5-04 コボルドと再会し、私は迫る危機に対応する
5-04 コボルドと再会し、私は迫る危機に対応する
ルベックを旅立った私たちは、馬でメイン川を目指す。メイン川を遡り、魔銀鉱山、メインツを経由してパイエからド=レミ村に向かう。帰りには、トラスブルにも寄るつもりで、出来れば、先生と師匠も誘ってアンヌさんとも会いたいと考えている。
先ずは、魔銀鉱山に立ち寄り、暫くの間の指示をコボルドに出しておく必要がありそうだ。自衛できるくらいには策を考えて上げないとだめかも。
「ヴィーはコボルドたちをどうするつもりですか」
「……手下にしておこうかと思うよ。裏切らない味方は大事だし」
魔物にとって、相手が強いかどうかは大切な要素だ。むしろそれだけではないかとも思う。利で釣られたり、立場でものを言う人間よりも当てになる事があるだろう。それに、コボルドは夜目が効き集団行動も得意である点もプラスの査定になる。ゴブリンやオーガよりはまし、オークと比較すると戦士としての特性は低いが、斥候としては向いている。
「狩人にして魔剣士の貴方にはいい相棒たちかもしれません」
「鍛冶が出来るのもいいのよね。べーメンソードも自給できるといいかなと思うし」
分業による組立のバゼラードタイプは無理にしても、一本の鉄の板から作り出すベーメンソードはコボルドの鍛冶に向いていると思う。主に粗野な雰囲気とか。
あと、吸血鬼を捕縛する『魔銀の鎖』もお願いしたい。
ゴブリンが、地の精霊ノームに『悪霊』が憑りついた成れの果てであるとすると、それと似ているコボルドはノームに『魔狼』の霊が憑りついた者である……らしい。
『魔狼』は狼に『悪霊』が憑りついた魔物であるため、コボルドとゴブリンの差は『狼』の要素の有無による。ゴブリンは王国に多く、帝国や電国にコボルドが多いのは、狼の数が多いか少ないかによるのかもしれない。
魔銀鉱山、隠蔽されているはずの鉱山の入口では、多くのコボルドが慌ただしく出入りをしている。その中の一匹が私の姿に気が付いた。
――― 哨戒任務ってどうなってるの?
『Gya、MY LORD!!』
『コレハ、スバラシイタイミング!!』
コボルドたちが私の到着をとても喜んでいる……コボルドチャンプの『ヴォルグ』を探す。あれに聞くのが最もいいんだろうな。
私の到着を聞いたのか、ヴォルグが坑道の奥から現れた。
『御部沙汰シテオリマス、MY LORD』
『あなたも元気そうで何よりね。それで、この騒ぎはどうしたのかしら?』
ヴォルグは、鉱山にゴブリンが現れたという。その数は少なかったが、『物見』のようでいそいそと後退していったのだという。跡をコボルドたちがつけて行ったところ、百近いゴブリンが集まっており、この鉱山を奪い根城にすると会話していることが聞えたのだという。
『ゴブリンの言葉ってわかるものなの?』
『言ッテイル事ハ分リマセンガ、何ヲ考エテイルノカハ想像デキマス』
何度かの敵の襲撃で、百程いたコボルドたちは今はその数を三十程に減らしている。まさに、絶体絶命の危機であったらしい。
小さな村や塀のない街を襲うゴブリンの行動から、鉱山が狙われていることは推測できるという。コボルドは三十匹ほどで相手が圧倒的なので、坑道内に引きずり込んで漸減作戦で行こうかと打ち合わせをしていたというのである。
『坑道が荒れるわね』
『……シカタアリマセン』
ゴブリン相手に、ツルハシやスコップなどで対決するつもりのようだ。しかし、百もゴブリンがいれば、ホブや上位種のゴブリンも含まれているだろう。正直、無理があるんじゃない? まあ、私がいるから、なんとかするけどね。
「ヴィー、討伐を手伝いますか?」
「コボルド三十匹でゴブリン百匹を討伐したら、ちょっと楽しいかもしれないわね」
せっかくの機会なので、私はコボルドとゴブリン狩りをする事にした。
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コボルドとゴブリンの能力差はさほどない。体格も似ているし、狼の要素以外はほぼ同じだからだ。コボルドの方が腕力・持久力がやや上だが、三倍の差を覆す程ではない。
「先ずは、武器を配るわ」
この時とばかりに、私はお奨めのベーメンソード(中古)を魔法の袋から取り出した。
『コレハ……』
『あげるわ。今回はこれで戦い、自分たちの手で同じものを鍛冶で作れるようになってほしいのよ』
『……ナルホド。一枚ノ板カラデキル剣デスカ……』
並べられたベーメンソードを手に取り、しげしげと見つめるコボルドたち。握りも雑に捲いた縄なので自作できないことはないだろう。この辺の器用さ、集団行動への適性は狼要素の賜物かもしれない。
そういえば、聴覚・嗅覚はコボルドの方がかなり優秀だよね。
剣を手に振り回したり、斬り合う真似事を始めるコボルドたちに注目を促す。
『坑道に立て籠る前に、ゴブリンを漸減する作戦があるわ』
私が関われば、一方的にゴブリンを殺す事も可能だが、それでは私がいないときに困るでしょう。だから、今回はその演習を兼ねてゴブリン討伐を行う事にします!!
コボルドを三隊各十人に分ける事にした。
『ソレデ、三方向カラ攻撃デスカ』
『Wreeeee!!』
ちがうちがう、そうじゃない。
『三段に別れてゴブリンの集団から鉱山までの進む通路上に待伏せをする。最初の隊が戦って適当に負けたふりをして逃げる。二段目の待伏せしている隊の所まで逃げたら、追いかけてきたゴブリンに……これを引っ掛けさせて倒れたところをめった刺しにする。ばらばらに追いかけてくるから、一通り殺したら、三段目の待伏せ場所まで逃げる。三段目以降はその繰り返しね』
『『『Wooooo!!』』』
私は、いくつかの縄なりワイヤーを取り出し、コボルドたちに与える。針金でもいいんだけどね。今後は自作してもらいたい。
逃走経路上に罠を設置するので、逃げてくる味方のコボルドが引っ掛からないように、待伏せ組は隠れている場所が分かるようにしておかないといけない。一人指示する役を道沿いに出しておけばいいかな。
『では、これから『ゴブリンは皆殺しだ』作戦を発動します』
『『『Wooooo!!』』』
コボルドは三隊に別れると、待伏せ場所に移動していく。さて、私も先頭のチームに混ざって暴れようかな。久しぶりに、狼の被り物を使用しなきゃかと思う。
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子供がピクニックに来たかのように、フラフラダラダラと歩き回るゴブリンの群れを発見。私の他に、十匹のコボルドが待ち伏せている。
『合図は任せてちょうだい』
『モチロンデス MY LORD』
ギャッギャッと叫び声をあげながら、周りを良く見ずに進んでくるゴブリン。総数は百程なのだろうが、数匹ずつ塊になって進んでくるのを見ると、幾つかの集団に別れて侵入しているのだろうか。
『剣で狙うのは首。一対でゴブリンに向かう事。互いに背中を護りあうように。私が叫んだら一斉に逃げるわよ』
『『『Wow!!』』』
因みに、ビルは二段目、ヴォルフは三段目にいる。それぞれが、指揮をすることになっているのだよ。
呑気なゴブリンが剣を振り出せば届く位置に現れた。
『今!!』
立ち上がり、剣を一閃しゴブリンの首を刎ね飛ばし、返す切っ先でゴブリンの首を突き刺す。蹴り飛ばし、背後のゴブリンにぶつける。先頭と二段目の集団の間はかなり空いているのか、背後に詰めてくる気配がない。
『Gyaaa!!』
『Wooo!!』
木立の間で、コボルドとゴブリンの死闘が始まる。ゴブリンの粗末なダガーや石の斧、古ぼけた槍と、中古とは言え私が買い求めた鋼の剣では威力が断然異なる。まして、不意打ちを食らった側は混乱している。
次々に倒れるゴブリン、その喧騒を聞きつけた新手が背後に現れる。
『引け!!』
『『『Wow!!』』』
後ろも見ずに、私とコボルド十匹は森の中を一目散に駈出すのである。




