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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第6章:足作戦
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「足作戦」分析・その2:「門」を開けた者の分析

前田警部は、FBIに派遣され、そこでプロファイリングを学んだ。

だが、単なる愉快犯や自覚無しの幼稚な犯罪者、自己肥大ゆえに斜め上な思考の犯罪者について、

プロファイリングだけでは足りないと考え、休職して犯罪について学び直した経歴を持つ。

この前田警部と匿名(アノニマス)氏が出会ったのは、あるサイバー犯罪捜査であった。

事件は2つの要素があった。

これが犯罪という自覚が無いが、ハッキングにかけては天才的な少年がいた。

彼は証拠を残さないよう、場所を変えながらハッキングをして、しかし覗くだけで終えていた。

その彼が気づかぬ内に、彼のPCがウィルス感染をしていた。

そのウィルスは情報を抜き取るタイプで、かつランダムに感染するタイプのものであった。

情報の送信先が海外なのに、国内を拠点として常に足跡を残さず動き回り、

金銭に関わる情報を抜くウィルスが、金銭に関わらないゲーム開発サイト等に置かれる等、

秩序型とも無秩序型とも言えない、混合型ではあるがよく分からない犯罪があった。

プロのハッカーである匿名(アノニマス)氏が

「腕が良い、ただしゲーム感覚でハッキングする、おそらくは子供」が

「自分がウィルス感染してる事を知らずに動き回っている」事を予測した。

前田警部は「子供」「ゲーム感覚」等の情報から行動を予測し、そこで確保した。

その子供は、いたずらをしている自覚はあったが、自分が他人のいたずらの道具にされていた、

その自覚が無かった為に、確保後はひたすら混乱していた。

自分の行動に自分の予想していない作用が着いていた為、自分では自制して遊んでいた筈が、

思いもかけぬ影響を出してしまった事が信じられず、生意気な賢そうな子供だったのに

「何が何だか分からない」と狼狽えていた。

その事件の処理もひと段落し、2人は知己となった。



前田警部は、この「門」という謎の存在について依頼された時、正直面くらった。

信じられなかったからだ。

だが「『門』のメカニズムではなく、これを作ったのはどういう人か、プロファイリングの

分野からも分析して欲しい」という事で、渋々協力する羽目になった。

この頃には随分と「門」の抜け道が見つかっていた。

彼は「随分手抜かりの多い犯人だな」と感じた。

そして目的がはっきりしない。

もしも(本当に)1942年のガダルカナル島の日本軍を助けたいのなら、

何故20XX年の我々に任せるのだろう?

答えは「本人にそこまでの能力が無いから」だ、前田警部は確信する。

「時空を超える『門』を作れるのに、日本軍を助ける能力が無い」

これは「そういう機械を操作することは出来ても、肝心な物資を持っていない」

そういう人物なんだろうと予測した。

そして「やってみたはいいが、大きく歴史を変えられることを恐れる臆病者」とも見た。

賢い人物なら、そもそもこんな「門」を開けない。

どうしてもっていうなら、もっと緻密な設定にする。


物資とか武器とか用意出来ず、歴史を変え過ぎる事を恐れる臆病者。

それでも操作出来る物は、案外「彼」には身近な機械なのかもしれない。

時空を操作出来る機械、それを操作出来る。

時空を操作する機械、そもそもそれは何の為にある?

歴史を調べる? いや、リスクが大き過ぎる。

そうなると過去の物を直接出入りさせる機械は

「古生物、絶滅動物の調査に使うものではないか?」

と推測した。

そして、ある特定の条件の物のみ通過させる、通過を拒否する、この仕組みに彼は覚えがあった。

「ネットワークにおけるファイヤーウォール」

そうなると彼には、頼りになる男の心当たりがあった。




「すっげー偶然。僕もその案件に、別口で関わってたんすよ」

匿名(アノニマス)氏に飯を奢りながら、2人が「門」というものに共に関わっていた事を知る。

早速前田警部は「古生物捕獲機説」で「ファイヤーウォール説」を聞いてみた。

「正解かどうかは分かんないけど、その線で仮説立ててみるっすわ」

匿名(アノニマス)氏のネットワークの知識から出された仮設は以下の通りだった。


始点を1942年とする。

そこから現代にOUTする。

OUTしたパケットでないと、1942年に戻る為のINは出来ない。

ではパケットとは?

人間である。

「古生物転送機」とするなら、特定の種に絞り込む機能があったかもしれない。

対象動物「人間」に付随する物で無いと、OUTもINも出来ない。


そしてパケットをXML風に書くと

<人間A>

<所有物a>

<Year=20XX>

<Type="武器">

</Year>

</所有物a>

<所有物b>

<Year=20XX>

<Type="食糧">

</Year>

</所有物b>

<生命体A:A本人>

各種情報

</生命体A>

</人間A>


各要素に分解し、それが1942年の物か、20XX年の物かで通過フィルターが処理を行う。

調べたところ、1942年の物、つまりOUTした時に持って来たものは、ノーチェックでINされる。

同じようにノーチェックなのは、本人である。

本人の中に20XX年の物が含まれていても、チェック機能が働かない。



そこまで聞いて、会議の1人が質問した。

「だが、通過した1942年の人間は、現代の事を忘れてしまう。

 内部に対するチェックはやはり効いているのではないか?」

それに対する見解は、

「それ、忘れたのではなく、思い出せないようにされた、その違いっすね」

であった。

「????」な参加者に説明を加える。

「記憶って消せないもんだよ。

 でも『思い出すな』って命令を書き込む事は出来る。

 催眠術でもあるけど、その『思い出すな』という障壁を乗り越えれば、記憶は簡単に戻る。

 えーと、何とか曹長だっけ? 彼は現代で見たうちらの歴史の記憶を取り戻したんだって?

 だから、忘れてはいない、思い出さないよう書き加えられたんだろう」


「門」の分析に話を戻す。


古生物を捕獲する機械だとすると、以下の事が考えられた。

通過して来た生物に、我々でいうICタグのような物をつけたり、埋めたりして元の時代に戻す。

この時得られた情報については

「僕でさえ過去と通信出来たんだし、案外簡単に通信出来るんじゃないの?」

との事。

そして大きなタグは「歴史を変えかねないから、時間が来たら消滅するよう設定」と予想。

体内に埋め込む程度の小さいものは、化石化の過程で粉砕されて残らない。

金額については、

「そんな装置が開発されたのなら、当然密猟もあるよね~。

 捕獲する際に、どっかのデータベースと繋いで、価値が高い動物なら、

 監視する機関に情報を送って『本当に研究用か?』を見てるんじゃないかな」

そして、動物が見た未来の世界、何かをされた記憶を「思い出させない」。

もしかしたら体内に何かある事で、動物と言えどストレスを溜めてノイローゼになるかもしれない。


………


「全て、推測の上に推測を重ねてますよね」

誰かが言った。

「そうしか方法が無かった。パケット云々は大体合ってると思うけど、

 古生物の話は予想だね。大体、それを前提に考えてくれって頼まれただけだし。

 で、捕獲機かどうか検証する?

 半年くらいかかっても、結論出ないかもね」

そう答える匿名(アノニマス)氏に次いで、前田警部が話し始めた。

「古生物とか絶滅生物とか言ったのは私なんで、彼はそれ前提で予測しただけです。

 さて、私の本業である犯人の人物像ですが…」

(犯人ではないだろ、と無言のツッコミ)

「未来の学生、あるいは研究機関に所属している者。

 日本人の血を引く者で、戦史を見て感情的になっている。

 しかし、肝心な歴史改変には踏み込めず、我々に放り投げた。

 何故我々かは、おそらく深く考えていない。

 考え自体が割と浅い。

 オペレーティングは凄く、ハッカーとしての才能はあるだろう。

 既存のシステムを流用し、歴史を変え過ぎないよう設定した、

 人間というパケットを3個、INとOUTするデバイスを構築した。

 だが、知的生物ならば『門』の抜け道を探るだろうという予想をしていない」

「要するに、頭でっかちのお子ちゃまだね」


会議室に不穏な空気が流れた。

我々を試すかのように1942年に時空を繋げ、補給させようとしているのが、

深い知性を持った超次元生命体ではなく、

単なる「技術はあるだけの子供」と断定されたのだから。


「では、その『誰か』は我々に何をさせようとしてるのか?

 いや補給なのは分かっているけど、それだけか?」

「それだけっしょ」

「それだけです」

匿名(アノニマス)氏と前田警部が同時に答えた。

「義憤に駆られたか何か知らないけど、

 ”歴史を変え過ぎない程度にガダルカナル島に補給をしてやって欲しい”、

 よし、この機械を流用すれば出来る! 俺賢い!

 今の時代に繋いでも、自分じゃどうにも出来ないし、足がつきそう。

 だったら比較的近い時代の日本人にやって貰おうか。

 でも設定をどうにかしないと過去人はやり過ぎてしまう。

 この監視用の金額チェッカーを使って、制限かければ必要以上に変わらないな。

 焼石に水程度の補給に落ちてしまうかもしれないが、

 こんな補給をさせてやる俺って慈悲深いねえ。

 こんな感じでしょ」

不快感が増す。


「まあ、人間ってやつは時代が変わって技術が凄くなっても、

 根本のとこは変わらないのかもしれませんね。

 正直、こんなボロボロの設定と高度な技術との不釣り合い、想像していませんでした。

 繋ぐ技術は凄いのがあっても、繋ぐ人間は大したことない」

プロファイラーならでは見解だろう。

会議の参加者たちは

『あの面倒臭い装置を、ボロボロの設定だと??』

と見方の違いに愕然としていた。

特に科学班は、自分たちが無能と言われてる感じもして、不快だった。


「まあ、開けた誰かさんはこんな感じじゃないでしょうか」

そう言いながら、匿名(アノニマス)氏も前田警部も、

口に出来ないもう一つの「何者か」像に思い至っていた。


『プロファイリングって犯人を特定して行動分析するもの。

 もしも特定の犯人ではなく、集合意思で動いていたなら読みは外れる。

 この会議に居並ぶ面々が門を開いたら、同じようにならないだろうか。

 助けたい、でも歴史は大きく変えたくないって部分だけ統一された意思で、

 後の詳細は詰めが甘く、現実に振り回されてしまう…。

 やりたい事はいっぱいあるのに、個々の調整が出来ておらず、

 結果どの路線でも中途半端な最大公約数という無能に陥ってしまう…』

(続く)

種明かしパート2部目。

端から高次元人にはしたくなかったです。

未来人も欠点のある人間。

なので、多分その未来は技術的ブレークスルーはどっかであったにせよ、

そう遠くない未来の人間だと思います。

…遠い未来だと、そもそも「太平洋戦争なんて長い歴史の一部でしかなく、特に同情とか起きない」かもしれません。

まだ戦争について、割り切れていないくらいの未来かもしれません。

と、とりあえずここまでにしておきます。

(本当に近未来人かどうか、最終話をお楽しみに(笑))

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の一文、大昔のトヨタの車作りを表現しているようでした
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