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5-15 母親の行方は分からず、私はどうすべきか考える

お読みいただきありがとうございます!

5-15 母親の行方は分からず、私はどうすべきか考える


 私の父親は吸血鬼に殺され、吸血鬼化した母親は……一体どうなっているのでしょうか。


「ジーク曰く、魅了された吸血鬼の『原種』に連れ去られた……正確には『貴種』の吸血鬼となってついて行ったのでしょうね」


 『原種』とか『貴種』って気になるんだけど、一体なんでしょうか。


「最初に吸血鬼化した存在が『原種』です。別名、始祖とも呼ばれます」


 元に近ければ近いほど、強い力を持つ吸血鬼となるのだそうです。『原種』は『貴種』を生み出し、『貴種』は『従属種』、『従属種』は『隷属種』を生み出すとされているらしい。先生の知りえる範囲では。


「それでね、私の考えなんだけれど……」


 先生曰く、吸血鬼は一般に「人の生き血を吸う」とされているのだが、似た魔物がいないかと考えると、とある精霊に思い至ったのだそうだ。


『ドリュアデス』と呼ばれる植物の精霊の事だ。古の帝国時代から伝わるそれは、東方の国に住むと言う。ドリュアスたちは普段は人前に姿を現すことは滅多にないが、美しい男性や少年に対しては緑色の髪をした美しい娘の姿を現し、相手を誘惑して木の中に引きずり込んでしまうことがあるという。そこで一日を過ごしただけで、外では何十年、何百年もの時が経過している場合がある。


 その樹木は「オーク」であることが多い。


 また、似た精霊・魔物に近い存在で『アルラウネ』と呼ばれる物が存在する。これは、帝国から北の国々の森に現れるとされ、人を誘惑し捕え食すと言われている。


 その存在は太古の民の信じた地母神『アルラウン』の使徒の慣れの果てとも言われており、その姿は大きな花冠の中から女性の体が生えた姿であるとされる。また、蔓や花といったものを体の各所に体現している。


 美しい男性を誘惑し、その人を取り込み……という特性に『悪霊』が憑りついた結果、人の体液=血液を吸い更に自らの支配下に置こうとする原始の『吸血鬼』へと変化したのではないかとされる。


 男性の吸血鬼は女性を、女性の吸血鬼は男性を誘惑し支配下の吸血鬼を生み出す為、上位の吸血鬼は常にハーレムを維持していると言えるだろう。恋多き精霊の慣れの果てと考えれば、理解できなくもないと言えるだろう。


 この世界には「食虫植物」という虫の好む甘い匂いを出して呼び込み、その消化器官に捕え、溶解液で溶かし自らの養分とする存在がある。吸血鬼はそういった植物の進化の一つの形ととらえれば……納得できる

かもしれない。


 美形が多いのも、そう擬態することで人を捕える事が容易くなることの現れだろう。人は見たいと思うモノしか見ないのだから。


「という事は『原種』は男性なんでしょうか」

「雄株と雌株があるかも知れないわね」


 それはあり得る。もしかしたら、両性具有か性別がないのかもしれない。それはいいけれど。さて、私どうしよう。


「自分自身の出自は理解できましたし、実の両親がどうなったかはわかりました。両方とも生きていないわけですし、今さら吸血鬼化した母親と会ってもどうもなりません」

「そうね。そういう考え方もあるわ」


 先生、どういう考え方をされているのでしょうか。


「ヴァンピールは吸血鬼の特徴を持っている人間だから、普通に子供も作れるし普通の人間よりかなり長生きよ」


 えーと、具体的にはどのくらいなのでしょうか。


「外見的に二十代前半の一番魔力の高まる年齢の外見で横ばいになるわ。魔力が多いほど長命、老化が始まれば、人間同様二十年位で老衰死することになると言われているけれど、吸血鬼以上にレアな存在だから。

正直判らないわね」


 先生曰く、推定五百~千年らしいです。それも、途中昼寝なしで。吸血鬼はビルみたいに、定期的にお昼寝を二三百年するじゃないね。私はお昼寝なしらしいです。


「母親と父の仇の吸血鬼は……」

「活動中だと思うわ。あと二百五十年位はね」


 三百年周期の睡眠の覚醒期に『原種』は『貴種』を生み出す事が多いと言われている。まあ、数が少ないので、あくまでほかの吸血鬼の活動からの推測なのだけれど。だから、母を吸血鬼化したのは覚醒直後と考えるとそのくらいの活動期間が想定されると思われる。


「基本的には、元が植物の精霊だから動かないのよ、特に『原種』はね。それについて行った『貴種』と化したあなたの産みの親も一緒にいると思われるわ」

「場所は、『(パンノ)国』のいずれかですか」


 ビルの指摘はその通りだろう。帝国内で拠点が確保できているとも思えない。そもそも、寝ていた場所はどこなのだろうか。サラセンが持ち込んだとかなのか。若しくは、廃城でも与えたのかもしれない。全てが推測だけれど。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 帝国の東、ベーメンからさらに東の沼国に向かうのも一つの手だろうし、今一つは、ウィンから更に大河を東に向かい、プルが連れ去られただろう場所の下見も必要かもしれない。


 けれど、両方とも今やサラセンの属国になっていると考えられる。まあ、全員がサラセン人ではないだろうし、元の住民がそのままいるのかもしれない。冒険者ギルドってどうなっているんだろう?


「さて、私は暫く生きているし、あなたも暫く生きている。そして、吸血鬼も寿命で死ぬことはないわ」

「序に、ビルも死にません」

「ええ、私の主としては最長記録となるでしょうね。流石に魔物に使役される精霊にはなれません」


 吸血鬼は魔物、半吸血鬼は亜人枠という事なのかもね。ということは、私の子供たちは『ハンピール』とか呼ばれるのかもね。嫌だわ。


「それなら、ゆっくり考えます。先ずは、私の生まれた国も見てみたいですし、悪さする吸血鬼どもを蹴散らして、帝国の高位貴族に貸しを作るというのも悪くありませんし」

「あまり頑張ると、星四(heros)星五(auditio)になるわよ」


 それはそれでよい面と悪い面があるね。星四になれば伯爵扱いになるみたいだし、メダル頼みで生き延びる必要もない局面もあるだろう。門前払いもなくなるだろうし。悪い事ではない。特に、ベーメンに行くには。


「機会があれば、昇格しておこうと思います」

「遅かれ早かれなのであれば、今の時点で十分なっても良いと思うわ」

「私は暫くは無理でしょうけれど、出来る限り早く追いつきます」


 ビルは星三になりたてなので、星四に直ぐになるのは難しいだろう。私の場合、吸血鬼討伐を報告していないので上がらないで済んでいる。


「それは心配ありませんよヴィー。トリエル大司教の指名依頼の件、報告して報奨を得たらそのまま昇格するでしょう」

「……だね……」

「それね。何やらやり過ぎたみたいね。詳しく聞かせてちょうだい。もう、この先の事は決まったのだから、あとは再会を楽しみましょう」


 三人で夕食の準備をしながらワイワイと台所で作業を(私とビルが)していると、扉を叩く音がする。


「いるんだろ? 俺だ」


 師匠でした!! 


「おお、もしかしてヴィーか。すっかり……まあ、頑張れ!」


 いや、なに、どこ見て頑張ってって言ったんですかあなたは!!き、気にしない、私はゆっくり大人になるからね☆


「む、誰だそのイケメンは! 彼氏か!! バーンよりイケメンだし、強そうだな。捨てる国あれば拾う国ありだな」


 いや、別に国に捨てられたわけじゃないですよ。私が王国を捨てたんです。捨てられてないやい!


「師匠は相変わらずですね」

「相変わらずカッコいい?」

「……相変わらず風呂に入ってませんね。今すぐ、湯を沸かしてきますので、お風呂に入ってください。ビル、手伝って」

「承知しました」

「おい、俺をザ・不潔みたいに言うんじゃねぇ。狩人が人間の臭いを出してりゃ、得物が逃げちまうだろ」

「師匠、そんな初心者みたいなこと言わないでください。風下から余裕で仕留められるでしょう。風呂ギライはいい加減改善してください。もう、歳なんですから」


 言っちゃなんねえこと言ったとか騒いでいる年寄りに、土魔術で露天風呂を作り、水をじゃかじゃか汲んで満たした後、ビルが一瞬でお湯に変えます。便利だね、炎の精霊って


「まじか、高等魔術か」

「ビルは炎の精霊、イーフリートだよ」

「へぇ……って、お前、いつの間にそんなのと契約してるんだ。星三だよな」


 星は関係ないんですよ師匠。


 その晩、四人で夜遅くまで楽しく旅の話をした。師匠も先生も自分たちが冒険者だった時の話をド=レミ村時代は一切してくれなかったけれど、この日は色々なためになる話を聴かせてくれた。


 結論は、「同じパーティーであっても冒険者は信じるな」だったね。そういう意味では、確かに馬車の護衛の時も当てにはしなかったな。最初から二人で凌ぐつもりだったしね。


「先生、師匠も一緒にトラスブルに行きませんか?」

「ああ、アンヌと久しぶりに会おうかしら」

「悪くねぇ。帝国の華時代の話で盛り上がろうぜ」


 ひとしきり、四人でトラスブルに行く話をした後、先生が試すように私に問いかけた。


「オリヴィは育ての親に会っていかないの?」


 うーん、安心させるために最後のお別れをしておくべきかもしれないね。それと、せめてもの恩返しに、少し包んでおこうかと思うよ。兄さんがこの先どうなってもいいようにね。



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ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


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