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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第4章:辻政信という因子
28/81

通話をする前に、準備準備

書類を持って、恰幅の良い男がコンビニにやって来た。

面倒事を嫌う親父だと話がまとまらない為、深夜から引き続き俺も待機していた。

「門」を通じて1942年のガダルカナル島と交信する。

その相手は辻政信という人だ。


…とりあえず、俺の睡眠時間は返して欲しい。




店の中のネット関係を見ながら

「普通の回線だね」

とその男は言った。

「こっちはコンビニの専用回線だね。

 インターネットみたいに汎用じゃなく、専用回線使って処理するのは立派。

 てことで、自分のやる事も理解できるっしょ?」

線を一本追加し、持ち込んだPCに刺した。

「よし、これで暗号化してブースト出来る。

 『門』側の端末と合わせて、モールスをカタカナに変換出来る」

「それはいいんですけどね、俺ちょっと疑問に思います」

「なに?」

「重要な事なら自衛隊の専用通信使えばいいんじゃないですか?

 インターネット回線なんて、所詮ダダ洩れするんじゃないですか?」

男は大笑いした。

「君、やっぱ個人としてはセキュリティレベル高いわ。

 その通りだよ。

 意思決定とか重要な話は専用回線でするよ」

「じゃあ、これは何なんですか?」

「言ったじゃん、モールスを復号して読めるようにするって。

 素性ちょっと明かすとさ、自分が噛んでる警察にモールスすぐに分かる人いないのよ。

 あと経済産業省の方にも」

警察はともかく、経済産業省??

なんか、極秘ってのが嘘みたいに、関与が増えて来てないか??




後で聞いた話だが、経済産業省は「門」そのものの解析に関わってるだけで、

補給計画の意思決定には関わっていないそうだ。


防衛省の関係者は、意見が割れていた。

辻政信はガダルカナル島を維持する強硬派であり、

彼を説得出来れば撤退は一気に加速する。

だが、そう簡単にも行かないだろう。

とにかく「敗北」とか「敗戦」と言ってしまえば、交渉は決裂する。

そういう男だ。

そこで、理を説いて撤退に導くより、利で釣るのが良い。

具体的には「撤退は功績になる」と説く。


そこまでは一致した見解だった。

意見が割れたのは

「辻政信ならば、あっさり撤退するのではなく、まず一戦交えてから」

と言い出すだろう。

それに対し

「そもそも、餓死や病死よりも本懐通り戦死させてやろうというのが、

 この『門』を使って補給を始めた時の感情だった。

 ならば、死ぬべき者が生きて帰るよりも、ここで一戦して、

 内訳は違えど史実通りの損害を出させ、それで諦めて貰う方が良いのではないか?」

という意見と

「折角助かった命なんだから、歴史を変えようと無事撤退させてやりたい。

 命日が移動するだけ、とは言うが、だったら10年でも20年でも移動させてやれば良い」

という意見に分かれた。

さらに後者の「歴史を変えてでも助けろ」派の中には

「辻の信頼を勝ち取る為にも、可能な限りの武器を送ってやろう」

という強硬派が出た。

それは少数で、多数は

「辻の信頼を得る事には賛成だが、武器は送らない方が良い。

 下手したら勝ってしまう」

という意見である。

もっとも

「米軍を甘く見るな。『門』を通れる程度の小型兵器程度だと、

 フル稼働させても送って数を揃えても、大局的に勝敗はひっくり返らない。

 であったとしても武器輸送には反対だ。

 武器以外の別の物で可能な限りの信頼を勝ち取ろう」

という意見もある。


警察側の関係者は、ほとんど全てが

「人道的な支援は良いが、もう戦争に介入すべきではない。

 辻政信とか今村均とかとの交渉だって不要。

 彼らの好きなようにさせて、我々は生活物資だけを支援すれば良い」

というものだった。


自衛隊、警察と比べ過激なのが、企業や政治家だった。

「どうせ我々の歴史との乖離が始まっているのだから、全面協力で良いだろう。

 別世界になりつつあるとは言え、日本は日本だ。

 日本の惨劇を防ぐには、勝つか、負けるにしても良い負け方を教えてやるべきだ。

 それにはガダルカナル撤退前のこの限られた時期に、

 運べる限りの最強兵器を運び、他の戦線でも使用させ、我々の歴史ではかなわなかった

 五分の条件での講和を目指して良いだろう。

 どうせガダルカナル撤退後は、彼等に通じる道は無くなるのだから、

 出来る内に出来るだけの支援をしよう。

 その後の事は彼等に任せよう」

てな、辻政信が聞いたら喜ぶ内容だった。


大学関係者や歴史系シンクタンクは保守的であった。

「必要なのは時空を超える『門』の解析であり、

 そのデータ集めの為の毎日の補給や、裏技の調査に過ぎない。

 歴史への介入は反対で、可能なら史実通りになるよう調整しよう」

科学系研究機関は

「データ取れなくて焦ってるので、歴史とか考えてません。

 どっちかと言ったら、変えない方が良いと思います」

研究機関が一番消極的だった。




「…で、君はどう思う?」

恰幅の良い警察関係者が俺に聞いてきた。

答えは決まってる。

「俺は、この件をどうこう出来る程の知識は無いし、

 どうこうしたいっていう強い気持ちも無い。

 たまたま『門』がうちの前に開いたから協力してるだけだ。

 そりゃ、顔見知りになった兵隊さんは助けたいけどね、

 そういう私情で判断できるものじゃないだろ」

男はククククと笑った。

「君さー、会議に出てる連中より賢いかもしれないね。

 確かに『こうすれば正解』というものに誰も辿り着いてないし、

 『このようにしなければならない』って程強い意思は誰も持ってはいない。

 辻政信なんてのが現れたのが今朝の事だし、すぐに正解なんか出ないね」

その上で、

「どこにも正解がないなら、私情で判断するのもアリかもよ」

そう言って、鷲のマークの!とか元気溌剌!とかのドリンクを大量に購入した。

「今日はコーラじゃないんすか?」

「自分も眠いのよ。徹夜でやってんのよ。

 糖分摂り過ぎるから時々ガクってなってオチてたりするんだけど、

 カフェイン飲んで、気分だけでも頭スッキリさせとかねーとね」

…糖分摂ってオチるって、あんた結構健康ヤバいことなってないか??


「…で、貴方は『門』に行かないんですか?」

「あ、自分はここ待機」

「…知ってますよね。ここ、コンビニですよ」

「君も知ってるだろ? 回線いじったって。

 自分の今日の仕事は、その通信が無事に機能してるか?って確認。

 無事にってのは、誰かにハッキングされてないか、って事ね。

 専用回線はまだしも、昔のパソ通じみたカタカナの送受信でも覗こうってのはいるもんでね」

「へえー」

「いるんだよ、君の目の前に」

「??」

「自分はそっち系から、守る側にジョブチェンジしたってわけ」

「じゃあ、何かでこの『門』の事を知って、

 それで機密保持と、どうせならって事で仲間入りさせられたとか?」

「それはない。単なる上からの推薦。

 まーどういう事かは、その内分かるよ。

 どっからどう僕に繋がって来たのかって。

 ここと関係することになったのかって」

「はあ…」

「君のとこのさ、統括部長さんだっけ? あの人面白いね」

「何がですか?」

「足作戦」

「??? 何ですか?それ」

なんか変な作戦が出来てた。

「あー、まだ概略聞いてないんだ。あれ、かなり面白いよ」

「だから何なんですか? 俺全然聞かされてないんすけど」

「それは無い。店内にクリスマスのデコしてるじゃん」

「指示が入りましたんでね」

「あれだよ」

「?」

クリスマスデコが何かの作戦??

「聞いてないの? クリスマスに日本兵に鶏の足を届けるって。

 だから『足』作戦って」

力が抜けた…。

「あのおっさん、そんなしょうもない事考えていたのか!!??」

恰幅の良い男はニヤニヤ笑っている。

「ケーキにして『ケ号作戦』なんてのもあったみたいだけど、

 それだとガダルカナル撤退作戦の『ケ号作戦』と

 名前が一緒になるみたいだからボツだと」

「どうでもいいっす…。

 眠い中、すっげー気が抜けました。

 前も言ったんですけど、最前線の兵士がクリスマスなんかに興じると思います?」

「興じて貰うよ。ここも強制参加だ。

 これは面白い作戦なんだ、自分から見てもね。

 場合によってはアメリカさんも巻き込みますかね」

もう好きにしてちょうだい…。


「おっと、通信が流れ始めた。

 いよいよ21世紀と1942年の秀才さん同士の打ち合わせが始まったよ」

(続く)

明日からはまた1日1話のペースに戻します。

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