5-07 メイヤー家は歓待し、私はこれからの事を話す
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「ご無沙汰しております、メイヤーさん、奥様」
「オリヴィ久しぶりだね。元気なようで何よりだ」
「ヴィーちゃん、あなたちゃんとご飯は食べてるかしら? 今日は自分の家だと思ってゆっくりして行ってちょうだいね」
ビータママ、私は生まれてこの方「自分の家」を持ったことが無いので、どういう感覚なのか分かりません! とか言えないわよね。泣かれちゃいそうだし。
「ビータ、プルただいま」
「おかえり」
「ヴィー、元気そうで安心したわ。行商人は順調なの?」
「まあね。これ、皆さんでどうぞ」
魔法の袋から、ドンと出す魚の塩漬けの樽。皆さんドン引きです。
「これ、今回のルベックで手伝った商会の商いものです。お裾分けです」
「はは、これはこれは……ん、新鮮だね。流石はオリヴィの魔法の袋だね」
ビータパパ、劣化防止の効果が読み取られてしまいますね。メイヤー商会は穀物メインだけど、この辺りも多少扱う商会なのだろうね。
「黄金蝙蝠商会という、元漁師たちで作った漁師からの直販をセールスポイントにしているお店です。今回は、ブレンダン公領との間の取引のお手伝いをさせて頂きました」
「オリヴィ姉さま、どのような冒険を為されたのですか?」
最近一段と仲良くなった、ビータ弟。やはりビータ同様、街の外に対する関心は人一倍大きい。
「公都はとても機能的で大きいのですが、商業的には一日ほどの距離にあるハベルという帝国自由都市が領内の商都といった関係で、コロニアやメインツとは少し趣が異なりますね」
「ああ、ハベルは東方開拓の拠点の一つだった時代に繁栄したけれど、今はエーベ川中流の拠点という位置づけだけになっているから、往時ほどではないのだろうね」
メイン川流域ほど開けていないエーベ川沿いでなおかつ、特権都市として公爵領の中で独立しているのであるから、経済的規模が縮小する分、固定費が同じなら経済規模は厳しくなるんだろうね。だから、盗賊討伐もおざなりになったのだろう。あの市の参事会には、もうそれほど特権を維持するだけの規模ではないと認識されているのかもしれない。
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そんな感じで、私達はすっかり食事をご馳走になり、今日は泊っていきなさいというお言葉に甘え、夜遅くまで話をした。
「また、危ないことしてるんじゃないですか」
「えー 冒険者だからしょうがないのよね」
「……冒険者は二人で盗賊団のアジトを殲滅しないと思いますよ」
「たまたま相手が上手く動いてくれたからでしょうね」
いつもの、穴を掘って埋めるだけの簡単なお仕事です。それに、吸血鬼相手という事は触れずにおく。今までの旅程で、メイン川流域に吸血鬼が起したと思われる不審な事件は思い当たらなかったのだから、余計な不安を与えるようなことは言わない方が良いだろうと思う。
「それで、公爵家と顔見知りになることが出来たと……凄い僥倖だねオリヴィ」
「商売の相手とはなりませんが、帝国内の有力諸侯と個人的な知己を得ることが出来たのは幸運でした」
「羨ましい限りだよ。とは言え、メイン川流域から離れた場所では、商会としても余り関われないだろうが、メイヤー商会で役に立てることがあれば遠慮なくいって欲しい」
「御心遣い感謝いたします」
公爵領で、私の商売がどうこうという事はないだろうが、領内で行商するくらいの許可証は発行してもらえると嬉しいのだけどね。
「ところで、ヴィーはこの先どうする予定なの」
「そう、それを伝えなければならないと思ってね。私一度、ド=レミ村にこの後、戻る事にする。先生や師匠に今までの報告と……これからの事を相談したいとおもってね」
メイヤー家は全員が「それはいい、そうしなさい」と賛同してくれた。問題は……
「一緒に行く」
間髪入れずにプルが断固とした口調で口に出す。でもね……
「……それは……無理!!」
「難しいでしょう。数日は馬に乗り続けますし、野営ばかりになりますから」
プルはド=レミ村へ同行したいようなのだが、体力的に難しいだろう。馬車を仕立てればというのもあるが、正直、目立つのは勘弁してほしい。
「もう、戻るべき場所ではないから、今はちょっと連れて行けないよプル」
「……行きたい」
「そうだね……先生に聞いてみるよ。プルの先生になってくれるかどうか」
私は、メイヤー家にずっとプルがいる事が良いとは思えないのだ。それは、ここでずっと過ごすならそれでもいいと思うけれど、彼女の故郷を探す旅に出るのなら、ある程度、冒険者として活動できるよう教育が必要だ。それには、先生と師匠の元で学ぶのが良いと思うからだ。
「七歳までに家事や読み書き計算の簡単なことまで覚えてもらえるなら、その後、先生の所で生活しながら学ばせてもらえるかどうか今回の訪問で聞いてみるよ。先生は、家庭的なことが苦手だから、料理とか掃除洗濯は二人分は出来ないと、生活できないからね」
「……頑張る……」
五歳になるかならないかで先生の所には連れて行けない。生活力の無い二人で揉めるのは目に見えている。私が一緒に住むわけにもいかない。だって、追い出された人間だから、迷惑掛かるかも知れないから。
小さい頃に、あちらこちら連れまわすのは成育環境としてよくないでしょうし、ここなら、ビータの家族が親代わりになってくれているし、街の中の生活は村の生活よりもずっと快適だから、今はこの街の中で出来ることを学ぶべきだと思う。
「プルの故郷を探す旅に出る為にも、今は、メインツで出来ることを学んで、ド=レミ村で一人前……半人前になれたなら、私と旅に出よう。それまでは、言う事を聴いて、学ぶべきことを学び、自立して欲しいかな」
「自立……」
「そう。自分の事を自分でして、食事の用意や洗濯みたいなことを自分である程度できるようになるのには十歳くらいになるまでかかる。だから、毎日、覚える事が沢山あるんだよプル」
「……」
プルは五歳児としてはしっかりしているし、自分も大人になろうという姿勢はよくわかる。でも、五歳児なんだよね。十歳の子なら当たり前にできることも、五歳では全然できない。病気にもかかりやすいだろう。だから、長い旅に連れ出す事なんてできるわけがない。
「ビータと二人で、メインツで色々なことを経験して欲しい。ビータは行商人になるために色々な仕事を経験して欲しい。ギルドで臨時の仕事依頼が沢山あると思う。せっかく冒険者登録して、行商人の登録をするなら、ギルドの依頼をこなして経験を重ねる方が良いんじゃないかな」
「……そうね。そうする。身内の中だけで仕事した気になっていたら駄目だもんね」
ビータも私と行商するなら、今のお嬢様然とした生活では無理だ。宿に泊まれないことも当たり前だし、歩き続ける必要もある。街の中での暮らしとは全然異なる環境は、言葉で説明するより、仕事を通して経験した方が理解できるはずだ。
「鍛えておくから」
「ちょ、ちょっとプルちゃん。いくら何でもそれはないでしょう!」
「「「「……」」」」
「いや、ビータ一人では心配だから、プルちゃんも一緒に出掛けてくれると安心だな」
「わかった」
「お父さま……」
プルの賢さは折り紙付きだが、ビータのポンコツさもまた同じなのです。家族が心配なんだよね……誰よりもビータの事がさ。もう、幼児にお願いしてしまうくらいに心配。
プルが七歳になる……あと一年半くらいの間に、二人にはこの街で出来る経験を積んでもらおうと思う。その間に、ド=レミ村で先生に話を付けて、私とビルは、私がいったい何者なのかを調べてみたいと思う。
魔銀の剣に刻まれた梟の紋章も自分自身で調べる事は難しい。せっかく、帝国有数の公爵家と縁が出来たのだから、その伝手を利用できるだけの知識が欲しい。
安直ではあるけれど、村を出てから今までの出来事を先生に話した上で、先生の知る梟の紋章の知識、そして、先生に私を委ねて亡くなった女性から知りえた情報を聞きたいと思う。
村を出る時点では私の力は未知数であったから、先生には言えずにいたことも沢山あるのではないかと思うんだよね。
あと、『帝国の華 』のことも聞いておきたい。冒険者として駆け出しであれば、弟子と名乗ることは余りよい効果が無かったかもしれないが、星三の冒険者になった今であれば、それほど違和感を持たれずに済むでしょ?
翌日、私はメイヤー家の皆さんにプルをお願いするとともに、再会を約束してメインツを旅立つことになった。急ぐ旅でもないのだが、いざド=レミ村に行くと決めると早く会いたいという気持ちがどんどん大きくなってしまう。
それと、ド=レミ村では手に入らない錬金素材なども少しお土産代わりに持って行ったり……魔法の袋に入る分のお菓子やお茶の葉等も買い足しておきたい。
という事で、この先大きな街はほぼない事を考えると、即旅立つわけにもいかず、もう二日ほど『黄金の蛙』亭に逗留していたのはビータ達には内緒です。え、だってカッコ悪いじゃない! もう旅立つって挨拶したのに、街中でばったり会ったりしたらさ。
馬も長旅で草臥れていたので、休ませるにはちょうど良かったかもしれませんね。という事で、メイヤー家を出て二日後、いよいよ私とビルはド=レミ村に向かうのでした。
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ヴィーの友人ビータとプルの本作スピンオフのお話。
「不埒な婚約者に失踪され、実家を出される私は仕事探しに街へ出る~ 『就活乙女の冒険譚』」
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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。
『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://book1.adouzi.eu.org/n6905fx/
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