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コンビニ・ガダルカナル  作者: ほうこうおんち
第3章:「門」の裏技を探し出せ!
20/81

罰当たりな輸送方法が確立された

20XX年 日本国東京都市ヶ谷 防衛省内


報告書を読んでいた一同は無言だった。

「仏サンを利用するのか。気分の良いものではないな」

「ですが、今のとこ唯一の方法です」

「向こうからこちら、だけって可能性は無いのかね?」

「可能性はあります。可能か不可能かは試してみないと分かりません。

 可能性は半々と思います」

うーーーーーん…。

一同は悩んだ。

実行する事は誰もが決めている。

感情的にしこりが残っているだけだった。

「役目が終わったら丁重に供養してやろう。

 それで仏には謝るとして、計画を実行しよう」




護送された2人組の兵隊ヤクザは、施設内に拘禁されていた。

暴行は加えられていないが、常に銃に囲まれている。

「君たちにはガ島に戻っていただく」

会議に出ていた中の1人が、彼等にそう言った。

「誰が戻るかっていうんだ。戻れば敵前逃亡で間違いなく銃殺さ。

 そんなとこに行くかって言うんだ」

「こっちには3人しか来れないんだろ? 俺たちが帰らなけりゃ、誰も迎えにゃ来れねえ」

「取引しようか」

「取引?」

「君たちがわざわざ持って来た仏サン、あれを持ち帰ってもらう。

 中には別な物を詰めるがね。

 それを隊長に届けたら、君たちの無罪放免と除隊を頼もうと思っている」

「はんっ、話にならねえ。敵前逃亡を無罪にとか出来るわけねえ」

「大体、あそこで除隊されて、どうなるってんだ?」

「負傷して戦えない者は後送されてるんだろ?

 駆逐艦なり潜水艦なり大発なりで後送するリストに加えて貰う」

「そして敵の空襲で沈められろってか?」

「グダグダグダグダうるせーな…。

 70年以上未来の日本をナメんな。

 君たちの意思に関わらず、命令に従わせる方法なんていくらでもあるんだ。

 具体的に言ってやろうか?

 拷問とかはしない、こう頭に穴を開けてね、脳をちょっと切るんだ。

前頭葉にね、意思とか主体性とかやる気を司るとこがあるけど、切除するんだ。

 そうすると、自分の意思ってものがなくなり、無気力になって、何でも命じることに従うようになる」

兵隊ヤクザの顔色が変わった。

拷問とかには耐えてやろうという気だったが、そんな不気味な方法を聞かされ、思考が止まった。

「これねえ、主に暴力的で自制が効かない者への手術なんだ。

 軍隊で使うと、咄嗟の時の判断が出来なくなるからやらないけど、

 ガ島に帰れって命令を聞かせるだけなら十分なんだよね。

 命令を聞くだけのお人形作るだけなら」

兵隊ヤクザは真っ青になった。

「取引に応じてくれるかね?」

「……分かった。だけど、助命と除隊の件は確かなんだろうな?

 それがなければ断るぞ」

「約束しよう」


そして彼等に聞こえないように呟いた。

『ロボトミーなんて本気でするわけがないけどね。脅しには使えたか…』


こうして「仏舎利輸送計画」が始まった。

(仏舎利は仏の骨の事。仏像に入った重要物を渡すという意味だが、

 21世紀人の俺としては「トロイの木馬」輸送でいいんじゃね?と思った)




取引成立後、兵隊ヤクザ2人は、死んだ兵士を抱えて「門」を通った。

それから約1時間、誰も「門」から出て来なかった。

閉門間際、兵隊ヤクザの1人が死んだ兵士を抱えて戻って来た。

医官が腹の中から油紙に包まれた手紙を取り出した。


現代の自衛隊と1942年の日本陸軍の共通の思いとして

「書簡や通信での意思疎通がしたい」

「武器・弾薬・燃料の輸送をしたい」

というのがあった。

伝令を使って意思疎通をしてはいたが、地図や数字の細かいものは伝えられず、

また歴史を変えかねない情報は「門」通過後に忘れてしまう障害があった。

今回の仏舎利輸送において、まずは手紙のやり取りから始めた。

実験兼お土産兼証明として9mm機関拳銃(エムナイン)も封入した。


ガダルカナルからの返信は、鉛筆で書かれたものだった。

『宛 補給担当官殿

 仏舎利を受け取った。

 骸を使った輸送の件承知。

 脱走兵への嘆願も承知。

 然れども他の兵への手前営倉入は不可避。

 未来の武器受領。

 武器運搬可なるを喜ぶ。

 今後も協力をお願いしたい。

 

 追伸、仏を使う事を罰当たりと言う日本人の感性に久々に触れ、嬉しい』




仏舎利輸送が成功したと言っても、「門」の不便さに変わりはない。

死体は歩かない。

つまり1回につき、最大でも2人分の遺体に物を詰めた物を1人が運び込む輸送しか出来ない。

サイズも、人間の体に納まるものまでだ。

小型銃器とその弾薬、手榴弾、頑張って迫撃砲。

物によっては分解して送り、設計図も送れるようになった為、現地組み立てだとか。

意外に革袋に詰めた燃料の輸送は喜ばれた。

人間は重い。

確かに何往復も出来るが、兵士は辛そうだ。

また、21世紀の日本人に比べ、1942年の日本人は体が小さい。

罰当たりな言い方だが、「鞄」としての容量が少ないのだ。

そして遺体は傷んでくる。

防腐処理を施してはいても、限界はある。


「山の上の寺のお坊さんって、どんな人?」

俺は自衛隊のちょっと偉い人に聞かれた。

「さあ?」

「黙って、事故の仏サンとか供養してくれる?」

「いや、全く知らないっす。なんでそんな事聞くんですか?」

ここから俺は、仏舎利輸送とやらを知らされ、その契機となった

弟がシフトの日の脱走事件の事も知らされた。

「事情は分かりましたが、本当に近所付き合いとかしてないんで、人柄までは知らないですよ」

「うーーん…、もしかしたらと思ったけど…。まあ、分かりました。ありがとうございます」

…これ以上関わり合い増やしてどうすんだ?

自衛隊にも警察にもそっち系の人いるだろうに…。


結局この件は、警察の方で「猟奇事件の被害者として供養」という話に落ち着いた。

「靖国神社とかはないんですか?」

「それはあっちでの事。彼等はこっちの世界の住人じゃないので」

「じゃあ、供養ってのは?」

「気持ちの問題です」

こっちで丁重に供養した後に、ガ島に戻して荼毘にして、

後は戦死報告→靖国神社にって流れだそうだ。




手紙のやり取りは、補給の効率を更に高めた。

今まで、発注書という形で現地上官の署名入りの紙片を受け取ってはいたが、

物資名と数値以外の事の書かれた「書簡」は「門」を通過出来ない謎があった。

当日必要な購入物以外書面での連絡は出来ず、連絡担当の曹長による口伝(くちづて)が主だが、

これも「門」通過時の記憶の欠落等で完全とは言えなかった。

現在補給は

・水、食糧を現代で摂取する

・負傷兵が現地で治療を受ける

・現地で必要な物を自衛隊から受け取る

・現地で必要な物のうち、自衛隊が常備していないものをコンビニで購入する

・「仏舎利輸送」による極秘の輸送

とがあり、複雑化して来た。

そこで「門」が閉じる直前に、手紙で次の補給についての要望を受ける。

次の補給は「要治療者が多い」のか「武器弾薬の補充が優先」なのか

「とにかく回転を速めて食事中心」なのか。

それだけでなく、もう少し先の予定も連絡出来た。

明日はこれをする予定で、完成後にはこれが必要、というような。

そこまで分かれば、偽装基地の方に物資を前もって用意しておくことが可能になる。

使い過ぎて不足して、うちのコンビニに買い物に、って事が減る。

極端な話、買い出しの必要性すら無くなる筈だ。

うちの負担が少なるなら良いこと、良いこと。


それなのにコンビニ使用は無くならない。

前もって必要な物が分かって、不足無く準備出来るのなら、うちを使う事も無いだろうに。

そう思っているが、

「いやいや、折角高い謝礼を貰ってるんだから、無くなる方を願わなくても良いんじゃないかな?」

とか統括部長がやって来て、言った。

(兵士の方が基地外に出たがる、いよいよ必要物資ではなく、嗜好品や陣中の生活改善や

 精神衛生の為の買い物をしたいようだ。医薬部外品や花札等の娯楽道具等)


「ところで、クリスマス用デコレーションについては届いた?」

「届いてます。うちでやる必要あるんですか?」

「あります」

「日本兵相手に?」

「副店長、麻痺して来てますけど、お宅の本当の客はこの時代の一般人でしょ?」

「…それだって自動車で通りがかる時に買ってくようなものだから、

 飲み物中心、弁当中心なんすよねえ。

 毎年季節もののデコ、面倒臭いんですよ」

「そういや、ガダルカナル島に手紙送れるようになったんだって?」

「そうみたいですよ。知らなかったんですか?」

「聞いてはいたよ。うん、そうか、送れるんですね。

 じゃあ、あっちにもクリスマスの宣伝しといて下さい」

「アメリカと戦争してる連中にクリスマスだなんだって、怒られますよ!」

「チキン、美味しいよ」

「そうですが?」

「兵隊さんたちも食べたいと思うよ」

「まあそうでしょうが」

「知っての通り、25日過ぎるとケーキとチキンは安売りになるんですよ。

 都内の余りはこちらに送りますので、処分お願いしますね」

「それが狙いなんですか?」

「我が社は食糧廃棄をしないで済む、

 兵隊さんは美味しいものを食べられる、

 ここは売上が伸びる、

 いやあ、三方丸く収まるじゃないですか」

…言ってる事は分からなくもないが…。

(続く)

感想ありがとうございます。

弾丸飲んで胃の中に入れて輸送ってのは、最初それでやる予定でした。

…流石に南部十四年式拳銃だの手榴弾を人間ポンプは難しいと思ったので、ホトケ様使うことにしました。

最初は「俺」がツッコミ入れた「トロイの木馬」計画にしようとしてました。

この符丁が1942年ですぐ通じるか疑問だったので、違う名前にしました。

金額条件は、その内答え書きますので。

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