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5-03 公爵からメダルを預かり、私はルベックに戻る

お読みいただきありがとうございます!

5-03 公爵からメダルを預かり、私はルベックに戻る


 吸血鬼に関しては、マクベル大司教座の聖職者とブレンダン公爵領の治安担当者の間で話し合いを行い、先ずは公爵領内での活動の捜査を行う事になるのだという。


 私がもたらした城で回収した資料の中には、司教座・公爵領内の商人の名前も関係者として記載されており、順次聖騎士と騎士団の立ち入り検査が入るという。人間側の協力者を締めあげても、大本が処分されているのであまり効果がないかもしれないが、罪を犯し領民に危害を加えた人間を放置するわけには行かないのだろう。


 バドは当初の予定通り、加護と魔力の操作の習熟に専念することになった。私たちの冒険は「犬も歩けば棒に当たる」的な偶然の積み重ねなので、それに追随できるだけの能力が無いと「死ぬわよ」と真顔で母親に説得され、焦るのは止めたようだ。母の力は偉大だね!!





 さて、ブレンダンを去る際に、公爵から『ブレンダンの身内だと証明するものだ』と再びメダルを授かった。テルスバッハ公からも授かっているので、これで二枚目。夫人の弟さんだよ。


「何かあれば、これを用いてくれ。遠慮はいらぬ。ブレンダンの名を自由に使って構わない」

「……それは畏れ多い事でございます。が、必ずや役立つように致します。お心遣いに感謝いたします閣下」

「うむ、その……義父(Vater)と呼んでくれてもかまわんのだぞ」


 いや、その冗談はバドママだけでお腹いっぱいなので、謹んでお断り申し上げます閣下。


「ヴィーのドレス姿は髪が伸びて一段と美しさが増しましたからね」

「只の村娘の孤児なんだから、魔力って偉大だね」


 魔力のエフェクト効果かも知れない。こんど、先生に聞いてみよう。機会があればね。そういえば、先生もいつも若々しいのは魔力の効果なのだろうか。マジ美魔女。


「ヴィーは吸血鬼退治……なさるおつもりですか?」


 さあ、どうだろう。私は行商人になって、冒険商人になるのが夢だ。国一番とかは考えていないけれど、ド田舎の村に年に一度現れるみたいな、そんな商売をして、楽しみにされる商人になりたい。


 ド=レミ村にも祭りや春先に決まってきてくれる行商人たちがいてさ、私は何も買えるわけないんだけれど、横で話を聞いたりするの、楽しみにしていた。荷造りを手伝ったときには、ちょっとした髪飾りとか……くれるおじさんとかいて、凄くうれしかったことを思い出す。


――― 私が売るのは塩と武器だけどね☆


「吸血鬼って人の多いところに潜んでいるのよね」

「そうですね。でないと、人が死んだり消えたりすると目立ちますから」

「じゃあ、多分何もしないかな。私が行商をする村に現れれば、駆除するかもしれないけれど」

「……駆除……」


 だって、『血を吸う』ってだけならダニとか蚊とかと同じじゃない? そういう下等生物は存在するし、なんか生きている理由があるんでしょ。気に入らないからって、片っ端から殺すのは無理じゃない。自分の血を吸いに来たり、自分のテリトリーをウロチョロしていれば……それはブチっと潰すよ。気持ち悪いけどね。


「行方不明や行き倒れは珍しくもありませんから、吸血鬼がいるとかいない関係ありませんものね」


 その通りです。冒険者として依頼の範囲で何かをするのはありだけど、気になるからって何でも首を突っ込むのは違うと思う。公爵閣下もそのあたりわかってるから、「何かあれば名前を使え」って言ったんだと思う。そこで、自分の名前で動けるなら、見逃さないで欲しいって程度だと思う。為政者としては間違っていないよね。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 ルベックに戻る最中、私とビルは二人きりで話をする機会も少なくない。馬車は新しい馬車も襤褸馬車も収納し、騎乗で移動する。


「ビル、あなたは吸血鬼についてどのくらい知っているのかしら」

「少なくともここ二百年位の事は分かりません。ですが、原初の吸血鬼と聖王国の吸血鬼に関しては多少知見があります」


 ビル曰く、『吸血鬼』というのは地の精霊が多くの悪霊の影響を受け変化した魔人なのだという。


「カナンの地は係争地でしたので、悪霊が発生しやすいのです。それに、吸血鬼を含め、人を操る魔物が暗躍しやすい歴史を持ちます」


 人が多い場所、尚且つ争いも多い場所であれば吸血鬼の活動は見つかりにくいし、魅了なども活用しやすい。人が多く入れ替わりの多い大都市、カナンの地は大昔から都市の多い場所であるから、その辺りも影響しているのかもしれない。


「聖征の軍にも混ざっていましたし、聖王国が劣勢になってからはサラセンに紛れ込んでいる者も少なくありません」


 但し、戦に積極的に混ざるのは新人吸血鬼……手足となって働く者たちが多く、真祖・始祖と呼ばれる魔神や、その輩として長く仕える『貴種』『支配種』と呼ばれる魔人の域に達している長命な者は表に現れる事はないのだという。


「一度、ド=レミ村に戻ろうかと思うの」


 私は、旅に出て二年少々、冒険者としても星三となり何とかやっていける自信が出てきたこともあり、先生と師匠に顔を見せに行こうかと考えていた。そこで聞きたいのは、私の魔銀剣の紋章や、私の生まれについて知っている事で今なら教えられることがないか聞こうと考えていた。


 それに、星四の冒険者である先生たちなら、吸血鬼の最近(といっても冒険者を引退する前までのことだけど)の事も知っているのではないかと思うんだよね。トラスブルでアンヌ姐さんにもあってみたいし。


「それに、ビルの事も紹介したいんだ。旅の仲間だしね」

「それは嬉しいですね。あなたを育てた人たちにもあってみたいものです」


 それと、ド=レミ村の近況も知りたい気もする。義兄さんがどうなったのか……なんてことも気にならないわけじゃない。


「では、ルベックに戻り次第、黄金蝙蝠商会に話をして、暫く手伝えないと伝えなければですね」


 流石に、オーガの傭兵団を討伐した行商人がウロウロしていると知れば、盗賊もそれほどでないんじゃないかな?


 ということで、私は久しぶりに先生と師匠に会いに行くことに決めた。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 ルベックに戻り、黄金蝙蝠商会に暫くこの街を離れることを告げる。


「そうか、いままで色々助かった。また、戻ってきたら声をかけてくれ」

「はい。わがまま言ってすいません」


 ベックのおっさんは「行商もするのか」と聞いてくれた。


「塩漬け持っていくか?」


 私は、ビータのところとゲイン修道会、師匠と先生、アンヌさん、シスター・テレジアにそれぞれ渡そうかと考えていると伝える。


「なら、その数持っていきな。タダでいい」

「いえ、お金は『良いって。それで気に入ってくれたなら、オリヴィのお客になってもらって、ウチから仕入れてくれればいい』……お言葉に甘えさせてもらいます」

「おう、仲間の命も助けてもらって、その分の礼も兼ねている」

「魚の塩漬け五樽というのは、随分と安い命ですね!!」

「じゃ、好きなだけ持ってけ!!!」


 冗談ですよ冗談。おっちゃんたちにも別れを告げる。次の配送の時に、バドに渡してもらうよう、手紙を預けることにした。中身は、吸血鬼のことを調べるために引退した高位冒険者の知り合いを訪ねるので、暫く訪問する事が出来ないと書いてある。


 まあ、一ケ月別行動と伝えてあったのが、さらに半年くらいは伸びそうだが、そもそも聖騎士なんだから、教会に戻ってお務めを果たしてもらいたい。


「バドは連れて行かなくていいのですか?」

「時間がかかるから今回は止めておこうかと思うのね。それに、それほど親しいわけじゃないでしょ?」


 ド=レミ村にバドを連れて行けば、また面倒な説明をしなければいかなくなるじゃない。ビルは「冒険者仲間」で通るけど、バドは御曹司だしね。実際、ビルはイーフリートなので、先生たちには説明しなければならないかなともおもう。


「それと、一度、コボルドたちと会っておいた方が良いでしょうね」

「……すっかり忘れてた。それもそうだね」


 なんだか、すっかり過去の事になっているんだけど、別れてまだ二月と経っていない気がする。それと、あの鉱山ももう少し整理整頓した方が良いと思うんだ。


 鍛冶の道具も整えて上げて、魔銀と鉄鉱石をちゃんと掘れるようにして、その鉄鉱石で自前の武器を作るというところまでは面倒を見たいかな。


 穴掘るだけより、鍛冶をする方が魔物としての進化も進むだろうしね。いつか、力を借りる時に、きちんと武装して訓練されたコボルドの軍団として引率したいとか思ったりするんだよ。


 あいつらも、何となく魔物の本能で活動しているだけだから、明確に目標とか決めた方が良いと思うんだよね。数が増えれば、別の場所にも鉱山を任せられるかもしれないし……まあ、不味いんだけど本質的に。


 本来、鉱山って権利を持っている貴族とか商人のものだから。コボルドは占有しているだけだから。いつか取り返しに来るかもしれない。今までは、魔銀がもう出ない廃鉱山扱いだったから問題なかったみたいだけど。


 とにかく、ド=レミ村に向かう途中で、魔銀鉱山には一度足を向けよう。






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『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


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