休暇は終わったようだ
1942年12月26日正午 ガダルカナル島:
「諸君、十分食ったか?」
辻政信が司令官気取りで、第17軍司令部で叫んでいた。
「クリスマス休戦はあと12時間で終わる。
それまでに各部隊、米陣地に肉薄せよ」
「辻中佐殿、腕が鳴りますな!」
司令部は活気に満ちていた。
「十分な休養、十分とは言えないが何とか戦える武器の補充、戦車の燃料の復活、
新兵器である無人偵察機による情報、今度こそ一泡吹かせてみせるわ!」
「やりましょう!」
「凱旋しましょうぞ!」
取り巻きたちの歓声で辻の気分は良くなっていった。
「ではかねてよりの計画通り、
5個梯団、各2000名の進軍を命じる!!
良いか!正月までには戦果を挙げ、気持ち良く新年を迎えるぞ!」
…5個梯団、各2000名…。
辻は20XX年の日本人にも、ブーゲンビル島エレベンタに移った第17軍司令部にも、
大本営にも「2000人規模の戦闘単位で、撤退を前提として攻勢」と説明していた。
(2000人の部隊を1個だけとか総勢2000人などと言った覚えはないわい)
そう嘯いていた。
かつて百武第17軍司令に提示した作戦案は
「これは全島奪還用の作戦ではないか?」
とツッコミ入れられていたが、
『そうですよ、その計画書通りに実行するのですよ。
可能ならやると、言葉は違いますがそう言ったでしょう』
そのように開き直っていた。
また彼は、後退時の支援火器として未来の日本人にねだった小銃擲弾を、
攻撃部隊に大量に持たせていた。
一方で10月の第二次総攻撃の失敗を糧に、正面からの攻撃ではなく迂回攻撃を企図した。
…本来これは川口清健少将が主張し、辻と対立した攻撃方法である。
川口支隊長はこの対立から更迭されたのだが、辻はその攻撃案を丸パクリした。
(使えるなら誰の作戦だろうと構わんわい)
夜陰に紛れコソコソ隠れたゲリラ戦ではなく、急襲による全面攻勢をしかける、
その際は短機関銃と小銃擲弾を乱射して敵陣を混乱させ、
少数の部隊を広域で浸透させて敵陣背後に突き進み、
集積基地や揚陸中の物資を焼き払い、
後は密林の中に消え去るように逃げ込む。
敵そのものを撃破するのが難しいのは第二次総攻撃で分かった。
ならば、我々同様に敵も飢えさせてやれば良い。
それが史実には無い第三次総攻撃の骨子だった。
辻は自信に満ちていた。
彼は未来の「目」を以て敵陣を観察している、地形を把握出来た、そう思っていた。
だが彼は、日本軍もまた見られているという、簡単な事実を忘れてしまっていた。
最新の技術でも、精鋭の目でもない、米軍に協力した原住民の目が日本軍の進撃を捉えた。
現代世界で自衛隊が「成功間違い無し」と見たのは、
総勢2000名から半数を撤退時の防衛部隊とし、奇襲攻撃はせいぜい20人規模の部隊に分けて
深夜にのみ行動させ、ゲリラコマンドとして接敵を避けながら後方のみを狙う戦術であった。
…真昼間に1万を超える軍や、戦車が移動したら当然察知される。
また、クリスマス休戦明けという「いかにも」な日を選ぶとは思わなかった。
(史実の撤退が行われる2月の前、1月中旬を予想)
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「やはり日本軍は休戦を守る気はなく、軍を動かしています」
「そうだろうと思った。ジャップめ、相変わらず姑息な奇襲攻撃が好きと見える」
第25歩兵師団長コリンズ少将は予想通り過ぎる日本軍の行動に、半分呆れてそう言った。
「まあ、クリスマス休戦は中々センスがあった。それだけは褒めておく。
だが、あれは我々に余計な情報を与えたな」
「はい。日本軍があんな良い食事をしていたと分かった以上、
攻撃して来る余力は十分にあると予想できました」
「それとMIS(情報部)は、日本軍の癖である『祭日に合わせた攻撃』から、
元旦に勝利を収めるべく、逆算して今日か明日の攻勢を予測していました」
日本軍は天長節や陸軍記念日等の節目に戦果を出したがる癖があり、
連合軍は間近な記念日から逆算して、攻撃を予測していた。
「さて、我々はどう動くか。諸君たちの意見を聞きたい」
「迎え撃つだけです。打って出て先手を打つ事には反対です」
「理由を述べよ」
「12月に入ってからよく見かけるUFOです」
この場合のUFOは軍事用語の『Unidentified Flying Object(未確認飛行物体)』の事であり、
宇宙からの来訪者ではない。
「あのUFOは日本軍の偵察機と考えられます。
どうやってあんな物を作ったのか、そんな技術を連中が持っていたのか疑問ですが、
小さ過ぎて撃ち落とす事も困難なUFOが上空にある時、
我が軍は先手を打たれて撃退されています。
今回も動くと、あのUFOに察知されるでしょう」
「うむ…。待ち伏せがベターだな。
ところで、あのUFOを捕獲出来ないものかな。
ジャップが作れるのなら、合衆国でも作れないことは無いだろう」
「余裕があればやってみましょう」
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未来世界からの補給は、意外な部分で日本兵を弱体化させていた。
快適過ぎたのだ。
それが半月も続くと、守る時はまだしも、攻撃においては問題となった。
彼等は10月の第二次総攻撃、11月の第38師団による強襲と、負け続けた兵士だった。
敵の小部隊を察知し、先手を打って撃退したり、史実より余程強固な退避壕に逃げ込み、
空襲から身を守るという軍事行動においては目立たなかった。
だが、敵陣に突入となると、かつての弾丸の嵐がフラッシュバックした。
口で威勢の良い事を言ってみても、小銃を担いで進軍をすると、恐怖が蘇って来た。
5個梯団1万の部隊は、戦闘開始前に1割以上の脱走を出していた…。
日本兵は既に死兵として戦えなくなっていた。
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コンビニに統括部長がやって来た。
俺は昼間は寝ていて、夕方から起き出して活動を始めてるのだが、
部長は16時頃には来店したそうだ。
…だからといって親父、起こさんでくれ…。
バックヤードで「足作戦」の真の目的を聞かされた。
「何者か」ってのが、もしかして音声で聞いてたり、
バーコードを読み取ったりしてるんじゃないか、
って事で「とぼけた理由」にして誤魔化していたってさ。
「じゃあ、その賀名生さんって人の提案通り、金額を誤魔化して、
箱で武器を大量輸送するって事に決まったんですか?
うちの店、お役御免ですか?」
「嬉しそうに言わない。
お店にも高額な協力費振り込まれているでしょ?」
「そう言えば、その協力費って税の申告の時、どう処理したらいいんですか?」
「今その話必要?? うん、本部から税理士出してあげるから、その時話をしよう。
法人税の前に、ガ島撤退作戦だ」
「それって、うちが手伝える事あるんでしょうか?」
「無い」
「じゃあ、やっぱりお役御免??」
「その金額誤魔化して大量輸送するの、ハッカーから『ハ号作戦』って名前になったんだけど、
いつ発動するか不明なんです」
「何ですか、それ…」
「ガ島の方には、今年は戦力を温存し、撤退作戦が本決まり…、
史実は12月31日のようなんだけど、それ以降で撤退を悟らせない陽動ってことで、
1月15日前後にその攻勢を行うよう伝えています。
なので、ハ号作戦はそれより前の1月10日頃で、さらにその前の
三賀日過ぎたらもう一回データ収集して微調整する。そんな感じ」
「クリスマスの時みたいに一ヶ月とか準備しないんですね」
「ずるずる続けると、僕たちが『何者か』の足跡を捉えたように、
あっちも僕たちのやってる事に気づく危険性がある。
だから、やる時は一気呵成にやって、終わったらもうやらない」
「ほおー」
「なので、それまでの間は今まで通り。
ご協力お願いしますって事です」
「はあー…」
「嫌がらない、嫌がらない。 あと1ヶ月ちょい頑張ろう!」
「そのハ号作戦ですか? 今回の足作戦で、何者か知らんがデータベースにアクセスして、
何年何月何時の妥当な金額ってのを把握してたって事ですけど、
ハ号作戦の時ももしかしてうちのレジ使うって事ですか?」
「その通り!」
「レジ打ったら、『大砲100円』とか出て来るんですか?」
「もうちょっと単純に『工具』とか『水道管補修パイプ』とかかな」
「それ、うちのレジでやる必要あるんですか?」
「多分ね、ある」
「どうしてですか?」
統括部長は声を潜めた。
「機密保守の誓約書にサインしたよね」
「見てましたよね?」
「これから言うのは、本当に秘密だよ」
「??」
「以前にも『門』は開いた事があるんだ。
その時も場所は、コンビニの近くだった。
そこに意図があると思わないか?」
「はえ?」
間抜けな驚きをしてしまった。
なに?前にも「門」があった??
「コンビニって高度にシステム化してるから、管理しやすいんだと思う。
自衛隊が直接出張って来て、物資の受け渡しをし始めたから、
金額検索も多数に渡って複雑化してるが、おそらく『門』を開けた奴は
コンビニで物資を受け渡しすればそれで良いくらいの考えだったんだろうね。
だから、この店のレジを通すクリスマス商品で罠を張ったら、あっさり足跡ついた。
気づいて別なやり方に変えるかもしれないけど、今は『門』の前のコンビニの
システムを連中もハッキングする形で、様子を見てるんだろう」
「その前に質問。
『門』が前にも有ったってどういう事ですか?
その時もこんな事やってたんですか?」
「…前の時は出来なかった。
前もね、やっぱり悲惨な時間に繋がったんだ。
何も分からない我々はその時『門』を塞いで、何もしなかった。
その後悔が今回の行動に繋がっている」
初耳過ぎる情報だった。
道理で、何も分かってない割に行動だけはやたら速いお役所仕事があったわけだ。
「その『門』は何回出来たんですか?」
「知ってる限り、今回で3回目。
いずれも太平洋戦争中の日本と繋がった。
悔しいよね、そうやって勝手に繋げられて、『さあ、何が出来るかな?』なんて
試されてるような感じで…」
そう言うと部長は黙った。
そしてまたとぼけたオヤジに戻って
「まあそういう訳だから、あと1ヶ月ちょっと、頑張りましょうね!」
と言って去っていった。
あと1ヶ月ちょい、史実なら来年の2月7日まで、何事もなく済むかな?
(部長「あ、正月はモチでも送りましょうよ」)
(…今度こそ米軍は受け取ってくれませんよ!)
(続く)
休暇は終わりました。
辻ーンの休暇も終わりました(笑)。
動き出します(笑)。
…この回書いて、「どう見ても軍法会議ものだな」と思ってます。
でも、史実じゃ東條他、あっち系の上の受けが良いから、責任取らされた事無いんですよね。
あと、2000人の元ネタ。
日清戦争前夜の話。
伊藤博文総理大臣「派兵してもいいけど、清国を刺激しない規模でね」
陸奥宗光外務大臣「陸軍は一個旅団と言ってます」
伊藤「一個旅団は大体二千人か。良いだろう。承認」
陸奥「という事なんで、戦時編制の混成一個旅団お願いね」
川上操六参謀本部次長「通常編制の歩兵旅団なら二千人ですが、戦時編制の混成旅団なら七千人ですから、上手く動かせましたな」
その結果、
明治天皇「この戦争は陸奥と川上が起こしたもので、朕は関わりない!」




