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4-20 魔人は剣となり、私はオーガを殲滅する

誤字訂正・ブクマ・評価・感想をありがとうございます!

4-20 魔人は剣となり、私はオーガを殲滅する


 ビルが剣となったので、久しぶりに……いやまともな討伐で使用するのは初めてかも。


『ヴィー初めての共同作業になりますね』

「……夢が無いからやめてその言い回し」


 いくら理想の騎士の生き写しとは言え、生身の人間じゃないのは嫌だ。それに、もう騎士はこりごりなんだよ。ごめんよビル。


『サラセンの将軍とか、大富豪の商人にもなれますよ』

「私は見た目じゃなくて、その地位や財産が欲しいのよ」


 見た目には特にこだわりはない。まあ、醜いのは困るけれど平凡でいいや。と、脳内婚活に区切りを入れ、私は炎を纏ったバスタード・ソードサイズの剣を手にする。


「選択肢は二つ、今すぐこの炎の剣に焼かれて死ぬか、後でじっくり殺されるかだよ」

「ふざけるな!! その小娘、やっておしまい!!」


 右手を上げて生き残りのオーガと相棒のバーサーク吸血鬼に指示を出すおばさん……姐さん。でも、こいつ……魔術師だよね。


 姐さんは私の体を拘束するように、何やら地面から縄状の物を生み出し、手足を絡めとる。


「いまだ!!」

『Ureeeee!!』


 駈け寄るオーガ兵に、私は直前まで動きを止めておき、一気に身体能力を拡張させる。


土槍(terrahasta)

尖鋭(burnishen)


 突進するオーガ兵が「岩の槍」で一瞬にして串刺しになる。前のオーガの串刺しを見て動きが止まる奴らには……


泥濘(limuspalus)


 膝から腿の付け根までが地面にずぶずぶと沈み込んでいく。足を動かそうにも、泥の中で碌に動き回ることも出来ない。


疾風(sturm)


 泥に足を取られる事無く、私は宙を蹴り、慌てるオーガの首を次々に刎ね飛ばし、その胴と頭が炎で焼かれていく。


「回収するのが嫌になるわね」

『確認作業も嫌でしょうね』


 そこまで冒険者ギルドに配慮する必要を私は感じない。


「なっ、えっ」

「「「姐さん!!」」」


 姐さん……魔術師と対戦したことがない? いや、魔剣士かな。私は詠唱省略で魔力でゴリ押しの瞬発の呪文を唱えながら剣を振るえるから、対応策が無いのかもしれない。

 詠唱に時間が掛かれば、傭兵が倒すし、素早い動きの剣士や騎士は姐さんが拘束して傭兵が嬲り殺すという役割分担だったのかもしれない。


『まあ、我主は規格外ですからね。私が従うくらいには優秀です』


 自己評価の高い魔剣がウザイ。





 吸血首領は、完全に興奮状態で既に相方の魔女? 魔術師の吸血鬼の話が耳に入らないほど興奮している。


『乙女eeeeeeeee!!!!』


 目が血走り、口が裂け犬歯剥き出し、更に指先の爪が鈎状に伸びており、口からは涎が泡となって迸る。怖い怖い怖い怖い!!!!


『どうします。近寄って勝負しますか』


 ビル、分かってて言ってるでしょう。


 ビルを地面に突き刺し、私は自分の魔銀ヴォージェを魔法の袋から引き出す。


土槍(terrahasta)

尖鋭(burnishen)

泥濘(limuspalus)

疾風(sturm)


 吸血鬼の周りに土の槍を作り出し、即硬化。動きを止めるために足元を更に泥濘化し、自分自身に風を纏わせる。

 

 ただでさえ食人でオーガ化し判断力が低下していた傭兵の首領は、吸血鬼となり狂化まで発動していたので完全に理性を弾き飛ばし暴れ、周りの石槍をへし折り、自らの体を傷つけている。


「ふん!」


 魔力マシマシにこめたヴォージェでそのへし折った石槍から剥き出しになった上半身に左右からの斬撃、痛みで動きが一瞬止まったところを、頭から唐竹割にヴォージェを叩き込む。


『Ge!!!eeeeeeeeee……』


 プシュプシュと頭の血液が沸騰するように湯気が立ち上がり、どうやら、私の魔力で吸血鬼の脳が完全に破壊されたようだ。今までにない現象。叩きのめした本人もビックリ。


 残るは、姐さんただ一人。


「ちょ、ちょっとお待ち。あんたら何もんなんだい!!」

「通りすがりの星三ドライの冒険者ですよー」


 人化したビルがいそいそと背後で服を着直している気配がする。乙女は決して振り返らない。姐さんはチラ見している。


「ちょ、あんたたち、取引しないかい?」

「しない」

「するわけないですね」

「そ、そんなこと言わないで……ねっ♡」


 パシッと何かを弾く音がする。効くわけないじゃない。


「あたしの『魅了』が弾かれたってのかい!!」

「無理ですよ、ヴィーは魔術もかなり高位の物まで習得していますから。あなたの魔術はかなり原初的な物ですね『魔女』さん」

「……っ……」


 ビルの問いかけに言い返せない魔女。『原初的』ってどういう意味なの?


「ああ、難しく考えないでください。あなたが師から教わった『魔術』は体系的であり、相反する効果も考慮したり、異なる精霊の魔術を組合せたり、魔力の消費量も最適化されている純度の高い物です。彼女のそれは、どちらかというと、特定の加護を持つ者が、代々経験則を積み重ねた中で伝えられたもので、無駄や不備が多いのです」


 なるほど。無詠唱でちょっといいかもと思っていたけれど……そういう使い勝手が良くないものなら無理して聞き出さなくてもいいか。


「それに、ヴィーなら見ただけで真似する事は可能です」

「何故に?」

「『精霊』の加護の親和性が高いからです。思いが伝わる伝達率が高いと思ってください」


 なるほど。周りの精霊さんに頻繁に魔力を授与しているから、その分コミュニケーションレベルが上がって以心伝心なわけだ。それは良いことを聞いた。じゃあ、例えば……


「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の鎖で敵を捕えよ……『土縄(limitatio)


 おっ、姐さんを土で出来た魔力の帯が絡んで拘束し始めました☆ じゃさ、


「風の精霊シルフよ我が働きかけに応え、我の敵を抑え込め……『(syl)(coercitio)』」


 凄い風圧で、姐さんが面白い顔になっています。これ、尋問とかの時に使うと面白いかも。呼吸困難になりそうだけどね。


「……ヴィー 吸血鬼も一応呼吸するようです」

「へー 心臓とか動いているのかな。呼吸はどうなっているんだろうね?」


 段々顔色が面白くなってきたので、残念ながらここで終了です。


『Ghahahahaha……ナニシヤガル!!』

「化けの皮は剥がれていますよ姐さん!」


 はっ、とした顔をしたが時すでに遅し……今までの年増美女の顔が一気に老け顔になっている。


『クソッ、ヤクタタズノ人喰ドモガアァァアァァ!!』


 いやいや、今まで姐さん姐さん言って慕ってくれてたじゃん。多分、自分で集めなくても餌になる人間集めてくれてたんじゃない? 死んだ途端に役立たず扱いってやっぱ人の心がないよね。流石吸血『鬼』です。自己中は良くない。


「で、どうする? 手下の所に送る……ってわけにもいかないねビル」

「ええ、この吸血鬼がどこから来たのか……尋問する必要があるでしょう。あの街じゃ、手に負えませんね」

「やっぱ、公爵家にお願いするしかないかな」

「あそこなら、聖騎士と聖女がいますから……何とでもなりますよ」

『セ……聖女……ヤ、ヤメロoooooooo  !!!!』


 うん、確か、聖水ってやばいんだよね☆ 脳みそ融けちゃうかもねー首領の吸血鬼みたいに。


「他人の嫌がる事を進んでやらないとね」

「まあ、この場合は吸血鬼の嫌がる事ですけどね」

『ソウハイクカ!!』


 ババア……姐さんが逃げようとするけど……それは無理!!


風壁(sylphwand)

風壁(sylphwand)

風壁(sylphwand)

(syl)(coercitio)

土縄(limitatio)


 風の壁で行く手を阻止し、風の圧力で地面に叩き落し、そして魔力の帯で地面に縫い付ける。さて、目は魔眼があるから潰して、腕もいらないよね!!





【作者からのお願い】


 続編も読む!と思ってくださったら、下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。よろしくお願いいたします!


ヴィーの友人ビータとプルの本作スピンオフのお話。


「不埒な婚約者に失踪され、実家を出される私は仕事探しに街へ出る~ 『就活乙女の冒険譚』」


 もよろしくお願いします。下のバナーから移動できるようになるので、よろしければそちらもご一読ください。


本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。

『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える : https://book1.adouzi.eu.org/n6905fx/

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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


― 新着の感想 ―
吸血鬼とは言っても、多数の蝙蝠に分離して逃げる…ような器用な真似はできないんですね 十字架、銀のナイフ、ニンニクなどの弱点もなさそうです 聖水は効果あり?
[良い点] 今回も素早い対応、的確な選択、明確な発想で新規案件を立案し実行し反省改良選択…とホントにすごいですねぇヴィーちゃん。 顔より金取るところもよいところですね!
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