5-05 コボルドと共にゴブリンを殲滅し、私は一息つく
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5-05 コボルドと共にゴブリンを殲滅し、私は一息つく
三百メートルも下がっただろうか、木立は比較的均等に生えている場所にビルが立っている。
「ヴィーここから抜けてください!!」
木立の間に一箇所だけ縄を張っていない隙間がある。そこを駆け抜ける、私と十匹のコボルド。更に後方、その更に二百メートル先にはヴォルグの率いる十匹がいた。
『如何デシタデショウカMY LORD』
『先頭は皆殺し。離れていた後方のゴブリンが音に気が付いて寄せてきたわ。三度目は多分押せ押せで来るでしょう』
『同ジコトヲシマスカ?』
私は首を振り、先頭の十匹をここの側面から後方に突撃させる事にする。
『戦列が間延びしているから、ここでゴブリンを食い止めている間に、私たちは右に回り込むわ。ビルたちが後退して来たら左に回り込んで最後尾に喰らいつけと伝えてちょうだい』
『YES MY LORD!!』
私は、ヴォルグの持つバスタードソードが林間の戦いに向いていないと感じ、ピッタリの装備を渡すことにした。
『ヴォルグこれを使いなさい』
『MY LORD コレハ?』
『戦棍棒よ。これで、ゴブリンどもを叩きのめしなさい』
『YES MY LORD!!』
ヴォルグは戦棍棒を掲げ、周りのコボルドも倣うようにベーメンソードを掲げる。立派な蛮族集団だと思う。
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正面から右に大きく迂回し、逃げるビルたちを追うゴブリンが遥か林間を追いかけていく姿が見て取れる。走るの遅いのは、足が短く幼児体形だからだろう。走るの苦手なんだなゴブリンと思う。
その背後から、ノシノシと歩いてくるのは……ホブかもしれない。さらに、一回り大きいのはチャンプだろうか。
百の群れを率いるのなら、キングかジェネラルクラスでないと統率がとれないだろう。もしかち合えば、ヴォルグはジェネラルには勝てないだろう。ファイターでも厳しい気がする。
前衛のゴブリンが罠にかかり戦端が開かれる。
『あの後ろのデカいのを狙うわ!』
『『『YES MY LORD!!』』』
皆に任せるとは言うものの、犠牲は少ない方が良い。ちょっとしたズルをするくらいは大目に見て欲しい。
『疾風』
率いるコボルドごと体を加速させる魔術を用いる。
『泥濘』
ゴブリンの足元をぬかるませ、足の踏ん張りが利かないようにする。『疾風』の効果でこちらは足を取られる心配もない。
『尖鋭』
剣の硬度を増し、斬撃の効果を一時的に高める。いや、この場合、刺突
の効果かもしれない。
側面からの不意の攻撃、自分たちに倍する速度で動き回る長剣を振るうコボルドに驚く間もなく数匹のゴブリンが仕留められ、同数のゴブリンが致命的な傷を負う。
『GwOOOOOO!!!』
混乱する引き連れたゴブリンを一喝し、その大柄なゴブリンは『処刑剣』のような切っ先のない剣を振りかぶり、コボルドたちに向ける。
「面倒ね、こっちよ!!」
『Gwoo……オンナ……』
ゴブリンやオークは人間の女性が大好きなので、顔を覆う布を外しこっちへ来いとばかりに『処刑君』を集団から引き離す。これで、コボルドたちがゴブリンに専念できるだろう。
『キリの良いところで、ヴォルフの敵の背後に突撃しなさい!!』
『『『YES MY LORD!!』』』
後の命令を発し、私は目の前のゴブリンとの対決に専念する。
どうやら、ホブでもなくチャンピオンでもないようだ。その上位種……『英雄』なのかもしれない。多少の人語も話せるということなのだろうか。ヴォルフなら瞬殺されかねない。
「あんたが群れを率いているの?」
『Yaaaaa!! 俺ノムレ、オマエ番ニスル』
何言ってるの、彼氏いない歴=年齢の私に。婚約者は彼氏ではないので嘘ではありません。そもそも、私が七歳の時から年に何回かしか会わない婚約者だからね。
「面白いわね。私に剣で勝てるとでも思っているの?」
『Gahahaha!! 気ノツヨイ女ハイイコエデナク!!』
ぶっ殺す!!! 何だか全身が穢された気がする。
『疾風』
『尖鋭』
からの……『砂塵』
『Gya!!』
一閃、その物騒な剣を握る手首を切り落とす。どさっとばかりに剣が地面に手首を伴い落下する。
『Hiii……ナンダ……』
「ヒーロー、これが魔術よ」
『詠唱ナシニ!!』
精霊さんと仲の良い『風』『土』系は詠唱が無くても以心伝心で術が掛かるのだよ。火や水は全然ダメ。略詠唱が限界です。
『マダ……マダ終ワッタワケデハナイ、我ラニハオーガガツイテイル!!』
どうやら、この群れは英雄と大鬼に率いられた群れだったらしい。キングはいないのか、それは良かった。
『俺ノ兄弟ガ……』
「あ! あれじゃない?」
笑顔で何かを抱えて笑顔で手を振るビル。塩漬けの魚の樽ほどもあるだろうか、何かを掲げている。お、そう、オーガの頭みたいだね。
『グフウウ……』
「じゃね!!」
腹を裂き、前かがみになったところで首を斬り落とす。はい、これで討伐は大体終了かな。
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いけ好かない金髪野郎……陰で呼ばれていたビルは今では『兄貴』と呼ばれている。まあ、精霊的には相当君たちより兄貴だと思う。
『サスガッスネ兄貴!!』
『アノ一撃ニ痺レタッス!!』
まあ、あの頭の大きさからして、相当デカいオーガであったことは間違いない。強い者至上主義の魔物であるコボルドにとってビルの見せた武威は、圧倒的に従いたくなる存在だろう。
ここでどんちゃん騒ぎに突入したいところだが、時間がないのでそうも行かない。
『先ずは、坑道の中を改修して枝道や、一匹しか通れない通路の先に待伏せできる場所を何箇所も設ける。一気に中に突入できないようにする事と、その狭い通路の背後に隠し通路を設けて、背後からも挟み撃ちできるようにしたりね』
『『『Wooooo!!』』』
『サスガデスMY LORD』
それと、今回渡した武器や魔銀の鉱石を保管しておく場所を宝箱のあったあの分りにくい通路の先の部屋に設置しておく。鉄鉱石や魔鉛は外でも問題ないかな。
『因みに、コボルドって減った分ってまた増えたりするの?』
『ソレナリニハ。デスガ、数年単位デ考エテ頂キタイ』
やっぱ、放置していたのが不味かったよね……でも、今回の件で全滅しなかっただけマシだろう。それに、ゴブリンを討伐して生き残ったコボルドたちは少し体格も良くなり、以前の二足歩行の狼っぽい何かと比べると股下も長くなり、手もふさふさではあるが人間の手に近い形になっているように見える。ヴォルフも一段と体格が良くなった。
『ゴブリン共ヲ倒シタ影響デショウカ』
『そう思う』
坑道内を改修している間に、コボルド達にはゴブリンの死骸を回収するように頼んでおいた。まとめて装備を回収して、使えないものと死体は穴を掘って埋めようかと思うんだよね。
「何か、良いタイミングだったようですね」
「ギリギリセーフだったかもね。ゴブリンの巣でも駆除は出来るけれど、コボルドの鍛冶師たちがいなくなるのはちょっと嫌だもの」
ビルも『大鬼小王』を討伐出来てちょっと嬉しいらしい。




