はどうされた?」

「昭和は64年で終わりました。昭和天皇は八十何歳かで崩御されましたよ」

「なんと! では、我が国は、昭和はそんなに長く続くって事か!

 国体は護持されたのだな! 作り話としても愉快だ」

そう言うと、兵士は床に座り込んだ。

「ちょっと、お客様!」

「うるさい、疲れたのだ。少し休ませろ…」

そう言うと、そのまま横になった。


(やれやれ…)


しばらくして警察が裏口から入って来た。

『どうされましたか?』

『不審な入店です』

『どこにいますか?』

『あそこで寝てます』


警察が接近していった。

「すみません、この人死んでますよ」

「えっっっっ!!!!」


マネージャーは本部に連絡を入れ、交代を要請し店番を代わると、そのまま警察に同行した。

明らかに変な事を言っていた、そう伝えた。

搬送された警察病院で司法解剖がなされた。

出た結果は「急性放射線症候群、短期間に大量の放射線を浴びた事による死」だった。

2011年の警察は別の可能性を考えた。

身元を示す物を探し、この人が福島原子力発電所の近くにいなかったか、捜査をした。

だが、すぐにその線は消えた。

原発事故と核兵器、特に技術が未熟だった広島型原爆では違いがあるそうだ。

放射線絡みということと、持ち物から自衛隊にも確認要望が出た。

持ち物には確かに、大日本帝国陸軍衛生兵の身分証明書と、昭和二十年八月時点の辞令、

観察した様々な事が書かれた手帳があった為、悪戯(いたずら)にしては手が込み過ぎている、となった。

そして、ある政治家先生に連絡がいった。


「私の兄さんです」

その政治家先生は、死んだ日本兵の顔を見て、確かにそう言った。

自分は養子に入ったから苗字が違うが、確かにこの人は年の離れた兄である、

兄は呉にいたが、原爆が投下されて、調査の為に広島に行ったまま消息を断った、と。

市内を流れる川の中に、兄の遺物が沈んでいたことから、

川で倒れてそのまま流されてしまったのだろう、と説明されたそうだった。

「まさかこんな形で再会出来るなんて、思ってもいなかった…」

政治家先生は泣いていた。


本物の日本兵が1945年の広島から現れた、この事は秘密とされた。

警察と自衛隊共同で調査をしたところ、軍靴の痕から笹山のとこにある洞窟から

出て来たことがほぼ確実となった。

ガイガーカウンターで測定しても、残留放射線がその洞窟を示していた。

だが、そこは至って普通の洞窟であった。

他の日本兵、または日本人が出て来る事も、こちらから行く事も出来なかった。

科学的な調査が必要かもしれない。

そう考えた警察では、一部の研究機関に協力を要請する。

政治家先生は、この人は反核武装・平和主義のハト派で親中反米だった。

当時の政権与党にいた。

この謎の洞窟の話を、半信半疑ながら時の総理大臣に報告した。

「何を言ってるんだね、貴方は!」

総理大臣はイラついた声でそう言った。

「そんなSFじみた話がある訳ないじゃないですか」

「ですが、実際に私の兄がこの時代に現れたのです」

「地震の後始末で疲れているんでしょ。帰って休んで下さい」

「総理、話を聞いて…」

「帰って休むように言ってるんです、僕は!!」

そう言って追い返された。

しばらく、空論的平和主義者と言われたその政治家先生は、珍しいと言われる程

防衛省に行って証拠を貰い、総理大臣や官房長官を説得しようとした。

「貴方ねえ、今は忙しいんですよ。早く原発については沈静化が必要なんです。

 そんな問題に関わってる暇はありません」

「ですが、同じ日本人ではないですか。もしかしたら被爆者を救えるかも…」

「本気でそんな事言ってるんですか?

 いや、万に一つ本当だったとしましょう。

 今の我々の技術で原爆の被害者を全員救うなんて不可能です」

「全員等と言っていません。救えるだけでも」

「じゃあ、次の方が来た時に考えましょう。

 先生のお兄様とやらも、確認したのは先生と警察だけですよね。

 僕は信じる事が出来ません」


そのまま総理大臣に押し切られそうになった。

だが、8月11日、夏季休暇直前。

「あ、先生ですか? その節はお世話になりました。

 来ました! 今度は女の子です。

 今、警察が病院に運んでいきました。

 その前に警察が話を聞いたところ、水を求めて歩いていたら、川岸のとこに穴があり、

 そこに入ったら例の洞窟から出てここに来た、って事でした」

政治家先生はその報を聞くと、急いで総理大臣に面会を申し出た。

総理大臣は相変わらず聞く耳を持たなかった。

だが、自衛隊の持って来た証拠となる紙を見た瞬間、血相を変えた。

「すぐに爆破しろ! この道は塞ぐんだ!」

「どういう事ですか?」

「見なさい、この放射線の数値を。ホットスポットなんてものじゃないですよ。

 今、首都圏に放射線を入れるわけにはいきません。

 残酷と言われようが、僕が守るのは今の日本です。

 放射線源は元から断ちます」

「総理!」

「総理大臣は僕です! 総理大臣権限です。極秘裏にその洞窟を崩しなさい!」


こうしてその洞窟はろくな調査もしないまま破壊された。

1945年8月の広島から避難民が来たという事は、極秘事項とされた。

避難して来た女の子は、放射線症の治療を受けたが、数週間後に死亡した。

この件に関係した者は、一様に無力感を持った。


しばらくしてマネージャーは本部内勤に変わった。

元々が幹部の方で採用されていた為、地方店のマネージャーは研修の一環であり、

予定通りに本部勤務に変わっただけだ。

だが彼は、そこの会社のもっと大本、〇〇ホールディングスの会長室に呼び出された。

(何か拙い事したかな?

 この前の謎の洞窟の件で「余計な事に首突っ込むな」って怒られるのかな)

そうビクビクしながら会長室に入る。

「千葉では大変だったそうだね」

(やはりその話か!)

緊張した彼に会長は意外な事を言い出した。

「僕ね、出身は福岡なんだけどね、その前は長崎に居たんですよ」

「はっ?」

(長崎?まさか?)

「家族は引っ越しで福岡に移ったんだけど、一番上の兄がね、長崎の造船所に就職したから、

 その兄だけは残ったんですよ、1945年8月9日のあの日まで…」

「はあ…………」

「助からなかったとはいえ、広島から来た人によくしてくれました。

 似た境遇にある者として礼を言います。ありがとう」

「いえ、自分なんか本当に何も出来ませんでした、本当に…」

「それでなんだが、君に内密の命令がある」

「はい」

「もう無いかもしれない。でも、また起こるかもしれない。

 もしもまた、不思議な通路が出来た時は、最初の関係者として協力してあげて下さい」

「はい??」

「僕もね、救えなかった事が残念でなりません。君もそうでしょ?

 だから君に僕の分もお願いします。

 何かあったらそちらも協力して下さい。

 うちの物資を使う事を許可します」

「でももう開かないかもしれませんよね」

「それならそれで結構です。万が一の保険です。

 いえ、僕の気持ちの問題です。どうか引き受けて下さい」

「分かりました。もう何も起きない事を願って、拝命いたします」

こうして最初の「門」については収束していった。

数年、「門」は再び現れなかった。

(続く)

新章です。

鬱展開です。

皆さん大好きな辻―ンは当分出て来ませんので。

19時にも更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりあのハト共・・・・ あいつらは大日本帝国を先祖と思っていないんだ、だから拒絶した。 それに対してあの方はホント立派だな、少しでも助けようとしてくれた、大日本帝国を先祖と見てくれてい…
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