5-13 先生と再会し、私は今のド=レミ村について聞く
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5-13 先生と再会し、私は今のド=レミ村について聞く
いきなり、「私はいったい何者なのでしょうか」と聞くには少々気が重いので、最近の村の状況について聞いてみることにしたんだよ。
「オリヴィが旅立って暫くして……来たわよ、王国の騎士達がね」
やはりというか、当然のように私の所在を確認しに来たという。
「あなたの育ての親の家に、挨拶に来た……という態だったけれど、それにしては兵士も沢山連れてきていたし、恐らくはあなたを連れてくるように命じられていたのでしょうね」
バーン兄さんはその後二度と帰郷していないというし、騎士達が一度来た後は二度と来なかったという事で、バーン兄さんとは手紙のやり取りが多少ある程度だという。確か……二人は字が書けなかった気がする。多少読めるけれど、手紙を書けるほどじゃない。
「大体、私が代書しているわよ。まあ、健康を気遣う内容ね」
「手紙が届くこともあるの?」
「ええ。でも、バーンもそれほど筆まめではないし、書いているのは騎士付きの従者だと思うわ。筆跡が全然違うし、内容も時節の挨拶が多いわね」
生存証明のようなものだろうか。一応、署名は本人の物なので、生きていると思われるけれど……サインだけ多量にさせておいて、本人は所在不明という可能性だってあるわけだよね。
「二人は老けたわよ。あなたが出て行って、もう楽しみも何もなくなったって感じで、一気に歳を取ったわ」
一人息子は七歳からほぼべつに生活していて、私が娘みたいなもので、兄さんが一人前になったら、騎士として村に戻って私と結婚して……孫が出来て、家族が増えて……って、全部だめになっちゃったしね。
「バーン兄さんの消息はご存知ですか?」
「王国の軍に所属して、今は南の方で帝国と戦争しているんじゃないかな。出征の連絡はあったみたいだけど、どこで何をしているかは機密もあるからただの農民の両親には教えられないわよね」
いま帝国内で傭兵が稼ぎに行っている戦場に、王国側の騎士として参戦しているわけね。もうずいぶん、何度も戦争しているよね帝国と王国。
「皇帝か国王が死なないと、何度でも戦争しそうではあるからバーンは帰れないでしょうね。勝てば英雄、負ければ次の戦争にまた駆り出されるでしょう。王女に見染められても、『勇者』の加護持ちだから、戦場から帰れないわよ」
そう考えると、教会で認められる『勇者』の加護って、ある意味呪いだよね。そもそも、『勇者』の加護ってのは個人的な武威を上げると共に、集団戦で周囲の指揮下にある兵士・騎士の意識の高揚による身体能力の向上があるから、ある程度の規模の集団の指揮官にされてしまうわけです。
王女の婚約者か婿かはわからないけれど、多少身分がそれで高くなって『伯爵』くらい貰っておけば、千人くらいは指揮させてもらえるのかもしれないね。ようしらんけど。
「一応、近衛兵の指揮を委ねられているみたいね」
「あの、弓銃兵とか鎚矛兵の集団ですよね」
「そうそう。だから、前線で先頭に立って突撃とかではなくって、国王陛下の切り札的部隊を任されているのよ」
近衛は両方、外国人傭兵で常雇いの専門兵士たちだから、戦力として一番強力な部隊をさらに『勇者』の加護で強化しているわけなのね。それは、ド=レミ村には帰らせてもらえないかもね。
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少し、話は紆余曲折したが、私がこの村に連れてこられたときの話を聞いて行こうと思う。
「先生、私も星三の冒険者になりました」
「そうだね。頑張ったね」
そう、私が頑張りました。頭なでなでしてもいいんですよ。いえ、そういうお話ではありません。
「村を出る時には聞けなかったお話、今ならお聞かせいただけるのではと思って今日はここを訪れた……というのもあります」
先生は黙ってうなずく。ビルは、気を利かせてお茶を淹れてくれるらしい。
「私がこの村に来たいきさつで、私の知らないことがあれば教えてください」
結局、梟の紋章も分からなかったし、ここは先生に知っていることを聞き、ヒントを貰わないと、ただ帝国で冒険者をしていても面倒なだけだからだ。
「そうね、では、あなたに伝えていなかったことをいくつか教えるわね」
先生は旅立つときに受け取った魔銀の剣を出すように言う。
「先ずは、この魔銀の剣の紋章から説明するわね」
やはり先生は、御存じだったんですか、そうですか。
先生曰く、この紋章は『オウルブルク』という名の貴族の家の紋章なのだという。
「この剣とあなたと、あなたの乳母を連れてきたのは、私たちのパーティーの仲間であった『ジーク』なの」
おお、ここでやっと『帝国の華』の話が出てきたわけですね。ジークさんは『騎士』であり、アンヌ姐さんと組んで前衛を務めていたのだという。
つまり、『帝国の華』は、騎士ジーク、剣士アンヌ、魔術師タニア、野伏ゼッタの四人で構成されていたのです。
「ジークは実家から呼び出しがあり、冒険者を引退するという事になったので、私たちも引退したの。私が以前の依頼で縁のあったド=レミ村に家を構えることになったので、ゼッタはそこで狩人をしながら私の依頼を個人的に受けることにして一緒にここに、アンヌは冒険者ギルドで職員兼任の冒険者をしながら、近くの大きな街で暮らすって事になったのよ」
もう今から二十年程前の話だという。それはそうか。えーと、師匠はともかく、アンヌ姐さんと先生は……いったい何歳なんでしょうか。
「女性に年齢を聞くのは失礼よ。特に私にはね」
「はは、ヴィー、タニアさんは少々年齢が上ですから、聞かない方がお互いの為ですよ」
「まあ、精霊にはお見通しだから仕方ないわね」
更に、二人だけでニコニコされとても腹立たしいです。
「オリヴィは気が付かなかったのね。私、普通の人間ではないもの。ほら」
髪をかき上げ耳を見せると、何だか先っちょが尖っています。
「エルフです。今はほとんど見かける事が無くなりましたが」
「海の向こうの島に引っ越したからね。私は、故郷を出てこの辺りで研究しながら、時に世に出て活動しているの」
年齢は……見た目ではわからないそうですが、「三千歳よりは若いわよ」と言われました。まあ、それだと先生も神様になっちゃうじゃないですか。
「私たちの種族でも千歳を超えると亜神となって不老不死になるのよ。けど、普通はその間に生きるのに疲れて病気か怪我で死ぬのよ。自分だけ長く生きるというのは、それは辛い事もあるからね」
長命だが病気やけがで死ぬ、人間より寿命が長い一族がエルフなのだろう。
細かい事を聞いても詮無きことです。
「アンヌは四十過ぎているからね。聞かないように」
「聞けません。師匠は五十くらいですかね」
「そんなものじゃないかしら」
凄く雑なご意見ありがとうございます。
「それでね、ジークの帰郷した理由というのが、家命で騎士として御守りするのに『冒険者』としてのジークの力が必要な方がいるという事だったの」
騎士ではなく冒険者……という事であれば、相手は魔物に狙われてもおかしくない方なのだろう。
そこで、出てくるのがこの梟の紋章。オウルブルクは帝国皇帝家の一つである『ファルケブルク』家の分家の一つであり、もう一つの皇帝家とでも言うべき家柄なのだという。
「聞いたことがありませんね」
「それはそうでしょう。表に出てくることは本来ないのよ。ファルケブルク家が絶えた場合のバックアップなのだから」
ジークはその副皇帝家の娘と『ベーメン王』家の王太子の間に生まれた娘の護衛騎士として付けられたのだというのだ。
「何故かって、それは、ベーメン王の妻となり子を宿した王妃様が吸血鬼に魅入られたから……ということなの」
ベーメン王国は今は帝国皇帝が王位を兼ねているのだが、その当時は別の王家が統べていた。簡単にいえば、ベーメン王の妹を皇帝が娶り、皇帝家に娘がおらず、副皇帝家の娘をベーメン王に嫁がせたということなのだ。
「妊娠がわかる前に、隣国の高位貴族の中に紛れ込んでいた吸血鬼に見染められたのよ。そして、妊娠中に吸血鬼に血を吸われ……最後は吸血鬼となってしまわれたそうよ」
吸血鬼って、吸血鬼を作り出すことが出来るというのは知っていたけれど、時間をかけて徐々に吸血鬼にされていくこともあるんだね。
「妊娠していたんですよねお姫様。その後、赤ちゃんはどうなったんですか」
「……無事に出産は出来たの。というよりも、わざわざ出産直前までお姫様を吸血鬼にするのを止めていたみたい」
なんですと。そうすると、生まれてくる子供は『吸血鬼』なんでしょうか?
「吸血鬼は子を為さない。人と交わろうが、吸血鬼同士で交わろうが子を為すことはないの。でも、妊娠中の妊婦が吸血鬼化した場合、吸血鬼ではなくヴァンピールと呼ばれる吸血鬼の特徴を持つ『半吸血鬼』となるの」
なるほど。ヴァンピールは、太陽の光の下でも活動でき、吸血鬼が禁忌とする水の流れ、銀、ニンニク等も効果がない。血を吸う必要はないが、肉体の再生能力、魔力、土と風の精霊の加護、身体強化の能力、夜目が利く等の特性は引き継いでいる。
「そう、あなたがその赤ん坊なのよ。亡きベーメン王の娘にして、帝国の姫マリア・フォン・オウルブルクの子、オリヴィア・フォン・オウルブルクなの」
えー 私お姫様なんだ……という以前に、ヴァンピール・半吸血鬼かぁ。それは、日焼けもしなければ傷もすぐ治るわけね。納得……てかショックです!!




