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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第7章:U・S・A!
47/81

大日本帝国の逆襲

1943年1月2日23時 ガダルカナル島「門」付近

「報告! 『門』周辺の陣地を守るのはおよそ2個小隊。病院に1個小隊と陣地に1個小隊。

 ただし随分と多く歩哨が出ている為、奇襲は困難」

「ご苦労」

辻政信直卒の489名の兵は、空襲は受けたが占領はされていない、

「門」付近の別陣地で息を潜めていた。

周辺を見ても、陣は破壊されてはいたが占領部隊はいなかった。

「どう思う?」

辻は、今から攻める一帯に布陣していた部隊の中隊長に質問した。

「例の洞窟に近い陣地は、持ち込んだ物資の量も多く、

 野戦陣地としては強固かつ快適に作られていました。

 野戦病院も同様ですので、米軍はそこに駐屯したのでしょう」

辻はしばし考える。

(この攻撃は、「門」付近の重要性を敵に教えてしまうのではないか?)

もしも米軍が「ここは重要拠点だ」と分かったならば、この地は絶えず空襲に晒される。

さらには奪取作戦を立案され、今度は戦車を含む大軍で落とされるかもしれない。

「奪還」しつつ、「再奪取」する価値を教えない戦術を考える必要があった。

「無人偵察機はあと何機飛べるか?」

「あと2機であります」

「では島村曹長、市岡曹長、それぞれが飛ばしてこの辺りの米軍の様子を広域で偵察せよ」

「これでもう使用出来なくなりますが、よろしいですね?」

「『門』を奪取出来ねば、結局は同じ事だ。今晩で使い切るよう!」


仏舎利輸送という不便な方法で持ち込まれたドローンは、小型でかつネット回線を使わず、

直接画像を送信して来る機種であった。

小型でレンズやセンサーのサイズも小さく、暗いと感度を上げるが、画像は荒くなる。

それでも無いより余程マシである。

「参謀殿、この河辺に米軍の輸送車が多数停まっております」

そこは以前、クリスマス休戦においてケーキやチキンを受け渡しした場所であった。

数台の幌つきトラックが停まっていて、近くには軽戦車も見えた。

「よし、ここだ。砲兵はおるか?」

「後方に十加(九二式十糎加農砲)が1門あります」

「そこに言って、砲撃をさせろ。目標は敵補給車集結地点」

「ですが、彼等からその場所は見えません。射程距離もギリギリのとこです」

「無線は繋がるのだな?」

「少々お待ち下さい。はい、砲兵部隊出ました、いけます」

「無人偵察機は1機ずつ投入。着弾観測をして砲兵部隊に伝えろ」


十加(ジッカ)こと九二式十糎加農砲はアメリカからは「ピストル・ビート」と呼ばれた長射程砲である。

威力は大きくないが、日本の野戦重砲では最大の射程距離をもって、このガダルカナル島では

散発的にヘンダーソン飛行場を砲撃し、「嫌がらせ」を行っていた。

第三次総攻撃においても、徹底的に偽装した砲兵陣地から、

辻の切り札「電撃戦部隊」の支援をしていた。

米軍の逆襲に遭っても、偽装陣地の巧みさから、上手く退避したり、そのまま隠れ切ったりした。

その砲が火を噴いた。


-------------------------






20XY年1月3日3時 東京某所:

「ではマイク・T・トッド陸軍軍曹、貴官には帰還していただきます」

軍曹は本当に拷問や暴力も無く、ご馳走され、観光案内をされ、野球(メジャーリーグ)を見せられて解放という

不思議な自身の置かれた状態に困惑していたが、帰れるのならばそれで良かった。

敬礼を返すと、促されるままに「(ケイヴ)」の方に向かった。

『お土産持たせなくて良いんですか?』

『こっちの時代の物に触れていると、記憶が戻ったり、忘れ切れなかったりするらしいぞ』

『そうなんですね。いつも通りお土産付きで帰す、

 アメリカさん相手だから制限は20ドルかな?とか思って』

「そこ、私語厳禁」


問題無くトッド軍曹は「門」に入り、そして消えていった。

「爆破用意!」

自衛隊で予め仕掛けてあった「門」封鎖用の火薬に、点火スイッチが接続された。

しかし、しばらく実行は待つ羽目になる。

「爆破しばらく中止。『門』前コンビニに長距離トラックが入りました。

 2台入っています。運転手1名、外でタバコを吸っています」

「点火中止! 一般人退避までしばらく待機」






-------------------------


トッド軍曹は「門」を出て、ボーっとなった。

「俺は、何でこんなとこにいるのだ?」

しばらく考えて

「そうだ!ジャップの残兵を探していたんだった。

 あれ? 俺の銃はどこにいった? ナイフも手榴弾も無いぞ」

体に手を当ててあたふたしていると、そこに爆発音が響く。

軍靴の音がする為、彼も走ってそちらに向かう。

「マイク! お前一体どこに行っていた?」

「いや、そこの洞窟のとこに居たんだが?」

「丸一日もか?」

「はっ? 俺はさっき行ったばかりだぞ。何を言ってるんだ?

 それより俺の銃を知らないか? 無くなった」

「おいおい、マイクの野郎、頭でも打ったらしいぞ。丸一日記憶が飛んでやがる」

兵たちは集合を終えた。

小隊長がそれを確認すると

「トッド軍曹よく戻った。詳しい話は後で聞く。

 諸君! ジャップがトラックターミナルを攻撃して来た。

 川を隔てたこちら側は、今はさほど重要な場所(ポイント)ではない。

 補給線(サプライ)が伸び切っているからだ。

 トラックを守りつつ、元の野営地(キャンプ)まで後退する」

了解(アイサー)

米兵たちは機敏に動き、陣地から離れていった。

「おらよ、お前の銃だ」

「サンキュー」

「もうちょっと出て来るのが遅れたら、お前置いて行かれるとこだったぞ」



米軍の残兵狩(モンキーハント)は、深入りし過ぎていて日本軍の反撃に遭う可能性を考えられていた。

一旦態勢を立て直す為に、突出し過ぎた地点は放棄してエアカバーの効く場所まで後退し、

補給と休養の後に改めて作戦を立ててバランスよく攻撃する事に決まった。

日本軍の砲撃はタイミングがたまたま合ったに過ぎない。

だが、この男にとっては違った。

「見よ! 米軍が引き返していくぞ。吾輩の策が当たったのだ!」

兵士たちの目にわずかながらも彼の指揮への信頼が戻って来た。

「よし、藪蛇になったら元も子もない。吶喊せず、静かに、元の陣地を再奪取せよ」

「はっ!」

「誰か3人、『門』に飛び込み現地を確保せよ。

 あの『門』は3人以上同時には入れない。

 3人が確保し続けていれば敵も入り込む事が出来なくなる」

「はっ!」

暗闇の中、無音で日本軍が動く。

もぬけの殻となった米軍の居たかつての自陣を奪取成功した。

…万歳の大声も上げないようにして。


-------------------------






「コンビニ前、トラックの様子は?」

「1台出発しました。もう1台、運転手が座席で寝ています。しばらく出ていく気配ありません」

「どう思う? 寝ているなら発破に気付かれることもないか」

それに答えようとした時、

「『門』に反応。誰かが来ます」

と警報が出た。

トッド軍曹が戻って来たか、別の米兵が来たか。

発破が遅れたのは残念だが、出て来る者を巻き込む気はない。

警戒して見ていたら、日本兵が3人出て来た。


3人の日本兵は、無事に「未来」に来られたせいか、ホっとして座り込んだ。

「米軍はどうした?」と聞こうとした者を抑え、この地の責任者が質問した。

「明けましておめでとうございます。

 昨年末から姿を見せないので、あの鶏の足や洋菓子で怒ってしまったのか、

 我々は気にしていました。

 一体如何されたのでしょうか?」

そう呑気に言われ、最初ポカンとしていたが兵たちだが、

安心して気が緩んだのか、味方である彼等に色々と聞いてもいない事まで話し始めた。


なんだ、この地には総攻撃の話は伝わっていなかったのか?

後退して第二陣地を構築している部隊を除き、動ける全軍で総攻撃をかけた。

流石は辻参謀の作戦で、途中までは上手くいっていた。

明け方、敵の空襲を受けて我々は総崩れとなってしまった。

この洞窟も一時放棄したが、ここ無しでは我々は撤退の日まで生きられない。

今度こそ撤退まで生き抜く為に、決死隊を募ってこの洞窟奪還に出た。

敵の補給を断つ形で攻撃したら、米兵めは逃げていった。

我々は無傷で奪取に成功した。

3人同時に洞窟に入れば、敵は使用出来ないから、明日まで我々はここを守る。

食糧も医薬品も武器も不足しているから、補給を要請する。

貴官たちから貰った無人偵察機や写真機は電力切れで動かなくなった。

等等。


報告は直ちに会議に送られた。

改めて会議の方からも「爆破中止」という指示が入った。

引き続き「門」は日本軍への補給に使用される事になる。

動かなくなった機械は、単に電池が切れただけだから、現代に持ち込んで充電すれば良い。


問題なのは、今までと同じ姿勢で彼等、いや辻政信に接して良いものかどうかだった。

精一杯親切に振る舞い、刺激する事は言わなかった筈だが、彼は現代文明の産物を見て、

それを使った史実に無い第三次総攻撃を行った。

彼はどうやら歴史を変えてしまう。

一方で、現代の日本人が助けた命は多数に上ったが、

どうもその過半は今回の第三次総攻撃で戦死してしまったようだ。

彼は歴史を元の形に戻す役割も負っているのか?

今後、辻政信というのを一体どう扱ったら良いものなのか?

(むしろ、日本兵が来る前に、気づかない内に爆破していた方が楽だったかもしれない)




翌1月4日、暦の上では仕事初め。

その晩も深夜から俺は勤務を始めた。

俺のコンビニに賀名生さんがやって来た。

「明日、今回の米兵出現騒動、その原因となった日本軍の行動に対し、

 どうするかって会議が開かれる」

「へえー、大変ですね」

「君も来てよ」

「嫌ですよ。第一、出席するようにって通知は来てませんよ」

「それは僕の方でどうにかする。

 僕は、いや前田警部とも話したんだけど、君に来て欲しいと思ってる」

「どうしてですか? 門外漢もいいとこでしょ」

「だから」

「だから?」

「門外漢だからいいの。どうも会議の連中、思考硬直に陥ってる。

 外部から刺激与えないと、堂々巡りでまた方法論と原則論のぶつけ合いになり、

 根本的な事が何も言えずに時間だけ過ぎて終わるだろう」

「言い回しがくどくて、何言ってるか分かんない」

「要は、煮詰まって不毛な会議になりそうだから、考えが全く違う人ぶっこみたいの!」

「考えが違うって言っても、俺は具体的に何も知らないですよ」

「だから良い。前も言ったけど、正解が何か分からない時は私情でもぶつけなよ」


「副店長、出席なさって下さい」

口を挟んで来たのは野村さんだった。

「私たち現場も知る権利があります。ですが、出席権限が無いので、そういう要望は

 上司を通し、また上司を通しと手続きの連鎖になります。

 現場も詳しい方針や、今掴んでいる情報の全てを知りたいのです。

 現場の代表として、是非とも出席をお願いします」

嗚呼、面倒事が年明け早々のしかかって来た…。

(続く)

感想ありがとうございます。

辻に好き勝手させてる日本陸軍のアレっぷりについては、

詳しくは書かないものの、その内出て来ますので(東條と杉山元)。


小ネタはタイトルから「大日本」を抜けば、某映画エピソード5なりますね。

全力で戦って奪い返す事を考えたんですが…無理でした。

そこで、最初から撤退予定になってた、辻ーンはそれに乗っかった形、

それでもここで勝った感じにしておかないと、兵士が今度こそ愛想尽かすと思い、こんな形にしました。

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